ロック様の師匠2
ロック様の師匠がお城に来る時まで、がっつりと特訓が続いた。
剣による戦闘訓練はもちろん、私がお城にいるので全員の氣の特訓も挟みつつ、ロック様には身体強化のおまけまで付ける。
それ以外にも基礎トレーニングなどロック様一人でできるメニューも入れて、私には休憩時間を作ってくれていた。
とはいっても、なんか気になって傍にいるんだけどね。
食事もマリーに持ってきてもらい、氣の練習をしているロック様を眺めながら食べた。
本当によくやっている。
無理をしているようで、体を壊さないギリギリを保っている。
間合いと同じで、疲労や痛みも経験を得ないとわからない部分が多い。
そこを踏まえているあたり、師匠がかなり厳しい人だったのではないかと思える。
いったいどんな人なのだろう?
ちょっと緊張するけれど、楽しみだった。
そして当日。
私とロック様は街のはずれに来ていた。
以前、キョウヤ様のお仕事の手伝いをした所を抜け、王国の入り口付近にいるとも言える。
「あの、本当にここでよかったんですか?
せっかく師匠が来てくれるんですから、お城に案内しておもてなしした方がよかったような…」
「前にも言ったがあの人は旅人だ。城にはきっと入りたがらない」
その理由がさっぱりわからなかったが、ロック様の師匠を目にしてようやくわかった。
「あっ、一人こちらへ歩いて来る人がいますね」
「本当か?どこだよ?」
「あっちです」
「はっ?誰も見えない…っていうか、お前には見えているのか。双眼鏡でも入っているみたいだな?」
そ、そんな言い方しなくてもいいじゃん…。
私はむくれながらその人を観察する。
マントとフードで身を覆い、誰が見ても旅人といった姿だった。
顔も隠していて見えないなー…。ちょっと顔を上げてくれな…。
じっと顔を見ていると、その人と視線が合う。
「目が合いました。師匠も目がいいんですね」
「いや、視力なら俺の方がいいくらいだったぞ」
「…えっ?」
じゃあ、さっきのは?たまたま?
見つけるのが早すぎてだいぶ待たされることになったけれど、ついにロック様の師匠に声が届きそうな距離までやってきた。
「師匠ー!ひさしぶりだな、元気にしていたか?」
ロック様のらんらんとした声がした。
なんか、主人の帰りを待っていた犬のようである。
ロック様になつかれている。年上の男性に求めるものではないのはわかっているけれど、ちょっぷり羨ましく思えた。
師匠は何も反応せず、すたすたと歩いている。
目の前まで来ると、ようやく声をかけてくれた。
「本当にひさしいなロック。ずいぶんたくましくなったものだ」
師匠がフードを取り、顔を隠していた布を取る。
ちょっと小柄だなとは思っていたけれど、まさか女の人だとは思わなかった。
旅人というだけあると言うか、髪はごわごわでぼさぼさ、お肌の手入れもしていないようでかさかさ。歳も50歳くらいだろうか、しわも目立ってきている。
そんな格好では、たしかにお城に入るのをためらってしまうかもしれない。
だけどなぜだろう?
汚い格好をしているのに、私はこの人のことを綺麗でかっこいいと感じた。
ロック様のとは違うけれど師匠も獣耳だった。
細長くて、草食動物の耳を思わせる。
「その子は?」
「あぁ、セツナっていうんだ。見た目に騙されるなよ、これでもこいつ…」
突然、気温が急に下がったような感覚があった。
誰かに命を狙われた時に似ている。
それを向けてきたのは、目の前にいる師匠だった。
「たしかに。お前よりもよっぽど強そうだ」
「や、やめてくれよ師匠。ひやっとしたぜ」
ロック様が横で肩を落とす。
「ごめんよ、つい若者を試したくなるのは年寄りの悪いクセだね」
師匠が私に手を差し出す。
「レナ=セリスローザだ。ロックがお世話になっているんじゃないか?よろしく」
私も手を差し出して握手する。
「こちらこそ、お会いしたかったです」
手を放し、ロック様の師匠であるレナさんが笑いかけてくれる。
わー…、この人、超強い。
この世界で出会った人の中で一番、しかもダントツ。
クノイチの中でもこのレベルはなかなかいない。
「それで?セツナちゃんはロックのなんなんだい?まさか嫁ってわけじゃないだろ?」
アッシュの実家でもそうだったけれど、冗談でもそういう風に言われるのは照れるなー…。
そういう風に見えなくもないってことだから、悪い気はしないけど。
