アッシュの里帰り1
イケメンナイツが集合して三日後。
ついに最初の一人目とデートをする時がやってきた。
以前オズワルド様が、イケメンナイツと信頼を深める時間を積極的に持ちましょう、と提案していた。
結局、今日までそれが実施されることはなかったけれど、まさか自分の方から始めることになるとは思っていなかったな。
できれば、やっぱり向こうから誘ってきてほしいじゃん?
今となってはもういいんだけどね。
一人目のイケメンナイツは、迎えに来てくれたり、どこで何をするのかちゃんと考えてくれていた。
事前にそれをマリーに伝えといてくれて、私がキョウヤ様とディナーをしている間に準備が済まされていた。
とても手際が良く、楽しみではあるのだけれど、思うところもあった。
「ねぇ、本当にこんな遠出する許可が出ているの?」
同じ馬車に乗り、向かい側に足を組んで座っているアッシュに尋ねる。
アッシュはにひひと笑った。
「もちろん、これって俺たち一人一人とセツナちゃんの交流会でしょ?
一日なんて言わず、長くても一週間くらい使わないとやりたいことできなくない?って言ったら、みんな納得してくれたよ」
「本当に?氣の特訓がさっそく一週間できないんだけど?」
「うん。みんな自主練するって言っていたし、オズワルドさんと双子に関してはキョウヤさんとロックさんが教えてるってさ。人に教えるのがその練習の仕上げだとかなんとか…」
なんと、それは頼もしい。
クリスさんの急成長を見るに、おそらくキョウヤ様もロック様も同レベル以上と考えていいだろう。
ジル様とボガードもちゃんと自主練していそうだし、氣の特訓は最初から足並みを揃えられそうだな。
「それならいいんだけれど、あーでも、聖なる巫女がずっとお城にいないってのは大丈夫なのかな?」
「たしかにそれはこっちでも問題視していたよ。魔物はセツナちゃんを狙っているのかもしれないからね。でもまぁ、なんとかなるんじゃない?って」
えーと、なにその楽観的な考え?
ここ最近、楽だった戦いなんて無かったよ?
「私ならなんとかするでしょう…みたいな?」
「そんな感じ」
これを果たして信頼と呼んでいいのだろうか?
まだ何が来たって負ける気はしないけれど、魔法っていう弱点が無くはないんだよ?
「魔物も聖なる巫女がほぼ単独行動を取っているなんて思ってないだろうし、いざとなれば俺が体を張って守ってあげるって」
この前、本当に死にかけたのによくそんな事を言えるものだ。
気持ちはうれしいけれど、実際にあんな事があってからでは素直に喜べない。
それが顔に出てしまっていたようで、アッシュが若干きまずそうにする。
「ま、まぁそれはさておき、セツナちゃんとちょっと遠出したい人は俺以外にもいるみたいだよ」
「えっ?誰?」
「それはもちろん秘密だけど」
だと思ってましたよ。
「みんなや王国の人たちが納得してくれているならいいか。
それに、アッシュ以外にも何をするのか考えてくれているみたいでうれしいかも」
「楽しみにしててね…と言いたいところだけれど、今回はその…デートってやつというよりは、俺の里帰りに付き合ってほしいってだけだったりするんだけどね」
アッシュが少し遠い目をしながら窓の外を見る。
たしかに意外と言われれば意外だった。
アッシュならこれぞデートというプランになると思っていた。
「それに、比較的王国から近い田舎とはいえ、二日も馬車の中っていうのはちょっと申し訳ないと思っていたり…」
「あっ、それなら大丈夫だよ。私がちゃんと考えてきているから」
「えっ、なになに?」
興味津々にアッシュが聞いてくる。
「氣の特訓だよ。この前みたいなことはもうこりごりだからね」
アッシュは逃げられないことを悟り、苦笑いを浮かべていた。
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馬車の中でアッシュをみっちり鍛え上げ、ようやく目的地に到着した。
長時間マンツーマンで指導しただけあって、今ではすっかり全身に氣を巡らせることができるようになっている。
とはいえ、はっきり言ってこれは成長が早過ぎる。
日本だったらまた天才が現れたと言わるレベル。
相変わらずこの世界の人は氣を覚えるのが早い。
「いやー…、やっっっと着いたー…」
背筋を伸ばしながら、感傷深くアッシュが言う。
私のスパルタからの解放が何割含まれているのか気になるが、聞かないでおく。
私も馬車を降りて体を伸ばす。
大きく息を吸い込んで、遠くを眺める。
話には聞いていた通り、本当に農園以外何もない。
たしかに、ボール遊びとかに飽きてしまったらゲームをするしか無いかもしれない。
「のどかな所だね」
「ありがと、素直に言ってもよかったけど」
「なんのことかわからないな。
それはそうと、なんでちょっと離れた所で下りたの?」
もうちょっと先へ進めば家が何件がある。
「もしかしたら軽い騒ぎになるかなと思って、念のためね。
こんな田舎だから、王国の馬車ってだけでめずらしいから」
「ふーん、そんなもんですか」
実は服装まで指定されていて、今の私はごく一般的な格好をしている。
田舎へ行くわけだし、これはこれでかわいかったからなんとも思っていなかったけれど、アッシュは色々と気を使っているようだった。
「それで、これからどこへ行くの?」
「あれ?言っていなかったけ?俺の実家だけど?」
「えっ!?」
いやいや、なんかそれって…、結婚のご挨拶みたいになってない?
