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ロック様の師匠1

お城の裏手には神殿があり、さらに奥へ行くと湖のある小さな森がある。

お城の人たちもよく訪れるようで、道や看板があったりして、お散歩デートにはぴったりな場所。

あいにく今日は曇っているのが残念だが、そのおかげか誰もいない。


私は今、イケメンナイツ二人目とデートをしている。


湖の周りは広い芝生になっていて、私とロック様は見つめ合っている。

お互いすり足で間合いを測り、次の一手を読み合う。

模造剣による模擬戦だが、ロック様はだいぶ本気だ。

氣を覚え、強さに磨きがかかり、初めて会った時よりも格段に強くなっている。

なかなかの圧を感じる。私が相手というだけあっていい緊張感も持っている。

それでいて口元はちょっとだけ緩んでいて、この立ち合いを楽しんでいるようだった。


接近戦において、間合いを見誤ることはほぼ敗北を意味している。

いくら素早くきれいに剣を振れたところで、遠ければ当たらないし、近ければ威力は無くなる。

また、相手の方が間合いが広かった場合、何もできずに終わってしまう。

間合いとはそれほど重要な要素なのに、これを鍛えることが非常に難しい。

天性の勘を持っている人が稀にいるけれど、それでも場数をこなさなければ使い物にはならない。


ロック様はそこらへんをよくわかっている。

ぶっきらぼうで大雑把な性格だが、強者との闘いとなると真逆になる。

繊細。針一本分の隙も見逃すまいと神経を研ぎ澄ませている。

正直な話、それでなぜ大剣を選んだのか不思議なくらいである。


ここまでは褒めるべき点。

もちろん注意点もいくつかある。

今日は特にそれが出てしまっている。


私はわざと一瞬隙を見せて、ロック様が反応したタイミングで攻める。

一撃、二撃、三撃と攻撃をして、ロック様はそれをすべて受けきる。


「この!」


劣勢と判断したロック様は、剣を短く持って反撃し、一旦距離を取ろうとする。

しかし、その行動は私が完全に読み切っている。

短く持った分威力が小さくなったところを、さらに間合いを詰めて勢いを殺す。

剣でロック様の一撃を受けると、柄で腹部を殴打する。

ロック様は腹筋を固めて耐えるが、その間に私の左手がロック様の首を掴む。

そして一瞬だけ殺気を放つ。


「降参だ!!」


お互い決着が付いた状態で静止から、ゆっくりと離れる。


「ふぅ…」


一息つく。ロック様くらいの実力者になるとさすがに油断する暇なんてない。


「だー!だめだ、勝てねー…」


ロック様は剣を放り出して、芝生に寝転んだ。

大の大人がすることではないが、ワイルドな見た目と獣耳は大地との親和性が高い。


「私相手ではしかたないかもしれませんが、少し慎重になり過ぎですよ。

ロック様って、魔物相手にはガンガン行くのに、人が相手だと変わってしまうんですね」


「…そりゃな、人間が一番何をしてくるかわからねぇじゃないか」


「まぁ、そうかもしれませんけど」


湖に住んでいる魚がチャポンと跳ねる。

熱帯魚みたいなきれいな魚だった。

私は波紋がなくなるまで、その様子を眺める。


「……わりぃな」


ロック様が突然謝ってくる。


「なんですか?、急に?」


「いや、さっきは戦いでもお互いを知れるだろ…なんて言っちまったが、本当は…なんだ、その…デートってやつをしたかったんだろ?」


そんな風に言われると恥ずかしくなる。

それだと私がデートをせがんでいるみたいじゃない?…ん?もしかしてそうなの?


「ど、どうなんでしょう?デートって人それぞれですから、これはこれでありと言いますか…」


ロック様とはこうなるんじゃないかと、ちょっとだけ予想できていた。

でも、期待しちゃうよね。

ロック様のようなタイプは今まで身近にいなかったから、大人の男性の遊びを少し体験できるのでないかと思ってしまっていた。


「とはいえ、俺は剣と酒しか知らないからな。勘弁してくれや」


へへっと笑いながら、ロック様は立ち上がる。


「それはいいんですけれど…まぁ、この際少しだけ言わせてもらいますと、何も一日中やらなくてもよくないですか?…その、ちょっと遊んだ後とかでも…」


丸一日訓練、しかも数日間だなんて、クノイチでも滅多にやらない。

しかも今回は戦闘訓練だけである。正直、非効率と思わざる負えない。


「まぁな、一応オズワルドの旦那には相談したんだぜ?

