キョウヤ様のお姉さん
そして、その日の夜。
私はキョウヤ様に高級レストランへと連れて行ってもらった。
マリーにお誘いの事を話したら、何やら色々と準備をしてくれて、出発前にはすごい勢いで身だしなみを整えられた。
どうも着せられたのは会食用?のドレスで、貴族のパーティーの時のは?と聞いたら、無言で首を振られてしまった。
まぁたしかに、不特定多数の前に出るのとは違う。
なにより、たまには女の子っぽいところをアピールしたいかもしれない。
そういう意味ではマリーの判断は正しい。さすが、頼りになる。
支度が終わったのを見計らったかのようにキョウヤ様が迎えに来てくれて、そのまま二人で馬車に乗って到着。
お金持ちがお忍びで来るような所なのか、人目から隠れるように馬車が敷地内の奥へと入っていく。
キョウヤ様にエスコートされながら馬車を降りると、澄ました感じの店員さんが中へと案内された。
レストラン内はザ・高級店って感じ。
落ち着いた雰囲気ではあるので、ゆっくり食事をするには合っていそう。
しかし、正直あからさま過ぎて好きになれないかもしれない。
全体な色合いが濃くて暗い。凝った作りの装飾品なのはわかるけれど、目が散る。
真っ赤な絨毯に金色の模様とか、お城もそういう所が多いけれど、みんな赤が好きなのだろうか?
「ここは姉さんのお気に入りなんです。セツナ様に会えるとなったら、ぜひここでと」
うぐっ、第一印象は口が裂けても言えなくなってしまった。
「そ、そうなんですか…。それは楽しみです」
センスはともかく、味覚に貧富の差はあまりないだろうから料理に期待しよう。
案内されたのは店内のさらに奥、こじんまりするが、さらに特別感が増す個室だった。
店員さんがノックしてドアを開けてくれる。
キョウヤ様が先に入り、私が続いて中へと入る。
すると、さっと席を立つ一人の女性がいた。
「お初にお目にかかりますセツナ様」
やさしい笑顔でやわらかいお辞儀をしてくれる。
その姿に、女子の私ですら一目惚れしてしまいそうになってしまった。
きれいで艶やかな髪、整った顔立ち、そして華奢だけど出るところは出ているスタイル。
ほんわかした雰囲気に、かわいい声。
可憐という一言だけでは表し切れない。
女性はこうあるべき、なんて今どき流行らないけれど、女の子に生まれた以上一度は思い描いた憧れの姿ではなかろうか?
「はじめまして……」
さすがキョウヤ様のお姉さんといったところだろうか?
理想的な男性を体現したのがキョウヤ様なら、魅力的な女性を実現したのがお姉さん。
「私、アカシアと申します。突然でびっくりしましたがセツナ様に会えるということで、仕事をそこそこに飛んで参りました」
おー…、気さくなことも言えるとは…。
こんなの惚れちゃうに決まっているじゃん。
…惚れる?
私はこれから、これをできた方がいい?…いや、無理でしょ。
「本当に大丈夫だったの?姉さんも忙しいはずでしょ」
「平気よ。このくらいの調整ができなくちゃ仕事にならないわよ」
さりげなく言っている事もかっこいい。
そして、女性に対して敬語じゃないキョウヤ様がすごく新鮮。
「座ってくださいセツナ様、お酒は飲まれますか?」
「いえ、お酒はちょっと…」
「そうですか、ここはジュースもおいしいですよ」
こんな感じであれよあれよと進行していき、テーブルに飲み物とオードブルが並ぶ。
「それでは、私たちの聖なる巫女に」
「乾杯」
グラスを当てる真似だけして、三人はそれぞれの飲み物を飲む。
たしかにおいしい…。
目の前のアカシア様はワインっぽいお酒をスマートに飲まれている。
レオナさんとはまた違った大人の女性って感じ。私もお酒を覚えてみようかな?
「あ、あの…」
「なんでしょう?」
「アカシア様は、どんなお仕事されているのですか?」
「王国の財務関係です。限られた予算の中で、どうすれば最大限有効活用できるかを日々頭を悩ませています」
日本でいえば官僚とかだろうか?
