アッシュの里帰り5
次の日は事情聴取があったりしたけれど、私とアッシュで農園作業を手伝う一日となった。
クリムくんとかは悪いと言っていたけれど、こういう事はほとんどやったことがなかったらむしろ楽しかった。
そしてまたゲームをしたりお話しをしてりして二日目が終わる。
三日目。
私たちが王国へ帰る日。
「それじゃ、帰るよ」
「帰るって、馬車とか無いのかい?」
「少し離れた所に来てもらうことになっているよ。ここまで来てもらっちゃうと、色々言われるよ?」
そんなこと気にしなくていいのに。と言いながらお母さんがアッシュにジュースの詰め合わせを持たせる。
「ありがとうございます。こんなにたくさん」
「いいのよ。ほしくなったらアッシュに言いなね。いつでも送ってあげるから」
ふふ、そのお気持ちだけで十分うれしい。
「…アッシュ、今度はいつ帰って来るんだい?」
そう尋ねたお母さんはちょっぴり寂しそうだった。
無事でやっていても、遠くにいるのはやっぱり心配なのだろう。
「んー…、そうだな。次は小隊長にでもなれた時かな」
「それっていつになるんだい?」
「すぐだよ、すぐ」
胸をどんと叩いて、期待を持たせるアッシュ。
「早くしないと、孫が生まれて構ってもらえなくなっちゃうかもよ?」
クリムくんがアッシュを煽る。
「お前こそ、ヘマして結婚逃すなよ」
嫌味を言い合っているのに、楽しそうに二人は笑っている。
兄弟という感じで微笑ましい。
「えーと…、じゃあ…」
クリムくんとお母さんの後ろで、黙って見送るお父さんのことをアッシュは見た。
目は合っているようだが、お互い何も言い出さない。
「お父さん、こういう時くらい何か言ってくださいよ」
お母さんがお父さんの二の腕を叩く。
そういうなら…。といった感じでゆっくりお父さん一歩前で出る。
「こっちの事は心配するな」
「お、おぅ」
「………」
「………」
会話が続かない。
アッシュから何も無いことを確認して、お父さんはくるりと振り向いて歩き始めてしまった。
まったく無口なんだから。とお母さんが小さくぼやく。
「父さん!」
お父さんを引き止めるために、アッシュが大きな声で呼ぶ。
「俺、やれる事じゃなくて、やりたい事をやっているよ。
父さんが農園を大きくしたかったように、母さんが父さんの支えになりたかったように、クリムがこの農園を継ぎたかったように。
俺のやりたい事が、王国にはあったよ」
アッシュの顔が赤い。
ギリギリまで言うか迷っていたのだろう。
家族に胸の内を素直に話すのは、いつだって気恥ずかしい。
だって、応援してくれているのを知っているから。
放っておかれていたなんて言っていたけれど、自由にさせてもらっていただけなのをわかっていたんだ。
「王国は、そんなにいい所なのか?」
「あぁ」
お父さんが少し間を置く。
「…なら、結婚式を挙げるなら向こうで頼む」
「………はっ?」
らしくない発言にみんなが固まる。
結婚式を口実に王国に行ってみるのも悪くない。それだけの意味だと最初は私も思ったが、お父さんの視線が私に向いていることに気が付く。
あっ、そういうこと…?