「えっ!?って…、あぁそっか、宿屋に泊まると勘違いしていたのか。ごめんね、こんな田舎だからそんな施設はないんだ」
申し訳なさそうにアッシュが説明してくれる。
またサプライズ的なことかと思ったら、本当に伝え漏れていただけのようだった。
ひょっとしたら私が聞いていなかっただけかもしれない。
「そっか、別に嫌じゃないからいいけどさ」
と言いつつもドキドキしてくる。
子供の頃とは違って、ある程度大人としてアッシュの家族に会うのだ。ちゃんとできるか心配になってくる。
それに…、アッシュは…その…私のことを好きになってくれていると…思っていいんだよね?
ということは、私の気持ち次第で………。
あー!
だめだ。そんなことを考え始めてはいけない。ますます緊張してくる。
「どうかした?」
私と同様、普通の格好で長髪を後ろで束ねているアッシュ。
どこにでも良そうな感じなのに、それがかえってかっこ良さを際立出せている。
こんなイケメンに私…キスされたの?
だ…だめだ。照れが抑えられない…。
「なんでもない、前に持ってきてくれたジュースを飲ませてもらおうかなって思っただけ」
私は顔を隠すために前を歩き始める。
「いいよ、常に3ビンはあるはずだから」
二人でトコトコと田舎道を歩いていく。
あるのは農園ばかり、いつまで経っても人とすれ違わない。
本当に何も発見することなくアッシュの実家に辿り着いてしまった。
見たところ普通のお家。少しだけ大きめかな?
園芸を趣味にしている人がいるようで、庭にはたくさんの花が咲いている。
「へー、素敵な家だね」
「そお?王国に街と比べると地味だと思うけどね」
このカントリー感がかわいいのだけれど、ここで育ったアッシュにはわからないらしい。
アッシュが敷地内へ入っていき、私はそれについていく。
ドアを開けて、自分たちが到着したことを告げる。
「おーい、今着いたよー!」
家の奥から誰かの足音がしてくる。
「アッシュ、よく帰って来たね」
「母さん、おひさ」
髪色は違うけれど、目元がアッシュとそっくりだった。
これがアッシュのお母さんだと思うと緊張感が増してくる。
「あら、こちらの女の子は?」
「一人つれてくるって言ったじゃん。ここのジュースに興味があるんだってさ」
そういう設定なのか。
アッシュなら冗談で彼女とか言いそうだけれど、さすがにそれはしなかった。
「ちょっと、そんな言い方じゃ男の子だと思うじゃない!
女の子ならちゃんとそう言いなさいよ。お布団とかあんたと同じ部屋にしちゃったじゃない」
「俺はいいけど?」
「バカ、そんなわけないでしょ」
「彼女かもしれないとか思わなかったの?」
「そんなの、あんたの態度見れてばすぐわかるよ」
お母さんはからかうように笑った。
アッシュの態度はお母さん譲りのようだが、まだお母さんの方が一枚上手らしい。
「お名前聞いていいかい?」
「はい、セツナ=モ…」
「セツナ=モリアスだよ」
アッシュが私の自己紹介を遮った。
「セツナっていうのかい。いい名前だね、まさか聖なる巫女と同じになるとは思ってなかったでしょ」
なるほど、そういうことか。
アッシュが背中越しに謝っている。
「とりあえず上がっておくれ、長旅で疲れたでしょ」
私はアッシュへの家へと招かれていった。




