第9話 リオンとアズライール
次の日、朝食にアメリアはいなかった。多くは一緒の時間に朝食を取っていたので、今日いないということは——
朝食を運んできてくれたロートンにアメリアのことを聞いてみた。
「アメリア様は公務で外に出ております」
一度話し合っておきたいと思ったが、今日はだめそうだった。アメリアが公務で外に出てると、帰ってくるのは早くても夕食前になる。朝から今日に予定がつぶれてしまった。
「それと、リオン様。アズライール様からメモを預かっています」
「アズライールさんから?」
俺はロートンからメモを受け取って、二つ折りになっている紙を開いた。
『暇だったら私の部屋に来て』
走り書きの文字が一行だけ書かれていた。これは、お話のお誘いなのだろうか。昨日の今日でまた話せるとは思っていなかったので、気分が昂った。これは朝食を食べたらさっそく向かわなければ。
「そうだ、ロートンやっぱり様付けはやめてもらえないかな、なんかむずむずする」
「かしこまりました、リオン」
「あと、その敬語もね」
「了解です。しかし、リオンも上の立場になったことを自覚すること」
「はい……」
ロートンの対応が変わったことで、ほんとに結婚したことを実感する。ロートンはなるべく前と変わらない対応をしてくれるらしいが、他のメイドなどは完全に目上への対応だった。アメリアに言ってみたら戻してくれるのだろうか。
朝食を食べたところで、ロートンにアズライールの部屋まで案内してもらった。先導するロートンの後ろをついて、屋敷の中を歩いていく。ロートンの手にはトレーが持たれていて、上にはアズライール分の朝食が乗っている。アズライールの部屋はアメリアや俺のように2階にあるのかと思ったが、ロートンが向かったのは反対の地下だった。
「どこに向かってるんですか?」
地下に向かっている、ロートンに不安を覚えた。もしかして、アメリアがいないうちに俺を——なんてことはさすがにないだろうが。
「アズライール様のお部屋だが」
「地下にあるんですか?」
「本人からの希望で」
間違いなく、アズライールの部屋に向かっているらしい。
屋敷の地下に来ること自体が初めてだった。地下に行く階段はエントランスの端に目立たないよう作られていて、上に上がる階段と比べるといくらか質素だ。階段を下りた先にはまず厨房があり、その横が屋敷で働いている人の休憩室になっている。その横を、薄暗い廊下が走っていた。そこをロートンと俺は進んでいく。
本人が希望して、地下に部屋を取っているらしく、今まで屋敷内でアズライールと顔を合わせたことはそれが原因なのだろう。
「着きました、ここがアズライール様の部屋です」
廊下を進んだ先には全く飾り気のない、木の扉があった。おそらく地下に貴族は入らないと考えた作りになっているのだろう。本当にアズライールがいるのかと疑いたくなるくらいだった。そこをロートンがいつもより気持ち強めにノックをする。
「アズライール様、朝食をお持ちしました」
ロートンが扉の向こうに声をかけた。声をかけてからしばらくの間があってから、部屋の中でなにかが崩れる音とパタパタと足音が扉に向かってきた。
「ありがとー!あれ、今日はサラじゃないんだ?」
お礼を言って、アズライールはトレイの上に載っている朝食に手を伸ばした。
「アズライール様、立ちながら食べるのはおやめください」
「ああ、ごめんね。今、お腹ペコペコでさ」
地下の部屋にはアズライール本当にいた。今まで寝ていたのか、右髪が跳ねているし服もダボっとしたパジャマ姿だ。
「それと、リオンもそこに」
「おはようございます」
恐る恐る、ロートンの後ろから顔を出した。昨日は酒が回っていたので臆することなく話していた。しかし、冷静になってみると、あこがれの人と話すのはなかなかに緊張をするものだ。
「ああ!来てくれたんだね」
そんな俺の気負いを吹っ飛ばすかのように、アズライールは歓迎してくれた。そもそも、彼女から誘ってきてくれたので、俺が気負うこともなかったのかもしれない。
「さ、早く入って!」
アズライールに腕をつかまれ、部屋に引き込まれる。
「私はこれで」
「うん、ありがとね」
ロートンは一礼してから、廊下を戻っていった。
「ささ、入って」
「お邪魔します」
アズライールの部屋は物にあふれていた。入り口の近くにはさっき崩したのであろう、本の塔だったものが散らばっている。しかし、物が多いだけで、ごみは落ちてなさそうなのでアズライールの部屋だと知らなければ倉庫と思う人も良そうだ。
「散らかってごめんね」
ここの部屋主はテーブルの上に置かれた資料や小物をどかして、ロートンから受け取った朝食を置く場所をつくった。ついでに、部屋の端から一脚の椅子を取り出して俺の前に置いた。
「これ座っていいよ」
「ありがとうございます」
「ロートンが飲み物もう一セット持ってきてくれたから、多分リオン君の分だと思う」
トレーの上から俺の分のカップを取った。
「あ、私これ着替えてくるね。ちょっと待ってて」
そういって、アズライールは部屋のさらに奥の部屋へ入っていった。別の部屋に行ったとはいえ、貴族の女性としてどうなのだろうか。
少しぎこちない空気を抱えたまま、着替えが終わるのを持った。
「おまたせー、ごめんね、ばたばたで」
「いいえ、こっちも急に来てしまったので、大丈夫ですアズライールさん」
「アズライールさんなんて硬い言葉使わないでよ、だって義理であろうが私は着物お姉さんなんだ、アズとかでお願い」
「分かりました、ではアズで」
今日、俺がロートンに言った言葉がアズライールから俺に対して言われてしまった。硬いことを嫌う気持ちはよくわっかたので、呼び方は変えることにした。
アズライールは自分の用の椅子に座り、朝食を食べ始めた。今日の朝食はパンとサラダに乾燥肉といったシンプルなものだ。それを適当に手を付けて食べていた。
「それで、アズはなぜ俺を呼び出したんです?」
「ああ、それはね」
アズライールは口の手前まで持っていたパンを一旦お皿に戻した。
次もアズとの会話が続きます




