ロック様の師匠4
ロック様が立ち上がり、レナさんに手を差し伸べる。
レナさんが手を握ると、ロック様が引き起こしてあげた。
「なんだい?この私に勝てたっていうのに、うれしくないのかい?」
なんとも言えない複雑な顔をしているロック様に、レナさんが笑いかける。
「うれしいはずなんだけどな。師匠は俺のあこ…目標だったから、今日まで鍛え続けてきた」
私は決着が二人に歩み寄っていく。
「あの、二人とも怪我とかないですか?」
「大丈夫だよセツナちゃん、運がいいことにお互い剣が体に当たることはなかった。
ただ…」
レナさんがロック様をちらりと見ると、突然ロック様が膝から崩れ落ちる。
「あっちはもう体力が残っていないみたいだ」
「ぜぇ…ぜぇ…」
ロック様が肩で息をし始める。
氣の強化を解いたことで、今まで負担が全部きているのだろう。
「だ、大丈夫ですか!?」
「平気だ。ちょっと休めば歩ける」
地面に胡坐で座り、剣を突き立てて寄りかかる。
そんな限界ギリギリのロック様を見ながら、レナさんは何かを考えている。
私はこれ以上二人にかける言葉を失っていた。
普通だったらロック様を褒め称えたいのに、どうにもそんな雰囲気ではない。
「ねぇ、セツナちゃん」
「はい」
「今度は、セツナちゃんが私と手合わせしないかい?」
「えっ?」
「はぁ!?」
私とロック様が驚く。
「師匠、いきなりなんだよ?」
「確かに突然だけど、別に不思議なことではないだろ?
目の前にこんな強そうな女の子がいるんだ。同じ女として何もせずに別れるなんてできないねぇ」
ついさっきまで、あれだけの戦いをしているのに、レナさんの闘気はまったく衰えていない。
あと、それとは別の感情が伝わってくる。
挑まれているというより、お願いされている?そんな感じ。
「わかりました」
レナさんがどうしたいのかわからないけれど、私はその挑戦を受けることにした。
レナさんが言う通り、同じ女性としてあんな強さを見せつけられては見過ごせない面がある。
「嬢ちゃん、いいんだぜ別に」
「いいんですロック様、これが私が受けたくて受けました」
レナさんを見ながらそう返すと、ロック様はそれ以上何も言わなかった。
「動きにくそうな服だけど、文句はあるかい?」
「ありません。こんなこともあろうかと、念のため準備しておきましたから」
私はそう言って外出用のドレスを脱ぐと、ユリさん特製の戦闘服になる。
「ひゅー、いいねそれ。私の時代にもほしかったよ」
私の特殊な格好を、レナさんが面白がる。
「剣は私の予備でいいかい。大きさはこれと同じだ」
「はい、それで構いません」
私は剣を受け取り、重さと長さを確認すると、自分なりにしっくりくる構えを取る。
剣を真横にして前で持ち、もう片方の手は後ろに隠す。
「見たこと無い構え、理に適っているようには見えないが、いいプレッシャーじゃないか」
レナさんも、最初と同じ構えをとった。
風の音すら聞こえない静かなひと時。
立ち合いが始まった瞬間。
レナさんが間合いを計ることなく攻めてくる。
無駄が無く、流れるような連撃。それでいて型にはまらない技の数々。
同じルートは一切通らず、先読みがまったく効かない。
だけど、私も受けにばかり回っていられない。
レナさんの剣を弾きつつ、徐々に攻撃的な斬撃に寄せていく。
それにレナさんが対応する。
わざとお互い空振るように仕向け、また一から私の攻勢を組み立てさせてくる。
しかし、それはレナさんも同じこと。
何度も同じ手が通じるほど私は甘い相手ではない。
空振ったなら、その勢いを利用するまで。
剣を振り上げた力を使い、二段蹴りのムーンサルト、からの一回転して再度斬撃。
蹴りこそ当たったが、剣はしっかりガードされてしまう。
それどころか、宙に浮いてしまっている私目掛けて剣を突く。
「風遁の術:木綿凧」
脱力と、氣を使って小さな気流を掴み、私はちょっとだけふわりと浮く。
私はレナさんの剣の上に立ち、首を狙って剣を振る。
が、後ろにバランスを崩されギリギリで当たらない。
レナさんが咄嗟に剣を手放していた。
そして、私の剣を奪いにくる。
そうはさせないと私は剣を上へ放る。
そこから始まったのは、どちらが剣を握るかの殴り合い。
この人、剣だけでなくて格闘技もできるのか。
型としてはボクシングに近い、最短最速で急所を狙ってくる。
手業もクノイチの得意分野である。
力と氣の合わせ技でレナさんの攻撃を捌き、同時に攻撃していく。
剣が落ちてくる。
持ち手が下を向いた時、私とレナさんは同時に右手で剣を握った。
