ドワーフの村
お城を出発して約二日。
私たちはドワーフの村付近に辿り着いた。
村へ行くには道なき道を行く必要があり、これ以上は馬車が進めない。
運転手には近くでテントを張ってもらい、待機してもらうことになった。
山を登る前に、登山用のブーツを渡された。
私が履いて来たのは普通の靴だったのでありがたく使わせてもらう。
山へ行くのはわかっていたのだから、それ用の準備をするべきであった。
どんな状況であっても冷静さを失ってしまってはクノイチ失格である。
だけど、仲間の死を俯瞰して見ることなんて私にできる気がしなかった。
私にも弱点があったのだと初めて知る。
「セツナ様、準備はよろしいですか?足元に気を付けて、私についてきてください」
オズワルド様が先行して、その後ろに双子が並び、私が最後尾を歩く。
岩と砂しかない寂しい場所。
私たちの歩く音しか聞こえない静かな山。
ここはかつてドワーフ達で栄えていたのかと思うと、寂しさがこみ上げてくる。
私は二人が心配になって様子を伺ってみたが、特に問題なく歩いていた。
勇気と覚悟を持ってここへ来てくれている。
子供ながら頼もしいが、同時に危うさも感じる。
背中に背負っている大きな荷物が、まるで心に抱えている負担のように見えなくもない。
気になる事といえばもう一つ。あの晩に言われたオズワルド様のこと。
結局理由ははぐらかされてしまい聞けていない。
いざとなれば言われた通りにするつもりだが、どこまで信じていいのか?
二人のために死ぬ覚悟でいるのではないかとちょっと疑ってしまう。
そんなことを考えながら山道を進んで行く。
細い道や高い所へは、私が双子を抱えて進むことでなんなくクリアしていく。
オズワルド様には敵わないなと笑われてしまったが、照れながらお礼を言ってくれる双子がかわいかったので癒される。
そして登ること三時間。
ついにドワーフの村へと到着した。
私が目にしたのは、ただの廃墟。
人が昔住んでいたんだろうなと思わせる面影があるが、家々はすべて崩れさり、道も真っすぐ歩けるような所が無かった。
「ここが…僕たちの村」
マルグリットが独り言のように言う。
二人は身を寄せ合って、昔住んでいた村を眺める。
「…大丈夫?」
思わず心配で聞いてしまう。
「大丈夫だよ」
「こうなっているのは、わかっていたから」
村を見つめたまま、そんな風に答えてくれた。
「採掘場の入り口まで行き、一休みしましょう。
強がっているようですが、二人はだいぶ疲れているようなので」
そんなことはないと二人は抗議したが、オズワルド様は頭を撫でる。
良い信頼関係が見て取れる。
錬金工房の人達といい、本当にいい大人たちに恵まれている。こうして二人が普通にしていられるのは彼らのおかげなんだ。
採掘場の入り口まで来ると、シートを敷いて軽食を取った。
私と双子が座って休んでいる間に、オズワルド様がぱぱっとテントを立てる。
それはもう手際が良く、手伝いますと言うのが躊躇われるほど。
「ねぇねぇ」
食事を済ませ、私は二人に話しかける。
「二人は鉱石を手で触らるとそれがなんなのかわかると言っていたけれど、どんな感じがするの?」
触覚以外に感じるものがあるというのが興味深かった。
「どんな感じ…。なんていったらいいんだろう?キョウヤさんは味って言っていたけれど、感覚的には色を見分けるような感じかなー?」
「なんだろうね?僕たちもよくわかっていないけれど、成分とかを認識しているのかな?
