ゴーレム
ゴーレムの中にカルディアがある。
アルフレッドはたしかにそう言った。
私はアルフレッドを、オズワルド様はマルグリットを抱えて一旦距離を取る。
ゴーレムは腕で這うことしかできず速度が出せなかったので、すぐに身を隠すことができた。
「アルフレッド、あの中にカルディアがあるのは本当なの?」
私はアルフレッドを地面に下ろすと、手を離すことなく尋ねた。
私の勢いに、アルフレッドは少しぎょっとする。
「た…たぶんだよ。カルディアに触ったことが無いからわからないけれど、今まで感じたことがない不思議な感触があったんだ」
確証は無い。だけどアルフレッドはカルディアではないかと予感しているようだった。
「セツナ様、可能性はあるかもしれませんよ」
少し遅れてやってきたオズワルド様が、マルグリットを下ろしながら言う。
「ゴーレムが動いているということは、魔力を持っていることを意味します。
これは私の予想ですが、この採掘場に迷い込んでしまった生き物が、なんらかの理由でカルディアと融合してしまいゴーレムになってしまったのではないかと…」
もしそうであれば、あれを倒せばカルディアが手に入る。
「魔力で動いているということは、このまま動き続けられるとなくなってしまう?」
「…おそらく」
なら、すぐにでも倒そう。
私は氣を溜める。全身を巡らせ、エンジンをかけるように高めていく。
最初から全力でいく。
つるはしでほとんど傷がつかなかったから、私が本気を出しても砕け散ってしまうことはなさそう。
「やるのですねセツナ様?」
「うん」
私の準備が整ったのを見計らったようにオズワルド様が声をかけた。
「では私が囮になりましょう。セツナ様は隙を見て攻撃してください。
生き物を模しているので動けなくする方法は同じと聞いています」
「わかりました」
「お前たちはここに隠れていなさい」
そう言われて二人は不安そうな顔をする。
「大丈夫ですよ。あの程度の動きなら、セツナ様はもちろん私も捕まりません」
オズワルド様が二人の頭を撫でる。
「絶対成功させてね」
「気を付けて」
二人の応援をもらい、私とオズワルド様はゴーレムへ向かう。
オズワルド様はまっすぐゴーレムの方へ走っていき、自らゴーレムの視界に入った。
ゴーレムはオズワルド様を見つけると、唸り声のような音を出す。
そしてオズワルド様目掛けて這う。
それを棒立ちで待つのかと思いきや、オズワルド様は腰を落として憲法家のような構えをとると、ゴーレムの攻撃を軽やかに躱していく。
そればかりか、躱した腕に攻撃を加えて壊そうとさえしていた。
シンプルな基本動作だが、その威力を余すことなくゴーレムに与えている。
しかし、ハンマーで殴ったような衝撃があるのだが、ゴーレムは怯むだけで一向に壊れない。
とんでもない固さだ。
オズワルド様の攻撃はどんな岩でも砕きそうなのに…。
私ができる高威力の忍術といえば、サメの魔物に使った電光石火がある。
が、あれは私も動けなくなってしまう。万が一倒せなかった場合を考えると使えない。
となると、私にできることは一つだけ。
ゴーレムが壊れるまで、一点のみに攻撃を集中させる。これしかない。
次はどこを攻撃するかだが、一番壊れやすそうな首筋を狙おう。
頭が取れてしまえば生き物と同じように動かなくなるはずだし、仮にまだ動けたとしても、あの頭の大きさなら運んで体と引き離せそう。
そうと決まれば、私は狙いを絞り拳に氣を集中させる。
オズワルド様が相手をしてくれている間、氣を練ることに集中できるのは大きい。
私が狙いを定めていると、オズワルド様は壁際に追い詰められてしまう。
ゴーレムはチャンスとばかりにオズワルド様を捕まえようと突進するが、オズワルド様は華麗なスライディングで下を潜って躱す。
それに気を取られたゴーレムは壁に激突した。
今だ!
