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死闘の結末

日本でまだ暮らしていた頃、魔物のような生き物は一切いなかった。

だが、今までの魔物は私が知っている生き物の定義からはそれほど離れてはいなかった。

このガルマという魔人はまったく違う。

人間のような姿で、人間のように動き、人間のように話す。

なのに、いくら致命傷を与えても平然と生きている。


こんなモノに、どうやって勝てばいいのだろう?

天才と呼ばれた私が一個体に恐怖したのはもしかしたら初めてだったのかもしれない。


「いやいや、本当に君は強いね。人間なのか疑っちゃうよ」


ガルマが残っている手を振り上げる。


避けなきゃ!

私はガルマから腕を抜き、後退しようと屈んだ。

その時、ついに氣の強制解放が限界を迎える。

氣だけではなく、体の力まで抜けていき、私は脚を伸ばすことなくそのまま倒れてしまった。

なんとか腕で上体を起こしたままにしているが、ふんばりが効かない。


このままじゃ…私…。


がふっ!!


体を跳ねさせ、ガルマが吐血する。


「えっ?」


私が貫いた腹を押さえる。

今頃痛み出してきたように、ガルマは苦痛に悶えだした。


「なっ!なんだこれ…?どうなって…く、苦しい…」


あまりの痛みに黒い球体を落とし、後ずさりしながら壁にもたれかかる。


「痛い…痛い!なんで私がこんな…」


ガルマは顔を歪ませながら、腹に穴を空けた私を睨む。


「あー…、そうか、そういうことか。くそ…なんて不幸だ」


ガルマは苦しそうに、切り落とされた腕を地面に向けると、少しずつ魔法陣が浮かんでくる。


「罰を受けるのは嫌だけど、今の私じゃ人間でも殺せてしまう。だから私の負けでいい」


魔法陣が光り、ガルマの姿が徐々に薄くなっていく。


「この借りはかならず返す。伝説通り我々の天敵だったわけだな。聖なる巫女…」


そして、ガルマは影も形もなくなった。


勝ったの?

