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今までの日々

最後は一つも取れなかったとキョウヤ様は言っていた。

ドワーフたちが精いっぱい探しても出なかったのだ。

まだ残っていると信じているけれど、たったの四人で見つけるのは至難の業だろう。

それでも、諦めたくはなかった。


手当たり次第に掘っては、それらしき鉱石がないか確認する。

同じようにオズワルド様も掘り進め、双子は掘る係と確認する係を交代しながら進めている。


果たして、本当に見つかるのだろうか?

相当覚悟をしてきたつもりだけれど、時間が経つにつれて焦りも生まれてくる。


こんな時、アッシュならなんと言うだろう?

どこまで本気かわかりにくい軽い口調で、きっと前向きなことを言ってくれる気がする。


初めて会った時のことを思い出す。

自分が聖なる巫女なんて柄じゃないのはわかっていたけれど、あの時はまだゲームと同じような甘い日々があると信じていた。

だけど魔物を圧倒するクノイチの力のせいで、みんなに変な目で見られたのはかなりヘコんだ。

そんな私を、ゲームと同じ明るさで励ましてくれたのがアッシュだった。

会いに来てくれた理由は私が歳の近い女子だったからだけだろうけど、それからもちょこちょこ遊んでくれたから、きっかけなんて些細な事。

マリーと同じように、すぐに私が寂しさを忘れることができたのは彼のおかげでもある。

彼がもし同級生だったら、私の高校生活も少しは華やかになっていたかもしれない。


そんなアッシュが、私を庇って命の危機に瀕している。

今度は私が助ける番だ。

砕いた岩をどける手に力が入る。


人は死を間近に感じた時、様々な記憶を呼び起こすと聞いたことがあるが、それは自分に限った話ではなかったらしい。

自分の手と目は休むことなく動き続けているが、頭の中では走馬灯のようにこの世界での出来事が蘇ってくる。


私の強さを知っても、変わらずお姫様のように扱ってくれるキョウヤ様。

私の強さを認めつつ、妹のように分け隔てなく接してくれるロック様。

変な扱いを受けるけれど、根がまじめでやさしいジル様。

よくからかってくるけれど、会えば明るくなれるアッシュ。

私をお姉さんと慕ってくれるかわいいアルフレッドとマルグリッド。

私を聖なる巫女として導いてくれてるオズワルド様。

口が悪くて愛想が良くないけれど、私のことを好きだと言ってくれたボガード。

まだよくわからないけれど、私が聖なる巫女だと知っても今まで通りでいてくれたクリスさん。


いつも私に世話を焼いてくれる、この世界で初めて友達になれたマリー。

綺麗でかっこよくて、そしてかわいいところもあって憧れるレオナさん。

私の無理難題を聞いてくれて、それすらも自分の夢の糧にしているユリさん。


アッシュだけじゃない。私は誰にも死んでほしくない。

私がこうしている今、魔物と戦っている人、怪我に瀕している人、日々の生活を守っている人、みんな明日のために頑張っている。


本来だったら、私も聖なる巫女として魔物の群れと戦いに行かなくてはいけなかった。

だけど、私はアッシュの事で頭がいっぱいだった。

私がいない分、キョウヤ様とロック様たちがきっと奮闘している。

私はカルディアが見つかる事と、魔物と戦っているみんなの無事を祈ることしかできない。


私は今までなんでもできる気がしていた。

大抵の事はなんとかなってきていたし、これからもそうだと思っていた。

実際は、みんなに支えられてここまで来れていただけだったんだ。

私という人間は、戦うことしかできないクノイチに過ぎない。


だから、みんなにお礼が言いたい。

私はみんなともっと一緒にいたい。

みんながいてこその、聖なる巫女であり、セツナ=モチヅキなのだから。


………。

……。

…。


2時間は探しただろうか。

まったくそれらしき鉱石を見つけられておらず、まったく探した場所も広げられていない。

集中しすぎていたせいか、あまり離れないようにと言われていたのに、私だけ少し距離があいてしまっている。

少し戻ろうかと考える。

けれど、今日作業ができる残り時間を考えると足が止まる。


何かできることはないだろうか?

