来訪者
我々は、まだ魔術が確立していない頃から光の属性を認知していた。
それは場所を問わず、数々の言い伝えが残り、多くの類似点がある。
そしてそれは、魔力の源と言われるようになった。
我々は魔力を使い、人間ではできない事を可能にしてきた。
だが魔力とはどのように生まれてくるのかわかっていない。
光が魔力の源と言われて数百年だ。
おじいさんが話し始めてからだいぶ経つが、このような内容が続いている。
何を話しているのか私でもなんとなくわかるところを思うに、魔術の話はあまりされていないようだ。
ずっと、なぜ今まで光の属性について研究をしなかった?
そんな感じのことを訴えている。
それもいつしか終わり、会場は静けさに包まれる。
ひそひそ話さえ聞こえない。
魔術でもなんでもない、おじいさんの気迫に皆圧倒されているようだった。
かくいう私も、すっかり聞き込んでいた。
その先に何かある。そんな期待があった。
おじいさんが二歩下がり、こう言った。
「今からお前らに、光の魔法を見せる」
その一言で、今度は会場中がどよめいた。
まだ謎が多く、聖なる巫女しか扱えないとされている光の魔法。
それを今から披露するというのだ。
ほ…本当に?
まだ半信半疑だが、私は座っていられず席を立ち、手すりを握り少し身を乗り出す。
「おい!あまり前に出るな」
ボガードが私の横まで来るが、私はそれを聞き流す。
おじいさんはポケットから小さめの箱を取り出す。
指輪が入っているようなタイプの箱で、ぱかりと開くと中から真っ黒な球体を現れた。
それを右手で掴むと、みんなに見えるように前へ突き出す。
「これが光の魔法だ」
おじいさんがそう言うと、下に魔法陣が浮かび上がる。
それは青白い光を放ち、おじいさんを照らす。
すると、あの黒い球体が浮かび上がり、眩く輝き始める。
それを眺めていると、急に立ち眩みがしてきた。
「どうした!?」
へたり込む私をボガードが支えてくれる。
異変にすぐ気が付いたアッシュを駆け寄ってきてくれて、二人に運ばれて私は席に座った。
「セツナちゃん、大丈夫?」
「う、うん。ちょっとくらっときただけ」
なんだろうこの感じ。
立ち眩みのようで、ちょっと違う。
まるで氣が抜けていくような変な気分。
あれが…光の魔法なの?
「…なんか、おかしいぞ」
ボガードが言った。
「魔力が…?いや、この会場全体の空気が…」
「お、おい、どういう事だい?」
ボガードは何かを感じているようだが、アッシュにはわからないようだ。
ふらふらする頭で輝く球体に再び目を向ける。
おじいさんの様子があきらかにおかしい。
「違う…これではない…、なんだこれは?」
おじいさんは困惑しながらそう言うと、球体を止めようと両手で掴みかかる。
しかし、押し返す力が働いているようで、あと数センチというところで触れられない。
ボガード同様、会場中の人が異変に気が付き始め、席を立つ者も現れ始めた。
「たしかになんか変だね。念のため避難しておこうか」
アッシュが私に肩を貸す。
「歩ける、セツナちゃん?」
「大丈夫…」
何が起こっているのか知りたいけれど、ここにいてはいけない気がする。
私はアッシュの力を借りて立ち上がる。
最後に一目、あの球体を見ようとする。
すると、おじいさんの下に広がっていた魔法陣がふっと消えた。
逆に球体は光を強めていき、ついには会場中を真っ白にする。
「きゃっ」
あまりの眩しさに目を覆う。
その瞬間、アッシュとボガードが身を挺して庇ってくれているのがわかった。
痛いとか怖いとかはないのに、体が動かない。
しばらく光に耐えていると、徐々に弱くなっていく。
そこからもう少しだけ時間がかかり、ようやく目を開けられるようになった。
「なにがあった?」
ボガードが警戒心を強めながら言う。
「ん?あそこに誰かいないか?」
アッシュが檀上を指さす。
そこにはおじいさんがいるはず。
そう思って見てみると、いつの間にかおじいさん以外にもう一人立っていた。
身長はかなり高く、おじいさんの倍はありそう。
真っ赤な髪は炎のように逆立っている。
ロングコートを着ているようだが、筋肉粒々な男の素肌が見える。
そして、その肌の色は薄紫の奇妙な色で、頭には羊の角ような物が生えている。
あれはどう見ても、人間ではなかった。
会場は静まり返り、皆が突然現れた男を見ていた。
その視線に気が付き、おじいさんが振り返る。
そして、その男の姿を見て一歩引いた。
「お…お前…」
