370.進路について
イセルナーレの王都は温暖な気候である。2月の終わりには寒さも和らいで、春めいた雰囲気が街を覆ってきた。
エミリアは大学講師をしながら、魔術ギルドで仕事も受ける日々。
ロダンへした返事から、シャレスの件について特に進展はなかった。
ただ、その日。
ひとつだけ……変化といえるものがあった。
後期もなんとか慣れてきた、2月末。ルーン消去の講義終わりにエミリアはキャレシーに呼びとめられた。
「ちょっといいかな、センセー」
「ええ、どうぞ」
1年生はこの時期、何かと大変である。休み明けで頭がボケていたり、寮生活の者は精神的にキていたり。
(……キャレシーも、まさか?)
エミリアのウォリス時代。貴族学院へはウォリス王都の屋敷から通っていた。
なので大丈夫だったが、精神的にアレコレしていた人はちょいちょいいた。
背を伸ばしてキャレシーに向き直る。キャレシーは真剣な眼差しだった。
「相談があるんだ……」
「私で答えられることは何でも答えるわ」
「……あたし、うーん……迷っているんだけど」
言いよどむキャレシーに対して、エミリアは優しく見守る。
先生である以上、そういう姿勢がまず大切なはずだ。
「ちょっと進路で悩んでいて……」
「ええ、あなたには色んな可能性があると思う。悩むのは当然よ」
「それで――うん、今まで考えたこともなかったんだけど、騎士とかは……どうなんだろう?」
去年の終わり、キャレシーはロダンと試し合いを行っていた。
そこでキャレシーは生体ルーンの片鱗を見せて、ロダンをも驚かせたのだ。
きっとだからなのだろう。
あるいは、少しわかる気がした。
エミリアの見立てが間違っていなければ。
「答えづらかったらいいんだけれど、ガネットのことも関係するのかしら?」
「…………」
キャレシーがほんのわずか、頷いた。
「よくわかったね」
「色々とそこでも悩んでいるようだったから」
キャレシーは迷っている。
非貴族系でありながら学年でもトップクラスに確かな才能と知性を持つキャレシー。
一方、古い地方貴族で何もかも……資産も才能も努力も全部あるガネット。
お似合いのようでいて、難しさはわかる。
(私も似たようなものだしね)
ウォリスの元公爵夫人とイセルナーレでも最上位の門閥貴族。やはり難しさは否めない。
「これは私の一意見として聞いてほしいんだけど……決して、そうしなさいというわけではなくて」
「うん」
「ガネットの為に騎士を目指すというのなら、あまりお勧めはしないわ。目的を外に置くのは、目的がなくなっちゃった時が辛くなる」
王都守護騎士団は伝統と格式があり、生半可なことではつとまらない。
他人をモチベーションにするには危険なように思えた。
「だけどガネットを置いても、あなたが騎士を望むなら――とても良いと思う」
「あたしは……」
キャレシーが軽く息を吐いた。
「将来のことはあんまり考えたことがなかった。まぁ、大学の勉強をやってればなんとかなるかなって」
「それはその通りね」
イセルナーレ魔術大学を優秀な成績で卒業すれば引く手あまた。進路にはまず困らないだろう。
「だけど……騎士と言われて、それは悪くないかもって。貴族ってわけじゃないし、実力主義なんでしょ?」
「ええ、かなり」
「試してみたい。ガネットのことは――少し関係あるけれど、私自身がどこまで行けるのか。やってみたい」
キャレシーの瞳には、意志と力があった。
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