アッシュの里帰り4
少しずつ泥棒らしき人達との距離を詰めていく。
アッシュも気づかれぬよう移動できていて、なんでもできると自負しているだけはある。
目視で手元が見える所までやって来る。
だけど、アッシュも見えるようになるにはまだ距離があるような…。
私はアッシュの様子を確認する。
すると、アッシュはいつの間にか丸い色眼鏡をかけていた。
「なにそれ?」
「暗闇でもよく見える眼鏡」
暗視ゴーグルの魔法版か。
なんでそんなものを持っているのか気になったけれど、今はどうでもいいか。
いやよくない。そんなものが普通にあるなら、泥棒も付けている可能性が高い。現に二人とも眼鏡をかけている。お互い姿が良く見えると思っていた方が良さそうだ。
二人組の一人が、クリムくんがやってみせたように木の皮を剥く。
もう一人が木の中に手を入れて、一つ取り出すと二人でそれを確認し合った。
お眼鏡に適ったのか、それから次々とクレイバを取り出していく。
「確定だね」
「あぁ、それじゃま、ちょっと行ってくるわ。セツナちゃんはここで見てて」
「えっ?二人でやった方が早いと思うけど」
「まぁそうなんだけど、一応俺が捕まえるって宣言しているからさ」
なるほど?男の意地というやつだろうか?
少しだけもやっとしたけれど、見たところ泥棒二人は大したことなさそうだし、武器も持っていない。
アッシュなら大丈夫そうだった。
「わかった。でも、危なくなったら手を貸すからね」
「はーい」
そう言うとアッシュはさっと二人組に接近した。
「誰だ!!?」
突然近づいて来る存在に、泥棒が驚いて振り返る。
その勢いで何個かクレイバが落ちて潰れた。もったいない…。
「いやいや、お前らこそ誰だよ?ここは俺ん家の農園だぞ。誰の許可でそんなことしているんだ?」
アッシュは槍を構えながら、泥棒たちににじり寄っていく。
…毎回思うのだけれど、あの槍はいったいいつどうやって取り出しているのだろう?
折り畳み式には見えないが?
「なんだこいつ?警備兵か何かか?」
アッシュの雰囲気からただ者でないことを察した泥棒は臨戦態勢をとる。
ここですぐ逃げ出さないあたり、何か策がありそうだった。
「おっ?やる気か?怪我しても知らないぞ」
「そうだよ!」
泥棒が短い杖を取り出してアッシュに向けると、先端がキラリと光る。
次の瞬間、火の玉が飛び出してアッシュへ襲い掛かってきた。
「うわっ!」
アッシュがそれを躱すと、後ろにあった木に当たる。
ボンと音を立て煙が上がる。
幸い引火はしなかったようで、表面が少し焦げただけだった。
「お前ら魔術師だったのか?」
「あぁそうだ。だから顔を見られた以上、お前にはここで死んでもらう」
「…だったら顔を隠すくらいしてから来いよ」
「うるさい!」
泥棒がもう一発火の玉を出す。
それを今度は前進しながら躱すと、槍で泥棒の脇腹を打つ。
かなり痛そうな悲鳴が上がる。
「ほらもう一発」
アッシュが今度は足を狙う。
しかしそれをジャンプで避けられ…、いや跳んでない、飛んでる!?
脇腹を押さえている方は宙づりのような体制で、もう一人の方はそちらに手をかざしていて、あきらかにこちらが浮かせている方だというのが見て取れる。
「飛行魔法?そんな上物が使えて、なんでこんなせこい真似しているんだ?」
「黙れ!こっちにも事情っていうのがあるんだよ」
「おい、もう逃げようぜ。いくら田舎でも騒ぎが大きくなる方が面倒だ」
「だめだ、あいつはここで始末しておかないと…」
殺意の高い方が、私の存在に気が付く。
「おい!あそこだ、急げ!」
私に指をさし、もう一人の方も気が付く。
すぐにその意図がわかったようで、二人は私に急接近してきた。
バレてしまっては隠れている意味がないので、のっそり姿を現す。
地面に降り立つ二人。
飛べる方は、後ろから私と仲間に手をかざし、すぐに飛び立てるように準備する。
もう一人は杖を私に向け、アッシュの方を振り向く。
「女連れで来るとは間抜けな奴だな」
あっ、なんかちょっとヒロインぽい。
魔法は完全に予想外だったけれど、それでもこの人たちは大したことない。
その気になれば秒で終わるが、手出し無用がアッシュの希望なので様子見である。
ちょっとだけ調子にのって、助けて…みたいなポーズをとってみたり。
あっ、アッシュに苦笑いされた。
「武器を捨てろ!」
人質を取った側の決まり文句。さて、アッシュはどうするのか?
