弟を思ってのこと
もったいない?
たしかに、アカシア様と比べたら月とすっぽん。
わざわざ私を選ぶ男性がいるのだろうか?と思えるくらいである。
姉弟だけあって、そんなアカシア様と対等なキョウヤ様が相手とあれば、もったいないという表現は正しく聞こえなくもない。
…ないけれど、そんな話をしているんだっけ?
「ま、まぁ…たしかにそうですね…」
一応肯定してみたが、まだ何が言いたいのかわからない。
私は戦えるわけだから、別の所でキョウヤ様を活躍させることができるということだろうか?
客観的に見ても私が一番強いわけだから、ナンバー2を隣に置くのは采配としては偏っている?
「場合にもよりますが、戦力のバランスって大事ですからね」
アカシア様が厳しい目を私に向ける。
えー?これも違うの?
「それはどういうことかしら?」
「どういう…えーとですね。先ほども言いましたが私も結構強いので、キョウヤ様に守ってもらうというのは、もしかしたら過剰防衛なのかな?…っていうことをアカシア様は言いたいのかなと…」
でも、もしもキョウヤ様にピンチが訪れた場合は駆けつけられる位置にいたいなー。
心配しているわけじゃないけれど…。
「少し未練がありそうですね」
「そうですね。キョウヤ様に守ってもらえるなんて、夢みたいなところがありますから」
とりあえず笑ってその場を繋ぐ私。
ひくひくと顔をひきつらせ、眉間にしわを寄せるアカシア様。
うわーん。その顔、完全に答えを間違えているじゃん。
どうしたの突然?さっきまであんなに楽しかったじゃん!
「そうやって誤魔化そうとしても、無駄ですからね」
「いや、誤魔化そうだなんて…って、誤魔化すって、何をですか?」
「とぼけても無駄ですよ」
いや、本当にわからないんですけれど…。
本気で困っている私を、アカシア様は演技だと思っているのか、ますます機嫌を損ねていく。
「はぁ…、でははっきりと申し上げます。私はあなたのような人をキョウヤの相手には認めません」
真剣な顔で、はっきりとそう告げられた。
「顔を合わす度にキョウヤからあなたの話が増えていくのを思うに、ちょっとは気に入られているようですけれど、これからはあまりおかしな事はしないでいただけませんか?
あなたは聖なる巫女として大事な立場がありますし、キョウヤもガルフォード家の長男としての将来もあります。
私もかわいい弟のために、キョウヤが生まれた時から色々な事をしているのです。
ですから、そこらへんをよく考えていただけませんか?」
という事を少し早口で言われ、いかに私とキョウヤ様が不釣り合いかを遠回しに伝えてきた。
あまりに急だったので、頭の中でリピートしないと内容が入って来ない。
一度ゆっくり考え理解する。
…えっ?
キョウヤ様って家で私の事を話しているの?しかもいい感じに。
うれしー、あの時は当たり障りのない事を言っていたけれど、あれにはもっと色々な意味があったんだ。
すごくウキウキしてきて、にやけ顔を制止しきれなくなってしまった。
それがアカシア様の神経を逆なでしてしまう。
「何を笑っているの?」
「い…いえ、ごめんなさい。なんでもありません」
「…ずいぶん余裕ですね」
まったく相手にしない私の態度に、ずっとすごんでいたアカシア様がちょっと怯む。
思わぬ朗報で心を躍らせていると、今の状況がだんだんわかってきた。
さっきの早口、呼吸の深さ、心拍数から判断するに相当憎まれている。
話の内容からも、家でキョウヤ様から私の話を聞かされて嫉妬を積もらせているような感じ。
要するにアカシア様は、筋金入りのブラコンだったのだ。
"もったいない"なんて表現は、恋愛とか、何かのパートナーに私が選ばれた場合に使われる気がする。
戦場のキョウヤ様を心配して言ったにしても不自然だった。
今日は、ようやく私に一言いってやるチャンス。といった感じだったのだろう。
あー…、なんか悲しいな。
キョウヤ様の家族に嫌われてしまうなんて、せっかく今日一日いい日だったのに。
というか、ゲームでアカシア様に会ったことないんだけど?
なんでこんなキャラにしたの?
やっぱりイベントに盛り上がりを作るには、こういう人も必要なのかな?
今日会ったばかりであり、好きになる前に敵意を向けられたことが不幸中の幸いか、私の精神的ダメージはほとんど無かった。
精神修行もしているし、嫌味とわかってしまえばどうとでもなる。
しかし、どうしたものか?
