第10話 僕らの役目
「それはね——」
俺を呼んだのは、俺がロートンと戦っているのをたまたま見たらしく、なぜ平民の俺が貴族であるロートンに勝てたのかを聞きたかったらしい。
アズライールの話は要約するとこんな感じだ。実際、話ながらアズライールは同時進行で朝食を取っていたので、話はちょくちょく途切れた。そして、朝食を食べ終わるころにようやく話も終わった。
「俺が、ロートンに勝てた理由ですか」
「そう、勝てた理由も聞きたいけど、ロートンの魔法をよけたとき、リオン君のから体の動きが早くなった気がしたんだ、それを知りたい」
「あの時ですか?」
「良く見えてましたね」
あのとき、中庭にアズライールはいなかった。他に見えるところといったら、屋敷の中からになる。戦っていた場所は中庭でも屋敷からは離れたところだった。
「それは——」
と話をきり、急にアズライールは立ち上がった。部屋の隅に向かうと、賦造作に積まれた木の箱を漁り、少して戻ってきた。手には、眼鏡のようなものを持っていた。
「これがあったからだよ!」
そう自慢げに、アズライールが見せてきたのは——やっぱり眼鏡だった。
「眼鏡ですか?」
「んー、半分正解ってところかな?」
「半分って?」
眼鏡に眼鏡と答えたら、半分正解といわれ俺は悩んだ。さっき、俺とロートンの孫登が見れたのは、これがあったからだと言っていたのを思い出す。
「まさか?」
「まあ、かけてみなって!」
にやりと笑う、アズライールに即されて、眼鏡を手に取る。見た目は普通のメガネだが、
「うわ、ちかっ」
眼鏡をかけた瞬間、アズライールの顔がいきなり近づいてくる。
「ふふん、それは望遠の眼鏡でした」
「確かにこれなら、遠くのものでも見えそうですね」
眼鏡をはずすといつもの世界に戻った。アズライールの顔はいつもと同じ大きさだ。それにしても、眼鏡にしか見えないのに、なぜここまで高機能な望遠機能がついているのだろうか。ルーペよりも小さいのに、望遠機能は段違いだ。
「今度はリオン君のことを教えてくれるかな?」
せかすように、アズライールが言ってくる。俺は眼鏡を机に戻して、あの時の状況とやったことをざっくりと説明した。
「つまり、力を込めたから、あの速度でロートンの魔法をよけることができたと?」
「はい、そうですね」
「リオン君、私が貴族の人見知りボッチニートだとしても、平民の身体機能の知識はあるよ?いささか、あれは、身体機能を超えすぎていたね」
さすがに、だめだったか。
あれは、俺が学校にいた時から長年かけて編み出した、俺のいわば技みたいなやつだ。それをわざわざ、教えるわけにはいかない。といっても、これがなんで出来るのか自分でも分かっていない。それに、そもそものこれをやろうと思ったのは前にいるアズライールの論文が原因だ。
そして、アズライールの期待のまなざしが痛いほどに向けられている。仕方ない。
「分かりました。アズだから、教えますよ」
このままほっておいても、アズライールならすぐに答えを見つけてしまうと思った。だったら、話して助言ともらった方がいいだろう。
「あれは——」
「魔法だね?それも、リオン君オリジナルの」
「ええ、そうです」
もう、気づいていた。
「やっぱりね」
「分かってたら、聞かなくてもよかったじゃないですか?」
「ここからが重要!」
アズライールは人差し指を俺に突き立てる。さっきまでの緩んだ空気から、一転。緊張感のある空間へと変わった。
「まず、なんで自分で魔法を使おうと思ったの?」
「えっと、あの論文読んで人間は少量でも魔力を持っていると見たので」
「そう」
と言い残して、その辺の紙に何やら書き残していく。そして、一通りのことが書けると
「次は——」
と質問が続いた。
質問に答えるのはいいのだが、アズライールが書き込んでいる時間待っているのが辛い。一言もしゃべることができないので、ずっと手持無沙汰が続いた。——でも、こんな感じで、あの論文ができたのかと思うと、辛いばかりではなかった。
そんなことを思って入れたのもせいぜい半日だった。その後も質問は続き、今はそろそろ陽が沈む時間になっている。何度か、帰ろうとしたのだが離してもらえず。トイレにも行けない状況だった。黙々とアズライールは手を動かし、俺は誰か助けてくれと祈っていた。
その時、勢いよく入り口の扉が開かれた。ああ、助けだ!
「おねーちゃーん!平民に農民に仕事は手伝えさせないって、みんなが言ぅぅぅぅ」
願いが通じたのか、部屋に入ってきたのはアメリアだった。それも、堅苦しいイメージから型崩れした、見たことのないアメリアだ。
「あれ?アメリア、帰ってきたんだ」
アズライールは手を止めて、アメリアに顔を向けた。
「アメリア、今日の役場で何かあったのかい?」
「ねー!幹部たちが平民だとだめって言われる!」
部屋に飛び込んできたアメリアはいつもと違っていた。一言でいえば、駄々っ子と言ったところだろうか、姉のアズに飛びつき、愚痴を垂れ流している。二人っきりの時ですら見たことのない、子供なアメリアだった。
「あー、やっぱり?」
「もー、どうしよー、お姉ちゃん」
「アメリア、一旦落ち着こうか、ね、リオン君もいることだし」
「え?」
アメリアはアズから顔を上げ、回りをきょろきょろと見ます。そして、俺と目が合った。アズに俺の存在を教えられて、ようやく俺の存在に気付いたらしい。
「何見てんのよ!見世物じゃないわ!」
赤面しながら、の一言。確かに恥ずかしのは理解できる。俺だって、この二人にお母さんのことを実家ではママと呼んでいることは知られたくない。でも、俺は一応旦那なんだから、睨むのはやめて……
このタイミングで、ようやくトイレに向かうことができた。
わがままな妹が書きたかっただけなのです……
次で第一章が間欠(する予定)です!