頭も良くて地位もある。
ここまでくると些細な欠点ですら魅力の一つになってしまっていそうだ。
「なんか、すごそうですね。その、私は計算とか苦手で…」
「ふふ、お金って計算で管理するものではないんですよ。気配りと一緒で、どうしたいかが大事なんです」
ここまで完璧だと逆に恐くなってくる。
ただでさえ緊張しているのに、あまりに人としてのレベルが違い過ぎて何を言っていいかわからない。
「セツナ様は普段どんなことをされているのですか?」
「わ、私ですか?そうですねー…」
最近は貴族の方たちとお会いすることが多かったかな。
それ以外はマリーとのんびり過ごしたり、イケメンナイツの誰かに会いに行ったり、たまにトレーニングしたり…。
「あとは、魔物討伐に行くこともあります」
私が最後にそういうと、わずかにアカシア様の表情が曇った。
…気がしたのだけど、気のせいかな?
「あの、魔物討伐って、セツナ様も戦われているのですか?」
「えーと…、はい。私の取り柄ってそのくらいですから」
アカシア様を前にしていると、なんか卑屈っぽくなっちゃうな…。気を付けないと。
「取り柄って…、ではなくて、大丈夫なのですか?
キョウヤとかも一緒…なのでしょうけれど、もしものことがあったらどうするんですか?」
「まぁ、たしかに危ないですけれど、キョウヤ様が守ってくれると言いますか…」
キョウヤ様は笑顔でいるが、微妙そうな反応をしていた。
私は守ってもらっていると思っていますよ。貴族のパーティーの時とかそうだったじゃないですか。
「キョウヤが守って…」
…また表情が曇った気がする。
でも、騎士団長という立派な立場とはいえ、戦地に赴いて戦う弟を心配するのは当然か。
ましてや、私みたいな女子を守りながらとなると、姉として思うところもあるだろう。
「安心してください。キョウヤ様が危なくなれば、今度は私がお守りしますから」
「…それは頼もしいですわ」
うーん…、いまいちだったか。
頼もしい見た目はしていないからね。しかたないか。
戦いの話は一旦忘れ、しばらくアカシア様のお仕事の話を聞いた。
お金はどうやって生まれ、集められ、使われていくのか。
内容は社会科の勉強であったが、身近な物に例えてもらったりして楽しかった。
レストランの雰囲気もあり、ちょっと大人の会話をしている気分も味わえる。
個室のドアが開き、店員さんが入ってくる。
キョウヤ様に近づいて、少し小声で何かを伝える。
どうやら、偉い人がキョウヤ様と一言挨拶したいということだった。
お忍びで来れるところじゃなかったの?と疑問に思ったが、キョウヤ様は親しそうな感じだったので、たぶん店員に聞けば教えてもらえる間柄なのだろう。
「すみませんセツナ様、少しだけ席を外します」
「はい、人付き合いも大事ですから、気になさらないでください」
キョウヤ様はお姉さんに少しの間よろしくと言って、部屋を出て行かれた。
個室にいるのは私とアカシア様だけになる。
だいぶ慣れてきたとはいえ、初対面かつ凄い人と二人きりというのはちょっと気まずくなった。
「キョウヤ様も大変そうですね。色んな所に付き合いがあるみたいで…」
共通の話題はキョウヤ様しかないので、私から振れるのはこのくらい。
「そうね…」
閉まっているドアをちらりと見て、アカシア様がそっけなく答えた。
「私としてはもっとお話したいのですが、なかなか機会が無かったもので、今日はようやく巡ってきた時間といいますか…」
「そうだったの」
アカシア様は今までの半分くらいの声量で短くそう言った。
………あれ?
アカシア様って、こんな感じだったっけ?
今までの笑顔がどこかへいってしまっている?
私、何か変なこと言ってしまっていた?
やばい、ドキドキしてきた。ど…どうしよう…。
「ねぇ、セツナ様」
「は、はい」
「あなたは、キョウヤが守ってあげなくてはいけない存在なの?」
な、なんだその質問は?
「えと、どうなんでしょう?一応聖なる巫女なので、騎士団長の務めみたいなものがあるみたいですが…、でも私も戦えないわけではないのでー…」
なに?なんて答えればいいの?
っていうか、何が聞きたくてこんなことを訪ねているの?
アカシア様はまだ微笑んでいるが、雰囲気は第一印象とは真逆になっている。
まるで今は尋問でもされているような気分だ。
「私、どうしてもセツナ様に言いたいことがあって、今日は参りましたの」
「な…なんでしょー…?」
アカシア様はじっと私を見据えてこう言った。
「あなたにキョウヤはもったいないわ」