「そうだなー、俺の二人目の師匠ってところだ。どうせわかっていたんだろ?」
「まぁね」
再開を喜び合い、私たちは近くの宿屋へと向かう。
ロック様が荷物を全部受け取り、代わりにチェックインを済ませている間に、レナさんは真っすぐお風呂へ入っていった。
けっこう長い時間入っている。
見たところ数日ぶりといった感じなので、何回も洗っているのだろう。
荷物もだいぶ汚れていて、部屋には持ち込まずにフロントに預けるようだ。
さっぱりしたレナさんが出てくる。
シャツと長ズボンを着て、旅人の雰囲気はなくなった。
体は小さく細身。だけど筋肉はちゃんと付いていて、体幹も相当鍛え抜かれている。
あと、この手のタイプの人には珍しく胸が大きめ…。ちょっとだけうらやましい。
「んじゃ、さっそく一杯やろうか」
レナさんが外のお店を指さす。
「師匠、それは…」
「わかっているって、でも明日だ明日。さすがに私も疲れているってーの」
「それならいいんだが」
いつもとは違う調子のロック様。
豪快さでも、師匠の方が一枚上手なのかもしれない。
と思ったのは間違いであった。一枚どころではなかったかもしれない。
お店に入るなり、ここで一番大きいジョッキで一番強いお酒を注文すると、それを一気に飲み干した。
「ひゅー…、さすが王国。いい酒が飲めるねぇ」
近くでごはんを食べていた人たちが思わず目が離せなくなっている。
ロック様も大きいジョッキを半分ほど空けているのに、かわいく見えるくらいだ。
「二日酔いとかやめてくれよ」
「うるさいねー、いつからそんな子になったんだい?」
す、すごい…。あのロック様が子供扱い。
もしかしてだけど、こんな姿を他に見られたくないっていう思いがロック様にもあって、ここで再会していたりしません?
「セツナちゃん、こいつには困らされているだろう?
やりたい事しかやりたがらないからねぇこの子は。説明しても理解できないから苦労したよ」
ま、まぁたしかに…。
ロック様も自覚があるようで少しだけ小さくなる。
「でも、やりたい事にはまっすぐですし、誰にでも平等に接する人柄はとてもいいと思います」
レナさんはお酒を飲むのをやめなかったが、目は私を離さなかった。
「なんだいセツナちゃん、こいつのこと気に入っているのかい?」
「へっ!?」
「やめてくれ師匠、自分には縁がなかったからって、そういうのは無しにしようぜ」
「おっ、こいつ言うようになったじゃないか。今日は楽しめそうだ」
レナさんは楽しそうに笑っている。
「あの、レナさんがロック様に剣を教えていたのって、どのくらいの時なんですか?」
「あー…、どうだったかな?王国の騎士になれる年齢から逆算してー…、三年くらいか?」
「三年…、ロック様はレナさんのことを旅人と言っていましたけれど、その間は一緒に旅をしていたんですか?」
レナさんがお酒のお替りを注文する。
「なんだい、そんなことも話してなかったのかい?」
「いや、話すようなことじゃないだろ」
いやいや、聞きたいですよそういう話。
「よろしい、じゃあセツナちゃんのために、こいつの修業時代の話をしてやろう」
レナさんが少し酔ったような勢いで昔話を始めてくれた。
出会いは孤児院。
疲れ果ててたまたま寄った所に、隅っこで木を相手にパンチやキックの練習をしている子供が一人。
彼は集団に馴染めず、周りもまた彼の素行に困っていた。
強さへの渇望。それを感じ取ったレナさんは幼いロック様を連れていくことになった。
威勢だけが取り柄だった彼には、最初はついて歩くのがやっとの日々。
それでも食らいついて来るロック様を気に入ってしまったレナさんは、柄にもなく三年も連れまわした。
だけど、いつまでもそういうわけにはいかない。ロック様の為にならない。
そう考えたレナさんは、ロック様を騎士団に入れる。
心身共に成長して、いつの間にか丸くなっていたロック様はなんとなくその心中を察し、この王国で長い別れとなった。
そんな心温まるお話を、ジョッキが机に置けなくなるほど並べながら話すレナさん。
それを照れくさそうに聞き、たまに訂正を入れるロック様。
それを私は、いつまでも聞いていたいくらい楽しく聞かせてもらった。
総合評価が100になりました。
評価してくださった方々、本当にありがとうございます。
拙い文章ですが、コツコツ書いてきたかいがありました。
これからもよろしくお願い致します。