私はすかさずゴーレムの背中に乗り移ると、全力で首筋に一撃をくらわせる。
轟音と共にゴーレムが地に伏せる。
私は上へ飛び上がり、首筋を確認する。多少の亀裂が入っただけ。
い…痛い。なんて丈夫さ。
だけど痛みなんて気にしていられない。
「土遁の術:岩列山」
ゴーレムの喉元あたりの地面が盛り上がり、首を突き上げる。
ちょうどその天辺が、さきほど亀裂を入れた箇所。
「氷遁の術:零度槌」
私の手に氷のハンマーが握られる。
叩く面積を限界まで小さくし、強度を上げる。
それを力いっぱい振り下ろす。
ガーーーン!!
高めの破壊音がする。
ハンマーの先端が突き刺さり、ゴーレムの首筋の亀裂が長く伸びる。
まだだ!
氷のハンマーを溶かして亀裂に水を流し込む。
「氷遁の術:氷下月蒼」
隙間に流れた水が再び凍り、体積が増えた分亀裂に負担を与える。
さらにゴーレムの体も急激に冷えていく。
これでとどめ!
「火遁の術:紅蓮一刀」
私の手刀に灼熱の炎を宿し、最後の一撃が加える。
もろくなったゴーレムの首筋に私の手刀が刺さり、一瞬で溶けて蒸発した氷が水蒸気となって辺りを濁らせる。
きし…きしきし…
亀裂はゴーレムの首筋だけでなく、体中に走り渡る。
そして、こなごなになって砕け散った。
私はゴーレムの残骸の上に着地する。
足元はただの岩石の山。
それを見て私は血の気が引いてひやりとする。
頭を切断するだけのつもりだったのに、やり方を間違えてしまったのか全身がバラバラになってしまった。
カルディアのことはもちろん、鉱石のことなんて何もわからない。
壊してしまってよかったのか?それが不安でたまらなくなる。
「セツナ様、ご無事ですか?」
「オ、オズワルド様…」
オズワルド様が私を心配して駆け寄ってきてくれた。
「わ…私…こんなバラバラにするつもりは…」
「大丈夫ですよ。カルディアは量がすべてです。ちゃんと使えます。
むしろ運びやすくなりましたよ」
私の思いを察してくれたオズワルド様がやさしく言い聞かせてくれる。
安堵の表情で笑いかけてくれているオズワルド様を見て、私もほっと胸を撫でおろす。
「セツナ様、申し訳ありませんが二人をここへ連れて来てくれませんか?
私は念のため、危険がないか確認をしておきます」
私は言われた通り、二人を連れて戻って来る。
「これ、お姉さんが倒したの?」
「さすがー」
ゴーレムの見事な砕けっぷりに、二人は驚く。
「さっそくだが、これがカルディアかどうか確認してくれないか」
オズワルド様はなるべく中心部分にあった岩石を選び取り、アルフレッドとマルグリットに一つずる渡す。
二人はわかったと答えると、両手で握りしめた。
「うん!これ、きっとカルディアだよ!」
アルフレッドの歓喜が採掘場に響く。
マルグリットも今まで感じたことのない感触に驚く。
念のため、二人はお互いのカルディアを交換して、再度確認する。
「これもカルディアだ!」
「これがカルディアか、すごい力を秘めているね」
それを聞いたオズワルド様は、カルディアをまた一つ拾い上げると間近で確認する。
「うむ、持ってきた絵とだいぶ違いますが、二人が言うのであれば信じてみましょう」
たしかに色というか模様が違う。
おそらく、ここが閉じてから新しくできたカルディアではないかとオズワルド様は言った。
「ゴーレムは、動く石像などの伝説から着想を得た魔術。
まさかこうして本物を見ることがあるとは…長生きはしてみるものです」
そこまで老けているようには見えないオズワルド様が、仙人が言いそうなことを言った。
いったいいくつなのだろう?見た目通りだと思うのだけど。
「これを持ちかえれば、アッシュさんを救えるだけでなく、魔術の発展にも貢献できることでしょう。
なぜゴーレムが生まれたのか、私も少しだけ興味があります」
私たちは可能な限りカルディアをリュックに詰め込むと、採掘場を後にした。
こうして無事に入手できたのは奇跡なのかもしれない。
本当に…本当によかった。
待っていてアッシュ。すぐに戻るからね。