ううん、一対一だったら負けていたかもしれない。


でも、なんとか生き残れた。

何が起こったのかわからないけれど、最後の一撃だけはガルマにダメージを与えられた。


私は全身の力を抜いて、会場の天井をあおぐ。


「…すごいやセツナちゃん、あんな化け物を…追い返せるなんて…」


アッシュの声がする。

よかった、間に合ったんだ。


私はなんとか頭だけ動かして、声がした方を見る。


そこに、たしかにアッシュがいた。

だけど、目から上が石化を始めていた。


「…!!アッシュ!」


すぐに駆け寄りたかった。でも体が言う事を聞かない。


「アッシュ!アッシュ!!」


「あはは…元気もあるようでよかった」


弱弱しくも、いつもの調子で言うアッシュ。

石化は止まらず、体も石に変わっていく。


「だめ!!アッシュ!」


「あと…よろしく……」


そう言い残して、アッシュは何も答えてくれなくなった。

私は何度もアッシュの名を叫んだ。


すぐにジル様が私を助けようとしてくれる。

私はアッシュを先にと言ったが、ジル様は黙って私を担ぎ出した。

私は、いつの間にか意識を失った。


-----------------------------------------------------------


物心ついた頃から私はすでにクノイチだった。

日常生活の中には常に修行が盛り込まれていて、自分が普通でないことに気が付いたのは小学生になってからだった。

みんなも、私と同じように普段から力を抑えているものだと勘違いしていたのだからお笑いだ。

最初はショックだったけれど、自分が特別であることを自覚してすぐに立ち直った。たぶんこれも修行の一環だったのかもしれない。


それから社会の影で、弱きを助け強きを挫く毎日。

仲間に怒られることはあっても、つらい事も悲しい事もなかった。

私が歴史的天才であったからなのだけれど、きっと運がよかったんだ。

戦いに身を投じていれば、いつかはこういう日が来る。

私が死んだ日の…カイリのように…。


………。

……。

…。


意識が覚醒したがまぶたが重くて目が開いていない。

やわらかいものに包まれていて、自分がベッドに寝ていることがわかる。

右手だけやけに温かい。

私は目を開けて、右手の方を見てみる。


マリーが椅子に座り、俯きながら握っている私の手を見つめていた。


「…マリー?」


「セツナ様!」


右手が強く握られる。

マリーの顔に疲れが見える。すごく心配させてしまったみたい。


「お体は大丈夫ですか?」


「うん、ちょっとだけ無理したから、疲れちゃっただけ…」


自分の状態を説明している内に、気を失う前の事を思い出してくる。

あの時の恐怖が蘇ってきて体がぞわりとした。


「そうだ!アッシュは!?無事なの?」


私は掛布団を跳ねのけ、ベッドから降りようとした。

すると、マリーに両肩を掴まれて制止される。


「安静にしていてください」


「私は大丈夫だから、それよりも…」


私が何かを言う前に、あのマリーが自分の思いを強く主張した。


「じっとしていてください!」


初めて聞くマリーの怒鳴り声。

マリーも初めての事だったのだろう。その一言だけで少し息を切らせる。


「…じっとしていてください」


今度は今にも消えそうな声でそう言った。

立ち上がる力が、私の中から抜けていく。


「セツナ様が目覚めたら、報告してもらえることになっています。

それまではどうか、安静にしていてください…」


それはもう涙声だった。

俯いて、前髪で目が隠れてしまっているが、マリーは肩を振舞わせて泣いていた。


「わかった。ごめんなさい」


私はベッドに戻った。

マリーは目を擦り、私が目覚めたことを報告しに行くと部屋を出る。


無音の部屋で一人、ぽつりと独り言を言う。


「…難しいな」


私はアッシュがどうなったのか心配でたまらない。

それと同じくらい、マリーは私を心配してくれている。

満身創痍になった私を、大空で行方不明になってしまった私を、魔物の襲撃で気を失った私を。

マリーは、いったいどんな気持ちで迎えてくれているのだろう?


少し心を痛めながら、そんなことを考えていると、マリーが戻って来た。

連れて来たのはキョウヤ様だった。


「セツナ様、意識が戻られたようでよかった。

怪我などは無いと聞いていますが、本当に大丈夫ですか?」


キョウヤ様も私を心から心配してくれている。


「はい、大丈夫です」


私はちょっとだけ笑顔を作り答えた。

キョウヤ様も笑い返してくれて、ベッドの横まで来てくれる。


「ジルから報告を受けました。魔人と名乗る魔物が襲ってきたと。

それも、セツナ様の攻撃を幾度と受けて生き残った強敵であったとも」


私は小さく頷く。

あんな魔物、ゲームでも見たことがない。

しかも、あれが一人だけではない気がする。


「狙いは、王国の優秀な魔術師の抹殺。ということは…」


私はキョウヤ様の言葉を遮るために、キョウヤ様の服を掴んだ。


「アッシュは?…アッシュは大丈夫なんですか?」


キョウヤ様がわずかに悲しい顔をする。


「…アッシュは」


とても言いにくそうにしている。

私の心臓がバクバクと動き、恐怖で手足がしびれてくる。

そんなわけない。そう言ってくださいキョウヤ様。


慎重に言葉を選んでいたキョウヤ様が、ようやく口を開く。


「彼は…完全に石化してしまいました」


すっと血の気が引く感覚があった。


「そんな…じゃあアッシュは、魔法で助けることはできないのですか!?」


「方法だけならあるのですが、それを実現することが…」


「方法?…方法はあるのですか?なんですかそれは?」


私は上体を起こしてキョウヤ様に詰め寄る。


「…石化を解除する魔法は存在するようなのです。

ただ、誰もやったことがなく、とても貴重な魔石も必要でして…。

全力で探しているのですが、石化を解除できる時間制限もあり…」


悔しそうにキョウヤ様が言う。


「そんな…」


アッシュが…このままじゃアッシュが死んでしまう。

方法があるのに、私は何もできない。


やだ…やだ…死んだら嫌だよ、アッシュ。

悲しくて、自分の顔がくしゃくしゃになってくる。


「お姉さん!」

「あっ、キョウヤさんもいる!」


涙が零れそうになった時、アルフレッドとマルグリットの声がした。


泣き顔の私を見て、二人はぎょっとしたがすぐに真剣な顔になる。


「「アッシュさんを助けれられるかもしれない!!」」

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