おじいさんは男を知っているようだった。
「どういうことだ!わ…私を騙したのか!?」
恐れ、身を引きながらもおじいさんは怒りを口にする。
それに対して男は答える。
「いいや、あれはたしかに光の魔法だ。お前は何度も見ているだろう?あの輝きを」
拡声されているのは檀上周辺らしく、男の声も会場に響く。
男の声はやさしく、やわらかい笑みを見せる。
しかし、背筋が凍るような悪寒がした。
クノイチをしていた時、数回同じような感覚を受けたことがある。
その相手はどれも巨悪。話を聞くだけで気分が悪くなる外道。
その男のヤバさを二人も感じているようで、緊張感が伝わってくる。
「う…嘘だ…、光の魔法が…このようなものなわけがない…」
おじいさんは、男の言葉と自分の認識の狭間で揺れる。
「ひどいじゃないか、もっと良く見て」
男が左手をかざすと、球体がそれに引き寄せられる。
球体は握り込まれると、再び光り始めた。
「あ…あぁ…」
ひどく恐怖していたが、おじいさんは球体から目を離せない。
力無く膝をつく。
そして、人間が目元から石化していくありえない光景を私は目にした。
おじいさんは最後の姿のまま、動かなくなってしまう。
男の危険な気配は感じてもどこか現実味がなかった観客たちに、ようやく恐怖が宿る。
悲鳴をあげながら我先にと会場の外へ逃げる。
狭い出入口に人が集まり、身動きが取れなってパニックを起こす。
男はそれを笑顔でただ見ていた。
いったい何が起こっているのか?
一見会場を乗っ取るテロに見えるが、犯行に及んでいるのは一人、観客を人質に取ろうとする素振りさえ見えない。
「セツナちゃんはここにいて」
アッシュが私を椅子に座らせる。
ボガードと共に檀上へ向かおうとしていた。
「私も行く」
「そこでじっとしていろ」
ボガードがするどい目付きで私を止める。
いつもの口の悪さではなく、本気で来るなと言っていた。
でも、だからこそ、二人だけで行かせられない。
檀上の方から別の声がする。
「貴様、何者だ!?」
警備兵と魔術師たちが男を取り囲んでいた。
その中にはジル様もいる。
「あぁ…そうか、こうして表舞台に出るのは初めてだったな」
ジル様と肩を並べる優秀な魔術師に囲まれながら、男は不敵だった。
男は胸を張り、堂々と言い放つ。
「俺の名はガルマ。見ての通り人間ではない。では何者か?…そうだ、この老人が一度だけこんな風に呼んでいたな。
人間の形をした魔物、魔人と。
お前たちが言うところの魔物でいいのだが、いやはや、この呼称が気に入ってしまった」
ガルマと名乗った男は、自分は魔物だと、魔人だと言った。
人の言葉を話し、人間のように行動する魔物はいたけれど、ここまで人間に近い姿をした魔物は初めてだった。
それは皆も同じようで、その言葉に困惑している。
「目的がなにかは知らないが、魔物を自称しておいてこのまま帰れると思うなよ」
魔術師の一人が前に出て杖を構える。
ガルマはそれを静かに見つめる。
魔術師の杖の先から魔法陣が浮かぶ。
「おい待て、早まるな!」
別の魔術師がそれを止めようとする。
「うるさい!こいつはレンゲルさんを殺したんだ!
最近ずっと様子がおかしかったのも、こいつのせいだったんだ!」
魔術師の目は怒りで満ち、涙を浮かべている。
「あの老人の知り合いか?
なら話がわかるかもしれない。勘違いをしないでくれ、私はずっと彼に協力をしていただけだ」
「黙れ!!」
魔術師は叫び、それと同時に魔法陣に電撃が走り、稲妻がガルマへ向かって放たれる。
が、その稲妻は急激に威力を弱めていき、糸のように細くなって、ガルマへ届く前に消えた。
「なっ!?」
たしかに全力を出したはず。魔術師は驚愕し、もう一度稲妻を放つ。
それも同じように消えてなくなった。
ガルマはそれを知っていたようで、微動だにしない。
「なんだ?人間の魔法とはこのレベルなのか?
だったらこんなことしなくてもよかったのに…」
何が起こっているのかわかっていない魔術師たちを見て、ガルマは大きくため息をつく。
「お前らなー…、ここが巨大な魔法陣になっていることは知っているんだろ?」
とガルマは言う。
魔力が活性化するパワースポットになっていると教えてもらったけれど、魔力管をモチーフに作ったことが偶然?魔法陣になっていたということだろうか。
「それをさ、ちょちょっと反転させてやればさ…」
ガルマは何かをひっくり返す真似をして、両手をぐるりと回す。
「魔力が無効になる空間の出来上がりだ」