地面にはレナさんが落とした剣もある。
選択肢は多い。だけど、選んでいる余裕は無い。
お互い一瞬にらみ合い、更なる打撃戦を覚悟したその時。
「ははは、あははははははははは!!」
大笑いするロック様の声が響く。
突然の異変に、私とレナさんは立ち合いを中断した。
あまりに楽しそうに笑うものだから、戦う気力が失せていく。
それはレナさんも同じだったようで、いつの間にか、二人で剣を持ったまま棒立ちになっていた。
「わかった、わかったよ師匠。俺が悪かった」
ロック様は笑いを抑えながらそう言う。
「一回勝ったくらいじゃ、俺なんてまだまだだ…そういうことだろ?」
ロック様のあの屈託ない笑顔が戻ってきている。
「まったく、あんな戦いを見せられちゃ、余韻に浸っていた俺が馬鹿みたいじゃないか」
レナさんが剣を離し、私は剣先を地面に置く。
ロック様は足を延ばしてのけ反ると、空を仰いだ。
「師匠、俺の知らない技がたくさんあったぜ。師匠も色んな物を見て、吸収してきたんだな。
…世界は広いな」
ロック様が、初めて私を認めてくれた時と同じことを言った。
雲が薄れ、少しだけ空が明るくなっていく。
それは、まるでロック様の次なる道を照らし始めているようだった。
「いったいなんのことだか?私は別にあんたのためにやり始めたわけじゃないわよ」
レナさんが首を傾げながら言う。
「へへ、そうかよ」
これ以上ロック様は何も追及しなかった。
誰となく帰る準備を始め、私たちは街へと歩き始める。
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街に戻ったらまずはお風呂。
レナさんのお誘いで一緒に入ることになったんだけど、まー綺麗なお体でした。
傷や痣はあちこちにあったけれど、出るところは出て、引き締めるところは引き締まっている。
女子の私でも二度見、三度見してしまうくらい…羨ましかったです。
そんな目で見てしまったものだから、ロック様を鍛えたお礼ということで、一つ秘密のアドバイスをいただきました。今日から実践します。
その後は当然のように酒盛りだった。
昨日の事が早くも噂になっていたようで、お店に入って早々レナさんは常連さん達に歓迎された。
今日はロック様もはしゃいでいて、私は隅で大人しく見ているだけになってしまった。
でもま、見ているだけでも楽しかった。いい歳した大人が馬鹿みたいに騒いでいるのは滑稽で面白い。
たまに私に話しかけてくれる人たちもやさしくて嬉しかった。
長い間騒いだ後、雰囲気は落ち着きを取り戻し、レナさんとロック様が私の席へ戻って来る。
「ごめんねセツナちゃん、ここの連中がみんな気がいい奴ばっかりでさ」
かなり上機嫌な感じでレナさんがからんでくる。
とんでもなくお酒くさかったけれど、なんか色っぽくこられて困惑する。
「やめろ師匠、聖なる巫女に気安く触っているんじゃねぇよ」
そう言ってロック様が、私の顔を撫でようとしたレナさんの手を取る。
「はっ?聖なる巫女だー…?」
レナさんが私の顔をじっと見てくる。
「あー…、そういえば名前が同じだわ。
だけどセツナちゃん、聖なる巫女ってより荒ぶる猛虎って感じじゃない?」
その言葉にロック様が思わず吹き出して笑う。
この感じ、なんだかんだ久しぶりだけど…。
だめだ、やっぱり酔っ払いを好きにはなれそうにありません。
私の不機嫌な顔を見て、レナさんがうそうそと言いながら、ロック様の手を振りほどいて頭を撫でてくる。
不覚にもそれがまんざらではなくて、気が収まってしまった。
「そうだー…、セツナちゃん聖なる巫女なら一つ旅人の気づきを聞いてくれませんかー?」
「はいはい、なんでしょう?」
酔っ払いを敬う気持ちがなくなったので、介抱するような気持ちで話を聞く。
「最近、色んな所で犯罪者が増えているんですよ。
それも、魔法に携わっていた人が結構多くて、前代未聞だとか?
まぁ、魔物が増えていたり、食料が不足していたりあるから、そこまで変な話ではないんだけど…」
魔法に携わっていた人…。
私は、アッシュの実家で遭遇した泥棒のことを思い出す。
「レナさん、その人たちの犯行動機とかって、聞いてませんか?」
「動機?そんなの金が飯に決まっているよ。あっ…、なんか私の動悸もあやしくなってきた…」
なんかオヤジ臭いことを言い残し、レナさんはトイレに消えて行った。
気が付くと、ロック様は机に額を当てて寝てしまっている。
………。
しーらないと。
私は二人を置いて宿屋へ帰った。
まだまだ私には、お酒との縁は無さそうです。




