セツナの覚悟
「それで…3つ目なのですが…」
ここが一番肝心と言っても過言では無い…かもしれない。
私がちゃんとした聖なる巫女で、光の魔法が使えているのであれば断言できるのだけれど、残念ながらそうはなれていない。
ただ、ジル様との会話で光の魔法への仮説が出てきたので、使えるようになった時のために準備しておく必要がある。
まぁそれ以外に、私がもっとみんなの事を知りたいという思いがある。
「こ…これからは私と…」
しかし、こんな事を堂々と複数人の前で言うのはどうなのだろうか?
オズワルド様は大丈夫ですと言ってくれていたけれど、最後まで悩んだ。
だって、できることなら誘ってもらいたいじゃない。
「デート!…をしてもらいたいです」
………。
……。
…。
あぁ、言ってしまった。
本当に何を言っているのだろう?明確な目的があっても、頭の中で自問自答を繰り返す。
この中から誰かを選ぶ。アッシュのその言葉とリンクしてしまい、余計変な感じがする。
案の定、誰も何も反応してくれない。
やっぱり先に目的を言うべきだったかな?
でも、それを言ってしまうとなんか仕事っぽくなってしまうというか…、できることなら楽しみたいというか…。
「あの、セツナ様」
周りの反応を伺ってから、キョウヤ様が訪ねてくる。
「デートとは、何をすることなのでしょうか?」
「………えっ?」
もしかして、この世界にデートって単語が無いの?
ナイツは知っていたじゃん。
あれ?デートって英語でも通じる言葉だよね?
そこで私は思い出す。
そういえば、ゲーム内でこれはデートですと明言されたイベントは無かった気がする。
どこかへ誘ってもらえたり、モーションをかけてもらったりすることはあったけれど、なんかぼかされていたような…。
意図があってゲームがそうなっているのであれば、この世界にデートという言葉が無いのも頷ける。
その真偽にあまり意味は無く、問題はこれからデートを説明しなくてはならない事だ。
恋愛経験が無い私が、年上の男性に教えてあげる?
なんか、ものすごく照れる。
「なんで赤くなっているんだ?」
ロック様に指摘されて、はっとした私はコホンと咳払いをして誤魔化してみる。
「あの、誰も知らないということでよろしいですか?」
念のため、みんなに確認をする。
反応してくれた人はまちまちだったが、結果は誰も知らないで間違いない。
「し、しかたないですね。それでは、デ…デートとは何かから説明します」
こんなことになるなら目的から説明するべきだったかな?
それだったら、あぁそれをデートっていうんだ。って理解してもらえたのに。
「デートとは、その…色々な意味があったりするのですが、ここでは…その…一人の男性と女性がですね…」
うーん…、いったい何をするんだ?
買い物とか?…うーん、なんかイメージできない。
「基本的にはなんでもいいんですけれど、お互いの事をよく知るためにですね…」
あぁ、くらくらする。頭が沸騰しそうだよー。
「一緒にごはんを食べたり、どこかへ遊びに言ったり、…するんですけど」
私が完全に混乱していると、オズワルド様が助け舟を出してくれる。
「要するに、デートというのは一日限定など条件付きで恋人同士になるようなもの…でよろしいですか?」
それを聞いたアッシュがひゅーと口笛を吹く。
「そうなの?いいじゃん!」
が、それ以外の人達は戸惑っていた。
「おい、それで本当に合っているのか?」
ボガードが強めに確認してくる。
「だいたい合っています」
これではまるで、ここにいる全員を試しますと言っているようで嫌だったが、私ではもう言葉が見つからなかったので諦める。
「それにいったいなんの意味がある?」
デートが何かがわかったところで、ジル様がその目的を知りたがる。
「そ、それはですね…」
ゲーム的にいえば、光の魔法を強化するために、みんなの好感度を上げたいから。
…なんだけど、そんな風に言いたくない。
「これから、魔物との闘いは激しくなっていくと思います。
そんな中で、一緒に戦うことになる皆さんの事をもっと良く知って、私の事ももっと良く知ってもらいたい。私はそう思っています」
たとえ恋愛感情がそこに無くたって、私はみんなと仲良くなりたい事に偽りは無い。
「セツナ様、それはとてもいい考えだと私も思うのですが、それならその…疑似的にとはいえ恋人同士にならなくても…」
キョウヤ様がごもっともな意見を言う。
共に魔物と戦う仲間との絆を強めたいのであれば、わざわざ相手が異性であることを意識する必要は無いのではないか?
