ユリさんの野望
あれから結局、レオナさんが質問をして、マリーが答え、私が一言添えるみたいな流れが続いた。
私の付け足しなんて、どこにでも書いてありそうな平凡なもの。マリーの妙に説得力があるアドバイスには遠く及ばない。
それなのに、レオナさんは私に大変感謝して部屋を出て行った。
マリーも、よかったですね。なんて言って褒めてくれる。
私は複雑でしょうがない。
まぁそんなことはどうでもよくて、レオナさんの本番が気になって仕方ない。
結果は教えてくれるだろうけれど、できることなら見守りたい。
アドバイスできなかった分、何か手助けをしてあげたい。
レオナさんの本気に心を動かされたのと、恋愛下手な仲間意識が私を燃えさせる。
どうしようかなー…。行っちゃう?
ちらりとマリーを見てみる。
「どうしましたか?」
「えと、レオナさん、特別な任務以外にも色々とアプローチかけてみるって意気込んでいたから、気になるなー…なんて」
「…そうですね」
うっ、言葉にしていなくても、ダメですよという警告を感じる。
「ただ…、潜入中はたしかにちょっと心配ですね」
「どうして?」
「潜入捜査をするまでに、ある程度結果が出ている可能性が高いのではないでしょうか。
そうなりますと…大丈夫だとは思いますが、いくらかレオナさんに影響を与えていないかなと」
たしかに、レオナさんに限ってそれは無いと思うが心配になる。
任務に私情は厳禁と言っておきながら、最初から実行ありきで話が進んでいた。
恋は人を盲目にすると言いますが、レオナさん程のプロでもバランスを崩しかけている。
これでもし、レオナさんが何かミスをしてしまったら…。
ごくりと喉が鳴る。
ごめんマリー、危険かもしれないけれど、私もこっそり潜入します。
幸い、話を聞いた限りではイケメンナイツとのデートとも重なっていない。
クノイチとして、影ながら応援したい所存でございます。
「セツナ様、どうかしましたか?」
「ううん、なんでもないよ」
私の決意を察したかのような絶妙なタイミングで話しかけてくる。
なんか、浮気を隠しているような嫌な気持ちにもなってくる。
友達の力になりたいだけなのに、立場上そうできないのがつらいところ。
コンコン
ドアがノックされた。
私が返事をすると、元気な女の人が声がした。
「セツナ様、ユリ=フォクシーです。一言お礼が言いたくて来ました」
お礼?はて、私は何かしたっけ?
とりあえずマリーにドアを開けてもらい、ユリさんに中へ入ってもらった。
「セツナ様のおかげで、ジル様と直接仕事の依頼の話ができました」
少しだけかしこまった感じで、ユリさんが頭を下げる。
「あー、その件でしたか。
えっ?もうジル様とお話しできたんですか?それで、どうなったのですか?」
「はい、条件付きのしぶしぶOKでしたが、なんとか協力していただけることになりました」
ユリさんがはつらつとしている。念願叶ったという様子。
少しだけ関わっていたこともあり、私もうれしくなってくる。
「よかったですね」
「それでなのですが、お時間がある日とかありませんか?」
「えっ?なんででしょうか?」
すると、マリーが私たちの間に割って入ってくる。
「お話し中のところ失礼します。
申し訳ありませんがそういったお話しでしたら、然るべき所を通していただけないでしょうか?
