そこにある可能性
「それはどういうことだい?」
突然の朗報に私は言葉を失ってしまったが、キョウヤ様は冷静に尋ねる。
「カルディアっていう魔石が必要だって聞いたんだ」
「それ、僕たちが昔住んでいた村で採掘していたものなんだ」
双子が住んでいた村と言うのは、魔物に滅ばされてしまったドワーフの村のことだろう。
双子は今すぐにでもと意気込んでいるが、キョウヤ様の顔はうかない。
「二人とも、たしかにカルディアは君たちの村で採掘されていたが…」
「もう…取れないのですか?」
私の声を聞いて振り返ったキョウヤ様が、小さく頷く。
「魔物に襲われる少し前から採掘は中止されていたんだ。そして、あの村以外からはなかなか取れず貴重な魔石となってしまったのです」
そんな…せっかく可能性が出てきたのに…。
「キョウヤさん、それって本当に取れなくなったのですか?」
「本当に…とは?」
アルフレッドの質問の意図がわからず、キョウヤ様が聞き返す。
「取れる量が減って、お金が稼げなくなったからやめたって可能性はないんですか?」
それを聞いてキョウヤ様の目つきが変わった。
双子が言いたいのはこういうこと。
採掘量が0になったからではなく、採算が合わなくなったからやめたのではないか?
「たしかにカルディアは貴重な魔石だが、なくてはならない物ではなかった。
採掘が中止された時は一つも取れなかったと聞いていたから、私はてっきり…」
「行ってみましょう!」
わずかでも可能性があるなら、私はそれに賭けたい。
キョウヤ様を頷かせるため、たしかな決意を胸にキョウヤ様を見つめる。
だが、キョウヤ様はそれでも賛成してくれなかった。
「それでも難しいです。この子たちの村は近くありません。仮に採掘できたとしても時間が…」
双子が開けっ放しにしていたドアから声がする。
「それなら、私がなんとかしよう」
やって来たのはジル様だった。
「すでに部下たちが延命措置に入っている。
もし、あいつの事を諦めていないなら、私が1分でも長く持たせてやろう」
「ジル、お前も…」
体はキョウヤ様を向いていたが、ジル様の瞳は私を真っすぐ見ていた。
「お願い…できるのでしょうか」
「無論だ。そもそも、こんな事態になったのも私があの場に残ってしまったからだ。
私も引いて、会場には誰も入れさせないようにするべきだった…」
ジル様がとても悔しそうに拳を握る。
「…だから、私にも何かさせてくれ」
真摯な気持ちにまた泣きそうになる。
ジル様もまたカルディアの話を聞き、私なら取りに行くと考えてくれたのだろう。
「キョウヤ様!行かせてください!」
わずかだけれど、時間も可能性も生まれた。
もしキョウヤ様が反対しても、私一人でも行く。
「…わかりました。このままアッシュを失うのは私もつらい。
セツナ様、私も同行します」
「僕たちも行くよ!」
「採掘にはドワーフの手が必要だからね」
そう言って双子が手の平を見せる。
どういうことなのかわからず、二人の手をまじまじと見つめる私にキョウヤ様が教えてくれる。
「ドワーフの手は、舌で味を感じるように、鉱石を感じ取ることができるのです」
そんな特性があったのか。
手先が器用で山に住んでいるイメージがあるけれど、この世界ではそんな理由もあったのか。
私はマリーのことを見る。
マリーも私のことを見ていた。
相変わらず心配そうな顔をしているが、何を言わない。
止めても行くのでしょう?そういう気持ちが伝わってきた。
私は申し訳なさそうに笑った。
そうと決まれば寝ている場合ではない。
私は布団から出る。
「マリー、魔物討伐の時に着る服をちょうだい」
と言ったのだが、マリーは微動だにしない。
「マ、マリー?」
あれ?まだ私が行くことに迷いでもあるのだろうか?