お父さんが言いたかった事を理解して、私も照れて赤くなってきた。
「父さん!最初に言ったでしょ、セツナちゃんはまだ彼女じゃないって!」
「そ、そうだったか…」
「まったく、だから人の話はちゃんと聞いてといつも言っているのに」
お母さんのぼやきが面白くて、みんなで笑った。
笑いながら、クリムくんのつぶやきが聞こえた。
「"まだ"…ね」
うれしそうな顔で、アッシュと私を見るクリムくん。
うおぉ…、何か期待されているのを感じる。
なんかこう認めてもらえるのは光栄だけれど、今はそれどころではないというか…。
「まったく、しょうがないな父さんは」
まぁ、アッシュにとって有意義な里帰りになったみたいだから、よかったことにしよう。
お父さんが場を和ませてくれたおかげで、最後はみんな笑顔でお別れができた。
私たちが見えなくなるまで見送ってくれる。
何も無い一本道だから、長い時間だったと思う。私も何度も振り向いてしまった。
アッシュは振り返ることなく、律儀だねぇなんて言っていた。
みんなが家に戻ったを確認してから、私はアッシュに話しかける。
「どうだった里帰りは?」
「ん?まぁよかったんじゃない。
いや、セツナちゃんに何にもできてないから、失敗かな?」
「そんなことないよ。楽しかったよ」
「ほんと?」
「うん」
「俺のこと何かわかった」
「うん」
「ちょっとは好きになってくれた?」
「………?!」
あぶない。冗談でもうんと言わされるところだった。
…言わされたところで、嘘ではないかもしれないけど。
「またそういうことをする」
「あはは、だめだったか」
アッシュがいつものように笑っている。
ただ今日の笑顔は、頬が少し赤くて少年みたいだった。
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帰りの馬車の中。
アッシュの氣の特訓もほどほどに、話題はあの果実泥棒になる。
「あの二人ってどうなるの?」
「どうって、普通に取り調べを受けて、それなりに重い刑を受けるんじゃない?
魔術師だからね、人によっては体一つで魔法が使えるから、相当不自由な生活を送ることになると思うよ」
不自由か。映画とかで連続殺人犯が拘束されている感じを想像する。
「一応確認したいんだけど、体罰とかは無いんだよね?」
「セツナちゃん、あの果実泥棒が心配なの?」
「心配っていうか、自業自得だとは思うんだけど…。
なんていうか、そんなに悪い人たちには見えなかったから…」
私が何を言いたいのか、アッシュが少し考える。
「たしかに、犯行も甘いし、あれだけのことができるならもっと大きいこともできたはず。
それに、あんな田舎に魔術師がいるのも珍しいな」
「…やむを得ない事情でもあったのかな?」
「食うに困っていたとか?
あれだけの魔法が使えるなら、選ばなければ仕事はいくらでもありそうだけどなー」
アッシュが私のことを見る。
「もしかして、何か嫌な予感とかしちゃっている?」
「どうだろう?私って魔法とか魔術はまだまだ勉強中だから、なんとも言えない」
とは言えクノイチ時代に、こういう事件と大きな組織が関わっていた事が何回かある。
悪の魔の手が広がって、知らず知らずの内に居場所を失った人が犯罪に走る。
そういった綻びを見つけては、裏で悪を倒すのがクノイチの使命だった。
「ジルさんだったら、何か聞いているかもしれないね。
人付き合いは苦手だけど、その分情報収集でカバーしているみたいだし」
うーむ、魔術といえばやっぱりジル様だよね。
でもちょっとだけ気が引けるかも?この前の学会はいまいちそうだったし、魔人との件も責任を感じていたし。
「ねぇセツナちゃん」
「なに?」
「セツナちゃんって、ジルさんのことどう思っているの?」
ストレートな質問に、ちょっと噴き出してしまう。
「なな、なんでそんなことを急に聞いてくるの?」
「だって、なんか今ジルさんの事を考えているみたいだったから」
ここまでくるとすごいとさえ思えてくる。
これって、嫉妬故に聞いてきたってことで…いいのかな?
「別に、気難しくて変な人だと思ってますよ」
「セツナちゃんが人の事をそんな風に言うなんて、ますます怪しい」
んー!何を返してもからかわれる気がする。
やり返したいけれど、アッシュの場合それが私自身だから自滅するのが必至なのでずるい。
思わずふくれっ面になってしまったのか、アッシュが笑い出してこの話は終わった。
アッシュとのデートは、あまりデートらしくないものだったけれど、アッシュという人間を知るには十分過ぎる日々だった。
楽しそうに生きているようにで悩みを抱えつつ、それをクリアするために目標を持って頑張れる人。
かっこつけているからかっこいい、そんな男子でした。