忍術によって魔法に近いことができるクノイチとして、魔力の素である光を司る聖なる巫女として、魔力を秘めた鉱石カルディアを探す手段はないだろうか?


作業中に蘇っていた記憶の中に、一つ気になる事があった。

それは、聖なる巫女の衣装を見つけられた理由。

成功したからうやむやなままにしてしまっていたけれど、あれはなんで忍術に反応したのか?


今のところ考えられる事といえば、氣もしくは魔力の素だろう。

どちらも私に関係している。

氣はこの世界には無かったもの。となれば魔力の素?

魔力の素が忍術に反応した?


もしこの安易な発想が正しかった場合、魔力を蓄えているカルディアはどうか?

行き詰っていた私は、迷うことなく試してみる。


「音遁の術:氣離来里(きりきり)


私の氣が音波となって採掘場に広がり、ソナーにもなって全体像をぼんやりと感じる。

ここは本当に広いな…、こんな所をたったの四人で探しているのか…。

大きな空間に私たちがいて、そこから無数の穴が開き色んな所へと掘り進められている。

その中に、むき出しになっている異質な物を私は感じた。そこだけ氣の跳ね返りが違う。

ただ、かなりの大きさがある。

そんな物を見落とす人などいないと思うので、カルディアではなさそう。

だけど、気になった私は見に行ってみることにした。

もしかしたら何かヒントになるかもしれない。


オズワルド様に声をかける。

簡単に事情を説明すると、全員で行ってみることになった。

カルディアが見つからない焦りで疲弊していたのは私だけではなく、みんな何かにすがりたい思いがあったのかもしれない。


採掘場をさらに奥まで進む。

5メートル程掘られて中断された穴があり、私が感じた何かはそこにある。


「セツナ様が言っておられたのはこれでしょうか?」


最初は何も無いように見えたが、中に入ってみると奥側の壁だと思っていたものがその何かだった。

掘って削られたというよりは、なんらかの意図があって変な形になっている。そんな見た目。


「たぶん、そうだと思います」


感じたものも異質なら、その見た目もまた異質。

クノイチの勘も少し警戒している。


「たしかに、他とは違うみたいだね」

「とりあえず削ってみる?」


二人が道具を構えて少し前へ出る。


「いえ、念のため私が少し調べてからにしましょう」


オズワルド様がゆっくりと近づく。

表面を撫でてみて、コンコンと軽く叩く。

オズワルド様もまた、何か危険を感じているのかもしれない。

つるはしで少し削ってみる。

それを少し観察して、二人に投げ渡した。


「どうだい?」


「ちょっと待って、今確認する」


受け取ったアルフレッドは岩石を握りしめる。

その間、オズワルド様は削った部分を再び手で触り、つるはしを下ろす。


ガキン!


ここで採掘は始めてから初めて聞く音。

あんな簡単に岩を砕いていたつるはしが、小さな亀裂しか入れられなかった。


つるはしの故障だろうか?

オズワルド様が岩に当てた部分を確認する。


その様子を見ていた私の視線の端に、黄色い光がとまる。


「オズワルド様さがって!」


私の声にぴくりとオズワルド様が反応した瞬間、あの異質な岩からオズワルド様を目掛けて拳が振り下ろされる。

ガンと大きな音を立て、地面を砕くすごい威力。


ただ、オズワルド様は一瞬で私たちの所まで下がってきていて、その攻撃を躱していた。

最小限の予備動作であの速度、やっぱり只者ではない。

しかし今はそんなことは二の次で、私はとんでもないものを目の当たりにする。


どこにでもある岩が機械のように形を変えていき、まるでロボットのような変形した。

形はとても歪で、下半身の無いイモリのようだった。

ガリガリと岩が削れる音がする。


「なんと、これはまさか…ゴーレム?」


「ゴーレム?」


「岩や鉄などで生き物を模し、それを動かす魔術があります。それがゴーレム。

しかし、なんでそんなものがここに?」


ゴーレムは腕を動かしてこちらへ這って来ようとしている。


「一旦引きましょう」


オズワルド様が双子の肩を引く。


「待って!」


アルフレッドがそれを振り切る。


「わずかだけど、この岩から特別な感じがする。

もしかしたら、あの中にカルディアがあるかもしれない」

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