言い返すのも、無視するのも、変に肯定するのも違う気がする。
相手がキョウヤ様のお姉さんでなくても、できれば穏便に済ませたい。
偉い立場の人を敵に回したくないという打算もある。
一番良い解決方法はアカシア様に認められることだけれど、ちょっと怖いくらいの愛を感じたからなー…、下手したら誰も認めないのではないだろうか?
「とにかく!」
アカシア様が少しだけ声を荒げる。
「認めたくはありませんが、キョウヤにもセツナ様にも役割というものがありますから、多少の事は目をつぶります。ですが、それ以上の事は考えないでいただきたい」
「は、はぁ…」
「ついでに言わせていただきますと、ご自分で強いことが取り柄と言っておきながら、この前の魔物討伐には参加されなかったらしいじゃないですか。
お言葉ですけれど、ちゃんとご自分の責任を果たしてくださいませんか?
そのせいでキョウヤにもしもの事があったら、どうするおつもりだったのですか?」
「そ…それは…」
「姉の私が言うのもなんですが、キョウヤは若くして騎士団長になれるほど優秀です。
でもそれは、私が姉としてちゃんとキョウヤを導いてあげているから。
まだちょっと世間知らずで流されやすいところがあるから、あなたような破天荒で無責任な人から、私がこうやって守ってあげないと。
キョウヤだって私が目を覚まさせてあげれば、ただの物珍しさに気を引かれていただけだと気づくはずです」
「………」
「そもそも、いずれはガルフォード家の当主となるのです。
あの人はあぁだの、この人はこぅだの、個人なんていう小さい物の見方して、いちいち相手にこちらが合わせるなど相応しくありません。
だから、あなたのような勝手をする人が調子に乗って、大事な時にいなかったりするのです。
昔からそういうところがあって、悪い癖ですわ」
「それは、違うと思いますよ」
考えるよりも先に、私はそう言い返していた。
自分でも驚くほど冷静な声が、個室をしんと静まり返す。
「ど…どういうことかしら?」
「キョウヤ様が私のことをどう思っているのかはわかりませんし、私はアカシア様が言う様な女子かもしれません。ですが、キョウヤ様はあなたがいなくても優秀な方ですし、それは悪い癖なんかではありません」
近くにいすぎて、弟の良さが見えにくくなることもあると思う。
溺愛している弟が他所の女の影響を受けているのが面白くないのも、まぁわからなくもない。
だけど、その弟を独占したいあまり、勝手にレールをひいて型に収めようとするのは違う。
アカシア様は私がキョウヤ様に悪影響を与えていると思っているのだろう。
たぶん、話の中には貴族では考えられないようなものもあったのかもしれない。
でもそれを良しとしてくれているのは、キョウヤ様の器の大きさに他ならない。
見た目や仕草から先入観を持つことはあっても、キョウヤ様は柔軟に私を受け入れてくれた。
そのおかげで私は自分らしくいることができている。
そのおかげで私は自分のしていることを肯定できている。
キョウヤ様が私のままで良いと言ってくれたから、私はこの王国が好きだと心から言えたのだ。
例え、アカシア様のやり方が正しいとされているとしても、キョウヤ様の一番の魅力が消えてしまうのを黙って見てはいられなかった。
「セツナ様、あなたにキョウヤの何がわかるのですか?」
「アカシア様こそ、もっとちゃんとキョウヤ様のことを見てあげてください」
お互いの視線がぶつかり合う。
さて、言いたい事を言ってしまったが、ここからどうどうしよう?
と考えているとドアが開いてキョウヤ様が戻ってきた。
「すみません遅くなってしまいました」
「…。そんなことないわよキョウヤ、ちゃんとご挨拶できた?」
「あはは、もう子供じゃないんだから大丈夫だよ。
姉さんこそ、何か変なことをセツナ様に言ってないですよね?」
「もちろんですよ。ね、セツナ様」
「はい、二人でずっとキョウヤ様のことを話していただけですから」
「えっ…、私の事ですか?」
絶対にキョウヤ様が想像できる内容ではなかったけれどね。
しかしまぁ、この調子だと後々厄介な事になるかもしれないなぁ…。
ゲームの世界でなくても容易に想像ができる。
人の家庭に首を突っ込みたくはないけれど、アカシア様の行き過ぎた愛はキョウヤ様の障害になってしまうかもしれない。
ひょっとしたら私が標的になるかもしれない。
でも、ひとまずは様子かな。