でもそれだと味覚っぽいよね」
二人は説明に困っている。
たしかに、味ってどんな風に感じるの?と聞かれたら私も困る。
「あっ、もしかしてカルディアって見た目じゃ判断できない魔石なの?」
なんとなく近くにあった岩を触りながら、二人の感覚を想像していると、なんで二人の感覚が必要なのか疑問に思った。
「そうだよ。分かる人にはわかるらしいんだけどね」
「カルディアは最初からカルディアなわけじゃないんだ」
私はそれがどういうことが聞いてみる。
「カルディアは、特殊な条件で魔力が溜まった鉱石のことを言うんだ」
「だから、見た目は取れた所によってバラバラ」
なるほど、それならたしかにドワーフの手が必要不可欠である。
「二人はここのカルディアを見た事ある?」
「あるかもしれないけれど、覚えてないや」
「うん、たまたまこの村の話を聞いたことがあったから知っているだけ」
「…そっか」
他にも色々と聞いてみたかったけれど、これ以上は嫌な記憶を思い出せてしまうかもしれない。
私は持っていた岩を転がす。
「回復したし、そろそろ行こう」
「そうだよ、早くアッシュさんを助けよう」
二人は立ち上がり、私の前に並ぶ。
「そうだね、いこう」
私も立ち上がって、片付けをしてシートを畳む。
それをテントまで運ぶと、テントの中からオズワルド様が出て来た。
「あぁ、ありがとうございます。どうやら二人はもう行く気のようですね」
「はい、やる気いっぱいです」
私は二人の気持ちを代弁するように、軽くガッツポーズをとるとオズワルド様が笑った。
「セツナ様は、あの二人にとっていい姉でいてくれますね」
急にそんなことを言われて思わず照れてしまう。
「私も含め、周りが男ばかりですから」
なんだかうれしそうに、オズワルド様は言った。
そうかなー、いいおねえちゃんかなー?
クノイチの頃も結構面倒見がいい方だったと思うけれど、人に言われるとこそばゆい。
それぞれ準備を整え、私たちはカルディアの採掘場へと足を踏み入れた。
奥へ進んで行くにつれて、外の光が入ってこなくなり暗くなる。
照明らしきものが道沿いに何個も設置されているが、どれも機能しないだろう。
「そろそろ明かりをつけましょう」
オズワルド様がそう提案すると、マルグリットがリュックの中から風船ほどの球体を取り出す。
それには紐がついていて、本当に風船のように浮かび上がり、発光して辺りを照らしてくれる。
紐をリュックに結び付けると、再び歩き始める。
「ねぇ、これってどのくらいもつの?」
暗闇になっても私は問題無いが、三人はそうはいかないと思い確認しておく。
「5時間くらいかな?」
「片道30分だから、探せるのは4時間くらいだね」
結構長いな、明かりの時間も、道のりも。
足場は可能な限り整備されているが、それでも山道と変わらないくらい歩きにくい。
双子はまだまだ元気そうだが、疲れが徐々に見え始めてきた。
今日一日でかなりの坂道を進んでいる。
休むにしても場所が無い。私たちはもくもくと奥へと進む。
何か所か広い空間があり、かつてカルディアが取れた場所なのだと思われる。
そしてついに一番奥、最後の採掘場までやって来た。
採掘が中止されるまでドワーフの人達は頑張ったのだろう。
ここが一番広大で、穴の数も多い。
そんな所から、あるかわからないカルディアを探さなくてはならない。
「よし、とりあえず探しましょう。と言いたいところだけれど、また少しだけ休憩しましょう。
ここまで来て怪我をしちゃったら、帰れなくなっちゃうからね」
そう言いながら、私は率先して座れそうな岩に座った。
本当はすぐにでも探し始めたいけれど、要である二人の体力を考えると無理はさせられない。
「そうですね。ここからは岩を削る作業になりますから、しっかり休んでおきましょう。
道具の確認もしておきたいですからね」
全員が腰かけると、オズワルド様がリュックから小さめのつるはしと、工事現場の誘導棒みたいな物を人数分取り出す。
「まず、このつるはしなのですが、魔道具なので力はいりません。その代わり先端はとても危険なので注意してください。
そして、この明かりは持ち手が岩などにくっつくようになっています。見やすい場所に設置して使ってください。
それと、なるべく離れないように行動しましょう。もしもの時は助け合えるように」
道具とヘルメットなどが配られ、それぞれちゃんと使えることを確認する。
特にこのつるはしがすごくて、岩をビスケットのように砕くことができる。
これならかなり体力を温存できそうだ。
「二人は感覚を頼りに、私とセツナ様はここで取れていたカルディアの見た目を覚えてから探してみましょう」
オズワルド様から石の絵を一枚渡される。
た…たしかに、これはドワーフでないとわからないかもしれない。私にはそこらへんにある石と何も変わらなかった。
それでもやるしかない!




