氣で強化する
お城の中、とある一室。
ここに、まるで乙女ゲームのメインキャラクターみたいな人達が再び集合している。
並の女子なら緊張のあまり10分もそこにいられないだろう。
そんな空間に、良くも悪くも並ではない女子である私がどんとみんなの前に立っている。
「では、今日から本格的に氣の特訓を開始したいと思います」
本当はアッシュとのデート前に始めておきたかったのだが、キョウヤ様とロック様がフォローしてくれたおかげで、段階を一つ繰り上げることができている。
少し前にオズワルド様と双子の氣を確認させてもらうと、見事できるようになっていた。
それは、キョウヤ様たちが氣を他人へ流すことができるようになっていることを意味するので、かなりの上達ぶりでもある。
「やってもらおうと思っているのは、氣を使った"強化"です。
オズワルド様たちにはちょっと早いですが、感覚だけでも掴んでもらえたらと思っています」
「強化と言いますと、やはり身体能力の向上ということでしょうか?」
キョウヤ様がさっそく質問してくる。
「今の段階ではそれを目指しますが、それを基に他のモノを強化することに繋がっていきます」
「剣を強くできるってことか」
ロック様が率直な感想を述べる。
「その通りですが、それだけではありません。
小さい火種を炎にしたり、自分の息を突風にしたりするのが強化の応用になります」
「現象の増幅も強化に含まれるというわけか」
「おい、それじゃやっていることが魔法と変わらなくないか?」
「いや、無から現象は発生させられる魔法とは少し異なると思っている。
そういえば手から炎を出してみせたことがあったな、あれは火種を用意してから強化したという解釈でいいのか?」
ジル様の理解に、ボガードが魔法と似ていることを指摘する。
それに対してジル様が異なる点を挙げて、疑問に思ったことを私に確認してきた。
「はい、火花とか身一つで出せるように訓練しましたから」
「その技術、少し興味があります」
オズワルド様が、氣よりもこっちに興味を持った。
元傭兵というだけあって、火の重要性をよく知っているのだろう。
「ま…まぁ、それは後で興味がある人に教えるとして、今日やってもらおうと思っているのおはこれです」
私の隣にいるマリーが、机の上に置いてあるケースを開ける。
中には普通の蝋燭が何本も入っている。
「強化の練習は火が一番やりやすいんです。
目に見えますし、空気は常にありますし、強化された状態をイメージしやすい」
「なるほど。でもそれだったら水でもできそうな気がするけど?」
「まぁね。だけど水は"操作"の方で使うから、今日は火を使います」
「飽きさせない工夫だね」
アッシュの疑問に答える。
私の前に一本の蝋燭を置き、火をつける。
まずは私がお手本を見せる。
私が火に指を近づけると、蝋燭の倍大きい炎になった。
「すごい…」
クリスさんが手品を見て驚いたようなリアクションをした。
「髪の毛やタオルを使った基礎練習とは違い、直接触れていないのが難しい点です。
直接触れていると、最初は"強化"ではなく"操作"に氣が流れてやすいので。
自分の氣を炎に送り、その氣を使って火がより燃えることを考えてみてください。
最初は火を上へ伸ばすイメージでもいいです」
と説明してもいきなりできるわけはない。
みんなに蝋燭を渡して回り、やってみてもらうが一発で成功できた人はいなかった。
私はしばらくその様子を見守る。
小さい男の子、同年代の男子、大人な男性。
そんな人たちが、私の言う通りに一つの事をやっている。
これって実はすごい光景なのではないだろうか?
