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「大体、あのニヤハの監視から逃れるとかどうやったんだよ?いやそもそもアイツがトイレの位置を把握していないのが悪いんだけどよ」


 こんこんと。

 スーは静かに、ザハからの説教を受けていた。


「相談しずらいかもしれないし、まだそこまで話をしたことがあるわけじゃない。俺がいない時にどう過ごしてたかは知らんが、お前のことを邪険に扱う奴は一人もいねぇはずだぜ」


 スーはただ、頷くことしかできない。

 恐る恐る服を握る手を強めると、ザハは仕方なさそうにため息を吐いた。


「でもま、俺の引継ぎも甘かったわ。それに関しては俺が全面的に悪かった。すまねぇな」


 スーが力を強めたのは、彼に対する謝罪の意思があったからではない。


「「「「ピィィィィィィィィィィィィイ!!」」」」


 ザハは帰路につきながら、スーを叱っていた。

 無数の『ツガイガシラ』の群れに襲われながら、だ。


「ところでだが、他に誰かあったか?例えば、やたら背の低い爺さんとか顔を見なかったか?」

「…………う、ううん。みなかったと、おもう」


 いくらスーでも、置かれている状況くらいは判断がつく。

 今襲い掛かってきている怪物は、もの凄いスピードで動いている。

 すれ違うだけでひゅんと胸が痛くなるのだから、当たったら大変なことになることも分かる。


 だというのに。


「そうか。メツバに会いに行く前に顔を出しとけって言っといたんだが、都合がつかなかったんかもな」


 ザハはまるでそれを、歩いている人を躱すくらいの気軽さで避けていた。

 しかも、手に持つ武器を振るわずに、だ。


「いやな、古い付き合いの鍛冶師がいるんだが、その人が物知りなんだわ。お前の魔眼のことも何か知ってるかもなって思ったんだが。後で一緒に行くか」


 するり、するり、と。

 ザハは一切の減速も加速もせず、ただ歩くだけで躱していた。

 まるでそれは、最初から当たらないことを知っているかのような足取りだった。


(…………すごい)

 

 ザハの『鑑定』の権能の真価は、まさにここにあった。


 例えば、硬く固められた地面があるとする。

 そのままの地面と、少しだけ掘り起こされた地面では、その価値は同一ではなくなる。


 無論、それは本当に、誰が見ても分からないくらいの、些細な違いかもしれない。

 だが、新品と変わらない中古が、新品と同じ価値ではないように。

 価値というものは、極めて小さな物事に敏感だ。


「とにかく、だ。あの婆さんが何を言うかだよな。一緒に謝ってやるから、スーもちゃんとごめんなさいって言うんだぞ」

「…………う、うん。わかりました」

「なんで敬語なんだよ」


 くすりと笑うザハには、力みなんてものは存在しない。

 彼にとって、砲弾並みの速度で突っ込んでくるだけの脅威なんて、全く持って怖くない。

 

 ただ、価値の変わらない箇所を、指でなぞるように歩くだけでいい。

 たったそれだけで、敵が勝手に自分を避けるのだから。

 

 五感に一切頼らない、未来予知に近い危険予測と危機回避。

 戦い以上に、生き延びることにこそ活きる才能。


 開拓者、またの名を『慧眼(けいがん)』。

 未踏破領域の侵入に加え、完璧な地図を多数制作した功績から、冒険者たちは彼をそう評価している。


「──────確かに、ザハの野郎は武力ではヴァ―イに劣ってる。それは紛れもない事実だ」


 地上で部下に被害報告を済ませ、今後の対応の指示を出したラフェールが告げた。


「でもね、仮にザハが『巡らぬ岐路』に挑んでたとしたら、アイツはきっと死者を出すことはなかっただろうさ。『鑑定』の権能がある以上、どんな仕掛すらも看破できるからね」


 そしてそれは、他でもないラフェールだからこそ言えること。

 かつて初見殺しの罠に嵌まり、為すすべなく隊員を失ったからこそ言える、冒険者として最も欲する才能である。


「なぁ、葛城(カツラギ) 乃和(ノワ)


 不意のその名前を呼ばれ、キツバは思わず顔を強張らせる。


「さっきから黙って聞いているが、アンタはアイツの強さを信じてないのかい?」

「──────!?」

「勘ぐるのは勝手だが、付くと決めたんなら揺らぐんじゃないよ。アンタの動揺は、そのまま部下たちに伝わる。副隊長ってのは、そういうものだと知ってるだろ?」


 ラフェールの言葉に、キツバはただ項垂れるしかなかった。


(事実だ。少なからず私は、ザハがあの男に負けるかもと考えていた。そして、この騒動のきっかけである後継者の選別理由に言及していた)


 望もうと望まなかろうと、結果だけが事実だ。

 キツバなりに考え行動したことだとしても、傍から見れば己の隊長の実力を疑ったも当然。


 そして、それを言われないと気づけないほどに。

 キツバは内心で恐れ、強がっていた。


「…………知っています。その背中を、誰よりも偉大で優れた背中を、私はすぐ近くで見ていましたので」


 キツバは精霊使いという性質上、他の隊員よりもラフェールの近くにいることが多かった。

 すると必然的に、副隊長の背中を見る機会も多くあった。


 副隊長とは、隊全体を統括し、隊長の背中を守る者。

 キツバが目指したのは、他でもない彼女の後ろ姿だけ。


「不要な詮索でした。それでは、私はこれで」

「どこに行く気だい?」


 ラフェールの問いに、キツバはこう答える。


「我らの隊長の元へ。『フェンリル』の名前を継ぐに相応しい者のところです」


 そして。


「なぁ、スー」

「?どうしたの?」

「帰ったら、何が食べたい?」


 ザハの問いに、スーはこう答えた。


「おむらいす」

「…………ハッ、そんなに気にいったか」

「まことにびみでした」

「そりゃ光栄だ」


 そして二人は地上へと戻る。

 小さく触れたスーの手を、ザハはしっかりと握りしめるのだった。

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本編はこちらです。こちらも覗いて頂けると幸いです
異世界に転生したら最強になって無双できるんじゃないんですか!? 
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