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魔術師たちの研究成果

展示室を一周したあたりで、ちらほらと人が入って来るようになってきた。

話しかけてきたりはしてこなかったけれど、もしかして?みたいな空気が伝わってくる。

そろそろ席に戻りますかということで、展示室を出た。


今は特等席に座り、発表会が始めるのを待っている。

ここから見えている席は半分くらい埋まっていて、檀上ではスタッフらしき人が作業をしていた。

私はそれをぼんやり眺めていて、隣の席が一向に埋まらないのが気になった。


後ろを向いてみると、アッシュは入り口付近に、ボガードは真後ろに立っている。


「座らないの?」


「あのな、俺たちはお前の護衛で来ているんだ。ただの同行者じゃねぇ」


ボガードにそう指摘されてしまった。


うぅ…言われてみればレオナさんとかもそんなスタンスだったな。

今頃どうしているんだろう?別の人の護衛って言っていたけれど…。

アッシュかボガードのどちらかがレオナさんだったら、あんな気苦労も無かっただろうに。

なんて思ってしまった。


でもまぁ、二人ともちゃんとした兵士と言いますか、今はきちんと仕事モードになっているみたい。

それなら私ももう気にしなくていいよね?


椅子に座りながら軽く手足を伸ばす。


「んー…、早く始まらないかなー」


「セツナちゃん、何か楽しみしているものでもあるの?」


少し離れた所からアッシュが聞いてきた。


「そりゃ、今日の目玉はジル様に決まっているじゃない」


「それもそうか」


アッシュが笑いながら言った。


「しかし、ジルさんもやるよねー。何気にこうやって自分の晴れ舞台にセツナちゃんを招くなんて」


「い、いや…そういうのじゃないんだけどなー…」


アッシュがまた変な事を言うから、ボガードがぴくりと反応をしたのがわかった。


「わからないよー。少し前に話す機会があったんだけれど、セツナちゃんの話題が出てさ、あの人から誰かの話をするなんて珍しかったんだよね」


ちょっと、何それどういうこと?

ジル様が私の話を?…いったいどんな?

っていうか、どうやってジル様と世間話をする仲になったの?


「ねぇ、ちなみにジル様はー…なんて言っていたの?」


「それは秘密に決まっているじゃん」


アッシュがわざとらしく笑って見せる。

じゃあそんなこと言わないでよ、気になるじゃん!


「もう!そうやって私のことからかってばかりで、ほんっとにもー嫌なやつなんだから」


私は怒ってますという意思表示として、腕を組み、どすんと座り直した。


まったく、よくあれでライバル宣言なんてできたものだ。

なんか、私を好きになってくれる男子のクセがちょっと強いような…。

ん?もしかして私、そういう体質だったりする?


えー…本当にー?

なんて考えながら静かに時が過ぎるのを待っていると、会場はいつしか満席になり、檀上に上がった司会者が発表会の始まりを告げる。


難しい挨拶に、控えめな拍手。

これは決して舞台などのエンターテイメントではないことを物語っている。


簡単に今日の発表者と題名が紹介されると、さっそく一人目の発表が始まった。

聞いているのは魔術師ばかりではないのだろう。最初はわかりやすい概要から入ってくれる。


なになに、周りの光や熱から魔力を作るための術式か。

ソーラーパネルみたいなことかな?