私の指示でみんなが動く。
や、やばい。いけない感覚が芽生えそうだ。快感なんて覚えてはいけない…。
「難しい」
「できないな」
まったく変化しない火に、双子がため息混じりに言う。
「よし、じゃあ私が手伝ってあげるから、まずは感覚を掴んでみよう」
私は双子の肩にそれぞれ触れて、基礎でやったように氣を少し送っていく。
「やってみて」
双子が再び、火の強化にチャレンジする。
二人は私の氣が腕を伝っているのを感じ、自然と指ではなく手をかざす。
「そう、自分の手から氣を送って。氣は風であり燃料でもある。
工房で火を大きくするように。
君たちなら火がどうしたら大きくなるかよくわかっているはず」
双子の集中力が上がっている。
氣が火と繫がり、火が新しいエネルギーを得る。
蝋燭の火がゆらりと揺れて、わずかに大きくなった。
「「できた!」」
二人がうれしそうな顔で私の方を見る。
「うん、これに関してはやっぱり君たちが一番うまいと思っていたよ」
肩から頭に手を移して、なでなでする。
さらさらな髪の感覚が気持ちいい。ずっと撫でてしまいそうだ。
「おーい、こっちも頼むぜ嬢ちゃん」
大人げないロック様の声がする。
はいはいと返事をしてロック様の所へ向かう。
背が高くて肩に手をのせるのが大変なので座ってもらい、双子と同じようにやってみてもらう。
「すげぇ、これは面白いな」
ロック様も無事体験できた。
双子よりも時間がかかったが、きっとすぐ一人でできるようになるだろう。
そこからは順番に回っていき、強化を経験してもらっていく。
なんか、男子校の教師をやっている気分になってきて、少しドキドキしてくる。
あのジル様ですら、今は何も言わずに私の言う通りにしてくれる。
一人一人の体に触れながら教えて回る。なんか表現に色気がありません?
よくない…よくないな。教えることだけに集中するんだ私。
「先生、まだちょっとわからないな…。もう少し強くやってくれませんか?」
まるで私の妄想を読み取ったかのようなノリを見せる人がいたり…。
「えぇーと、難しいな…、だめだ、うまくできない。すみません。もう少しだけいいですか?お願いします」
天然で色っぽい言い方をする人もいて、いろんな意味で大変だった。
なんとか一回り終えて、マリーの所へ帰って来る。
「おつかれさまでした」
「うん、思っていたよりハードだったよ」
少しだけ赤くなって戻ってきた私を見て、マリーが不思議そうな顔をする。
しばらくは各々強化訓練を続けてもらい、また要望があれば手伝うを繰り返す。
個人差はあれど、やはりこの人たちは飲み込みが早く、ロック様を筆頭に火の強化をものにし始める。
「いいなこれ、魔法なんかよりもわかりやすいぜ」
火を大きくし続けながら、ロック様がそんなことを言った。
聞き捨てならない事を耳にしたジル様が、ロック様を睨んだ瞬間を私は見逃さなかった。
喧嘩とかはやめてね。
改めて人に何かを教える難しさを知る。
………。
……。
…。
休憩を挟みながら、みんな長い時間頑張ってくれた。
あとは自主練で先に進めるくらいにはなっている。
「じゃあここまでにしましょうか、みなさんお疲れさまでした」
教える立場として、私が一応この場をしめる。
「はーい、先生」
アッシュが手を挙げる。
「なんですか?」
「オズワルドさんが気にしていた火の起こし方を俺も知りたいです」
「あー、たしかに面白そうだな。せっかくだからこの場で教えてくれよ」
ロック様も同意する。
「あー…、わかりました。
すぐにできますし、私の手がよく見えるところまであつまってください」
そう言うと、イケメンが私の前に密集して、私の手に注目が集まる。
学習しないな…私も…。やる前に恥ずかしい思いをすることを覚悟しておかないと…。
「じゃ…じゃあ、やりますよ」
私は人差し指と親指で輪っかを作る。
そして、指をこすり合わせると、輪っかの中心に火花が飛ぶ。
「簡単に説明しますと、指の表面を石のように強化して、高速で強く擦ることで熱を生み出し、それで空気中のゴミを燃やし、氣の強化で中心に移動させています」
なんともいえない微妙な空気が流れる。
「セツナちゃんに追いつくには、まだまだ先が長そうだな…」
アッシュのその一言に、みんなが同意したのがわかってしまった。