アッシュは構えを解き、片手で槍を持つ。
それをプラプラと振った後、横に放る仕草をした。
一瞬投げたのかと思ったが、あれは槍が一瞬で消えただけだった。
「おい!どこへやった!?」
「ここだよ」
アッシュはアンダースローでボールを投げるような動きをする。
ボールが手を離れるであろう場所から、いきなり槍が飛び出してきた。
「はっ?」
完全に意表を突かれた泥棒の肩に、アッシュの槍が刺さる。
そして、悲鳴を上げる前にアッシュが間合いを詰めていて、飛び蹴りを顔面に食らった。
攻撃担当な方はこれでノックダウン。
「くそ、俺だけでも」
もう一人の泥棒が、私を連れて飛び出そうとした。
何かに引っ張られるような感覚。
無重力のように抵抗できないものかと思っていたけれど、私に力がかかっているのがわかる。
これなら抵抗できそうだな。
私は足に氣を集中させて、地面と固く結び付く。
女子を一人持ち上げるくらいのつもりでいた泥棒は、想定外の重さで自分のコントロールも失って地面に落ちた。
「はっ?…えっ?」
何が起きたのかわからず、間抜けな声を出す。
「相手が悪かったね。同情するよ」
アッシュの拳が泥棒の顎をきれいととらえ、意識を奪った。
「これで一件落着」
「アッシュ、さすがだね」
「まぁね。セツナちゃんもいい演技だったよ」
うぐっ、からかわれるならやめておけばよかった。
「しかし、まさか飛んで盗みに入っていたとは…。通りで痕跡が無いわけだ」
「それもあるけど、この二人、たぶんアッシュとの実力差わかっていたでしょ?
なんですぐ逃げなかったんだろう?」
「あぁそれはね、魔術師は王国で色々と登録されるから、顔バレは半分捕まったようなものなんだ。
それに罪も一般人より重くなる」
あー、魔法って結構なんでもありだからね。犯罪防止ってわけか。
「それならなおさら、なんでこんな事をしたのかわからないね」
「だね」
そんなことを話しながら、二人を拘束した。
その後はアッシュの家族にも起きてもらい、日本で言う警察のような人たちを呼び、無事泥棒は連行されていった。
手錠とパトカーのイメージがあるから、縄で拘束されたまま歩かされている様子は少し怖かったかも。
果実泥棒がいたことをお母さんはこのタイミングで知ったので、すべてが終わってから色々と騒がしかった。
なんで私に相談が無いんだ!って怒っていて、頼もしくもあったけれど、たしかにこれは保留にするかな?なんて思ってしまった。
「兄ちゃんすごいや、まさか一晩で本当に捕まえちゃうなんて」
「だろ?王国でも大活躍しているんだぜ?」
「それはそうとアッシュ、なんでセツナちゃんまで連れて行ったのさ!?危ないじゃないの!」
「いや母さん、それにはちょっと事情がありまして」
わいわいやっていると、泥棒の姿が見えなくなるまで見送っていたお父さんが戻ってくる。
アッシュに近づき、じっと見つめる。
「な…、なんだよ?」
「向こうでちゃんとやっているようだな。アッシュ」
それだけ言って、お父さんは家へ戻って行ってしまった。
たったそれだけ。
たったそれだけだったけど、顔を見るまでもなくアッシュはうれしそうだった。