セツナ様は今大変お忙しい身ですので」
今の言い方にはなかなか迫力があった。
もしかしたら、以前私がていよく使われたことで警戒しているのかもしれない。
「もちろんそうさせていただきます。私のような者がこうして直接お話しできるだけでもありがたいことですから」
どこまでそう思っているのかわかりにくい。
そういう意味では一番の大人はユリさんかもしれない。
「ですが、そうできる以上、先にセツナ様にお話しするのが一番とも思います。
私からご説明した方がもっともわかりやすいですから」
それはどうだろう?ちょっと強引な気もする。
「マリー、せっかくだし、話だけでも聞かない?」
とりあえず、ここでは答えを出さないということでマリーに納得してもらった。
少々不服そうだったが、マリーは黙って身を引く。
ユリさんがマリーの様子を伺いつつ、話し始める。
「それでですねセツナ様、依頼を受けてくださる条件なのですが…」
「は、はい」
「セツナ様が立ち会うことです」
「…はい?」
それが本当にジル様の条件なのか、にわかに信じがたかった。
魔術関係ならまだしも、ユリさんからの仕事の依頼となると違う気がする。
「あの、そういえばユリさんの仕事の依頼ってなんだったんですか?」
私はそもそもの疑問を訪ねる。
「あっ、そういえば言っていませんでしたっけ?」
反応を見た限り、本当に忘れていたようだ。
「ジル様に、私が今まで作った男性服を試着してもらう事です」
「試着ですか。ユリさんからの依頼なので服関連だとは思っていましたが…」
それって仕事なのだろうか?と疑問に思ったが、ファッションモデルみたいなものと考えて、とりあえず納得する。
するとユリさんが内緒話をするように、少し身を寄せて小声になる。
「ここだけの話、ジル様って男性でありながら、どこか女性的な色気もあるじゃないですか?」
たしかに、それはなんとなくわかる。
普段着ているのは魔術関係の服らしいが、女性用と言われても納得できちゃうデザインだったりする。
しかも、やや華奢な体つきに綺麗な肌なので、とても似合っている。
「それまで男性服ってあまり興味なかったんですけれど、ジル様を見てからどうにも創造意欲を掻き立てられてしまって、何着か作ってしまったんですよ」
すごいな、服って一着作るだけでも大変だと思うんだけど。
「それで、作ってしまったからにはちゃんと活かしたい。
だけど、ジル様を想定して作ってしまったから、試着が誰でもいいというわけではない。
ずっとお願いし続けてきて、セツナ様のおかげでついに叶いました」
ユリさんの目がらんらんとしている。
だいぶ長い事断れ続けたことを物語っていた。
そうなると、試着してほしい服がだいぶ溜まっているのではないか?
普段着のジル様かー…、どんな感じになるのかなー?
きっと、なんでも似合うだろうな。
「セツナ様も、色んな姿のジル様を見たいですよね?」
「はい、見たいです!」
あっ、しまった。ついのせられてしまった。
表情は変わっていないが、マリーの目が冷ややかになる。
「ま、まぁそれはさておき、それでどうして私の立ち合いが条件なのでしょう?」
あくまで気持ちに同意しただけという感じを装う。
「んー、それはですねー」
なぜかちょっともったいぶられる。
「どうも私のことを信用していないようですね。中立…なんだったらジル様よりの人に間に入ってもらいたかったんじゃないですか?」
うーむ、本当かなー?
ジル様の性格を考えると、可能な限り誰にも見られたくないと思うのだけれど。
そもそも、なんでOKしたのかも不思議だったりする。
「そういうことですので、それでは然るべき所を通して、正式にお願いをしますので、ご検討お願い致します」
ユリさんはマリーをちらりと見てから、私に頭を下げてお願いした。
「わかりました。ちゃんと考えた上でお答えします」
「はい、それでは失礼します」
ユリさんは丁寧な立ち振る舞いで私の部屋を後にする。
時間にしたらほんのちょっとの間だったのに、少しだけ疲れた。
押しが強い。
服を手にしている時と、そうでない時とでかなり差がある。
マリーが何も言わずに私を見ている。
「えと、マリー?もしかしてダメなの?」
「いいえ、セツナ様も興味があるようですし、時間が合えばよろしいのではないでしょうか?」
「…その割にはちょっと不服そうだけど?」
「………そうかもしれませんね」
意外なことにマリーがそれを認めた。
「ど、どうして?」
マリーは少し言いにくそうにしたが、ちょっと照れつつこう言った。
「おそらく、ユリさんが少し羨ましいのだと思います」
「どうして?」
「それは秘密です」
それ以上は何も言わず、マリーがじっと私のことを見てきた。
何かを私にわかってもらいたいような、そんな感じ。
このちょっとした時間に、予定が二つも増えてしまった。
ただでさえ今は本当に忙しいのに。
でもまっ、なんとかしましょう。
このくらいの忙しさなら、なんてことはないはず。