「あの…セツナ様?」
キョウヤ様が控えめに呼ぶ。
「そういうことでしたら、私たちは部屋を出ます。着替えはその後でお願いできますか?」
あっ、そういうことね。
「まったく、お前というやつは…」
ジル様がわざとらしくため息をつき、双子と一緒に部屋を出た。
「旅の準備は私が手配しておきます。城門で会いましょう」
キョウヤ様も続いて部屋を出て、マリーと二人だけになる。
「ごめんね。また心配かけちゃうけど」
「いいんです。これも私の仕事の内ですし、それがセツナ様でもありますから」
マリーが困ったように笑う。
私は本当にいい友達を持った。
私はすぐに支度を済ませると、マリーにお礼を言って城門へ向かった。
そこにはまだ誰もいなくて、馬車もない。
私一人が着替える時間では何も準備できない。
わかってはいるけれど、こうやって待っている間にもアッシュが死に近づいていると思うともどかしい。
だけど私にできることなんてなくて、城門の隅で出発の時を待つ。
マリーが遅れてやって来る。
「セツナ様、お気持ちはわかりますが…」
「…うん」
マリーが私の横に並んだ。
しばらく黙ったままだったけれど、静かにこう言われた。
「セツナ様はもっと堂々としていてください」
「ど、堂々?」
「はい。絶対にアッシュ様を助けるだ!って、もっと周りを引っ張っていくような」
「私って、そんな感じなの?」
「セツナ様が行くって言ったから、みなさんが動いているんじゃないですか」
マリーは私を励ますように笑る。
そうな風に、マリーには私が見えていたのか。
あんまり自覚は無いな。どちらかというと、周りを困らせていると思っていた。
「あと、私の勘違いだったらいいのですが…。
セツナ様、もしかして自分のせいだと思っていたりしませんか?」
そう言われて、少し胸がズキリとする。
私がちゃんと氣を練り続けていられれば…。たしかに、そんな風に思っていた。
「何があったかはわかりませんが、きっとアッシュ様はそんな風に思っていないと思いますよ」
「………そうかも」
たしかに、アッシュが私を責める姿なんて想像できない。
無理に思い描いてみたら、ちょっと笑えてしまった。
マリーをちらりと見てみると、安心したような顔をしていた。
なんか、私の心中を完全に察しているような気がする。
「ありがとうマリー、絶対に助ける」
「はい」
それから二人で旅の準備をずっと待ち続けた。
馬車が用意されて、食料などが詰まれていく。
双子も支度を終えてやって来て、何やら色々と積み込んだ。
完全に準備が終わったタイミングで、キョウヤ様も到着する。
前回の魔物討伐の時に比べると、少し身軽な格好をしていた。
「すみません、お待たせしました」
「大丈夫です。騎士団長が留守にするわけですから、色々とあるでしょうし」
そう、本来だったらお城から離れられない身。
良くも悪くも、私が聖なる巫女だからこうしてキョウヤ様が同行してくれる。
「では、すぐに出発しましょう。この時間ならまだ隣町へ辿り着けるはずです」
私は馬車に乗り込んだ。
「じゃあマリー、行って来る」
「いってらっしゃいませ、セツナ様」
続いて双子が乗り込む。
最後にキョウヤ様が馬車の運転手と話をしていると、一人の騎士が血相を変えて走って来た。
「大変です団長!」
「何事だ?」
「魔物の…魔物の大群がモルロックに出現したとの連絡が入りました!」
「なんだって!?」
モルロックって、たしか街の名前。
そこに魔物の大群が現れたのなら、すぐに討伐へ向かわないと!
そう考えた時、キョウヤ様と目が合った。
その瞳には、一人の騎士として私に付いて行くか、騎士団長として魔物討伐へ向かうか迷いが見えた。
キョウヤ様がいてくれたら心強いけれど、私とアッシュのためだけに騎士団長を連れてはいけない。
「キョウヤ様、私たちなら…」
そう言いながら馬車から顔を出すと、一人の男性がお城の方から歩いて来る。
その男性はいつもと格好と違い、武器や防具を軽装備していた。
その佇まいは歴戦の戦士。歳を召されている分、キョウヤ様よりも強者感がある。
「オズワルド様!?」
私たちのもとへ来たのは、元傭兵と言っていた神官。
「ドワーフの村へは私が同行します。あなたはモルロックへ向かってください。
優秀な指揮官がいなくては、部隊の力は半減してしまいます」
あの優しかった目が、今はするどく光っている。
その眼差しに、キョウヤ様も一瞬たじろいでしまっていた。