俺はこうしたいんだけど、実際のところどうなの?ってな。

そしたら、問題ありませんよ…だとさ」


むぅ、肝心な事だとちゃんと確認を取るところが偉い。

しかも相手がオズワルド様となると、何か確信があって言っていると思えてしまう。


でもでも、やっぱりちょっとさびしいなぁ…。


「あー、わかった。わかったから、そんなつまんなそうな顔をしないでくれ」


少し本音を出したせいか、うっかり感情を隠すのを忘れていた。


「…ったく、たまにそういう普通っぽいことをされるとまいるぜ」


「えっ?なんですか?」


本当は聞こえていたのだけれど、相手が小声でつぶやいていると反射的に聞いてしまう。


「なんでもねぇよ」


ロック様、なんか照れている?

普通っぽいって、どういう意味だったのだろうか?


「最終日には俺の行きつけの店に連れて行ってやるよ。もちろん奢りだ。

酒が飲めないって聞いているけど、飯もうまいからいいだろ?

俺ができるそれっぽいことなんて、こんなもんだけどな」


ロック様からのせいいっぱいのお誘い。

色気があるようなものではないけれど、獣耳の裏を掻きながら照れくさそうにしている姿に誠意を感じた。

なにより、アッシュから話を聞いて興味があった場所。

二人っきりだから飲み会というやつではないけれど、それはそれで良い。


「わかりました。それを楽しみにどんどん鍛えていきましょう」


ご褒美があれば、人間のやる気なんて簡単に上がるものだ。


「へへ、そうこなくっちゃな」


ロック様は剣を握り、小休憩が終わろうとしていた。


「あっ、一つ聞いてもいいですか?」


「なんだよ?」


構えようとしていた剣を、しかたなく下に向けるロック様。


「ずっと気になっていたんですけど、ロック様は今、何かに焦っていたりします?」


「なんだよ、それ?」


「いや、なんかいつもとちょっと違うんですよね。やる気があると言えば聞こえはいいんですけれど、ちょっとから回っているというか…」


ロック様が少し難しい顔をして、すぐに苦笑した。


「さすがというか、嬢ちゃんには隠し事もできないのか」


ちょっとだけ嫌味っぽく聞こえて、思わず眉をひそめる。

隠し事を暴くのもクノイチの使命なので、職業病みたいなところがあるからしょうがない。


「別に隠していたわけじゃないんだがな…」


ロック様から完全に戦う意志が無くなる。

それはちょっと話が長くなることを意味していた。


「実は、四日後に俺の師匠が来るんだ」


「ロック様の…師匠」


そういえば、セリスローザ流とか以前言っていたな。

自己流に見えたけど、根っこには基本があって、それを教えてくれていた人がいたのだ。


「師匠かー…、どんな人なんですか?」


「そうだなー…、おっかなくて、当時の俺じゃどのくらい強いのか見当もつかない程強かった。

…まぁ、そんなことはどうでもよくて、俺は、いい機会だから師匠に決闘を申し込みたいんだ」


「け、決闘ですか!?」


「そんな驚くことか?別に殺し合いをするって意味じゃねぇぞ。

あの人はずっと旅をしているような人でな、今度はいつ会えるかわからねぇんだ。

だから、俺がどのくらい近づけたか知りたいんだ」


そう言うと、ロック様の目に闘志が燃える。

師匠と呼んで尊敬しているだけあり、きっと目標にしているのだろう。

それにもしかしたら、師匠に自分の成長を見てほしいっていういじらしい思いもあるのかもしれない。


「ちょうど私もいるものだから、可能な限り調整したいと?」


「そういうことだ、すまんな」


なんといいますか、巡り合わせとでも言いましょうか。

またもデートとは言えない事になってきたけれど、ロック様の師匠とも交わるこの数日は、ロック様の原点を知れる、私にとってもいい機会なのかもしれない。

これで30万文字を超え、書き始めて約半年が経ちました。

ここまでよんでいただき、本当にありがとうございます。

自分でもグダグダしてしまったなと思うエピソードもありましたが、話も折り返しに入っているので最後まで頑張っていきたいと思います。


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