それについては私も同意見だった…最初は。
それから何度も何度も悩んだ。
ここは恋愛ゲームであるイケメンナイツの世界であることや、みんなが私の事をどう思ってくれているのかなど、色んなことを考慮した。
そこで一番に思ったのは、やっぱり誰にも死んでほしくないという願いだった。
そんな思いから派生したのが氣の特訓だったりする。
みんなには氣を身につけてもらって強くなってもらう。
では、どうしたら私はさらに強くなれるのか?
私も氣の特訓をする?
極めたわけではないのでそれもありなのだが、簡単に成果が出せる域はとっくに超えてしまっている。
となると、やはり必要なのは光の魔法。
まだ使う事ができず、未知の部分が多い魔法だが、ハッピーエンドを迎えるためには避けて通れない。
わかっていることは、恋愛を通じてみんなの好感度を上げることが肝心。
ずっと悩んだ。
こんなやり方を、私は望んでいない。
大好きなゲームの世界に来て、主人公と同じようにちやほやしてほしい。そんな生活を夢見ていた。
だけど今は、そんな夢よりもみんなの事の方が大事になっていた。
恋愛と光の魔法が関係しているコミカルな設定と、誰も傷ついてほしくないシリアスな想いを同時に叶えるためには、もうこれしかなった。
こうなったら全員、私に惚れさせる!
とんでもない結論だけど、もうこれしかないと私は考えている。
肉食系?逆ハーレム?
なんと思われても結構です。これが、聖なる巫女となった私の覚悟です!
「キョウヤ様、理由をちゃんとお話しできないことを先に謝ります。
でも、私…私たちには大切なことなんです」
私の覚悟を言葉にすることはできない。
でも、そこは譲れないという気持ちをしっかり示す。
再び静寂が訪れる。
私が真剣に話していることが伝わったが、どう解釈していいか戸惑っている。
ただ一人を除いては…。
「なに?みんな何を悩んでいるの?」
アッシュが席を立ち、私に歩み寄って来る。
「俺だけじゃないっていうのは癪だけど、こんな堂々とセツナちゃんに近づけるなら願ったり叶ったりだね。どう?みんな二の足を踏んでいるなら、まずは俺からってことで?」
「おい待て!」
私に手を差し伸べるアッシュを止めるゆに、ボガードも席を立つ。
「なんだよ?さすがにこれは早い者勝ちだろ?
なんだったら、すぐに答えられなかったお前が悪い」
こういう事ではアッシュが一枚上手で、ボガードはうまく言い返せなくなる。
「では、こういうのはどうでしょう?
セツナ様には退席していただき、誰からセツナ様とデートをするかの順番を私たちで決めませんか?」
オズワルド様が提案する。
「じいさん、けっこうやる気だねー」
ロック様が茶化す。
「もちろんです。アッシュさんがおっしゃったように、セツナ様のような素敵な女性とお近づきになれるなんて大変光栄だと思っています。私のような年寄りでもです」
オズワルド様が、絶対見せないような男の笑みを浮かべた。
それにはさすがのロック様も面食らう。
っていうか、ロック様ってこの手の話題で全部カウンターを食らっていない?
横にいる双子が困惑しているが、オズワルド様の積極的な姿勢に空気が変わる。
「では、セツナ様。結果は決まり次第お伝え致します。
三日後を楽しみにしていてください」
「わかりました。それではお願い致します」
私は最後に深々と挨拶をすると、部屋を出た。
はーーー…緊張した。
どうなったかはまだわからないけれど、やり切ったと思う。
私はその場でへたり込む。
我ながらよく頑張った。
そして、これから気合を入れていかなくてはならない。
オズワルド様が、三日後と言ったのには理由がある。
これは事前に相談していたことでもあり、決定事項でもある。
それが何かというと、まずはここへ来たばかりのクリスさんをフォローする事。