魔力を自然界に収めることで魔法が成り立つなら、自然現象は魔法の一種と考えることができ、そこから魔力を採取するための魔法陣と…。

そこまではよかったのだが、後は専門用語のオンパレードでもう何を言っているのかさっぱり。

たまに図や表を出してくれるのでイメージを膨らませることができるのだが、何がどうすごいのかまではわからなかった。

魔術師でない他の人はわかっているのか?と疑問に思ったが、魔法に関してまったくの無知であるのは私だけなことに気が付く。


うぅ…、眠い…。

学校の授業も退屈だったが、わかる話をしているだけマシだったことを痛感する。

しかし寝てしまうわけにはいかない。

今日この場では、聖なる巫女が来ていることをみんな知っているはず。

いつ誰に見られているかわからない。


しかたない。

ここはクノイチの侵入モードを使おう。

私は氣を一旦お腹のあたりに集めると、それを膨らませて広げていく。

感覚が研ぎ澄まされていき、次第に周りの雑音や匂いを感じ始める。

拡張されている発表者の声がうるさいくらい響いてくる。

疲れるけど、これなら眠くなることはなくなったはず。


こうやって、二人目三人目と凌いでいく。

だが、思っていたよりも疲労があった。

今までは無音に近い所でしか使ってこなかったけれど、発表者の声が脳まで届く勢いなのでくらくらしてきている。


そんな状態になった時、四人目はついにジル様の出番。

ジル様だったらどんな内容でも寝ないはず!

私は安心して侵入モードを解いた。

しばらくは敏感になっているけれど、気を張っていないので楽になる。


ジル様が檀上に上がり一礼すると、心なしか拍手が大きかった気がした。

さすがジル様、まわりからの期待も大きいのだろう。

そしてスーツがよく似合っていらっしゃる。


ジル様の発表が始まる。


「改めて、私が今研究しているのは…魔力による身体強化です」


という一言から始まり、ジル様の長い長い発表が続く。

当然何を言っているのかさっぱりだが、ジル様の声がいいのはもちろん、話のテンポもよくてなんか聞いていられる。

かっこいいお姿を見ているという目からの刺激もあるので眠気はない。


私は今、すごくいい感じで聞いていられている。


それと同時に、まわりの様子が少しおかしいことに気が付いた。

わずかにだが、ざわついているような…。


「ねぇボガード」


私は小声でボガードに声をかける。


「ジル様の発表になってから、なんか見ている人達の様子が変わっていない?」


ボガードは今一度あたりを見渡すと、小声でそれに答えてくれた。


「まぁ、今しゃべっていることは今までの常識をひっくり返そうとしている内容だからな」


「ひっくり返す?」


私は意味がわからずボガードのことをまじまじと見る。

説明してほしい私の意図が伝わり、ボガードが少しだけ話してくれた。


「魔力は人体に作用しない。応急処置の技術ならあるが、術式と錬金術を駆使してようやく医療器具が作られている感じだ。

それが間違っているんじゃないかということを言っている」


言われてみれば、色々な魔法を見てきたけれど、見るからに回復魔法と言えるものにはまだ出会っていない。


「でもさ、もしそれが本当ならすごい発見じゃない」


「たしかにそうだが、本当は人間は石を食べることができるんですってレベルの話だ。

おまけに、俺がわかる範囲では仮説も仮説、成果や発見というにはちと遠いぜ」


私はそれを聞いてジル様の方に向き直る。

ジル様は一生懸命説明しているが、手ごたえの無さを感じているのか焦りの色が見える。

最初からこうなることがわかっていたんだ。だから私をここへ呼んだ。

だとしてもなぜ?

ボガードの話の通りなら、もう少し研究をして証明できる何かを見つけてからではだめだったのか?


なんかジル様らしくない。なにかを急いでいるの?


ジル様の発表が終わり、一礼して檀上から降りる。

始まりの拍手に比べて、終わりはあきらかに小さい。

どんな研究結果なのか楽しみにしていたのに、期待外れだったといった雰囲気だ。


ジル様のことが心配になり、私は思わず両手を握る。


「ねぇ、今からジル様に会いに行くことってできるかな?」


私は後ろの二人に聞いた。


「いや、面会ができるのは全部終わってからだけだよ」


アッシュが軽く首を振りながら言う。


「それに、次の発表もセツナちゃんは聞いていた方がいいんじゃないかな」


檀上の横見ると、次の題名が貼り出されている。

そこには、光の属性と魔力の本質と書かれていた。


ジル様が言っていたやつだ。

この話を聞いてみたら、何かあるかもしれないと冗談のように言っていた。


10分ほど休憩時間があり、その発表が始まる。

檀上に上がったのは、かなりお年を召されているおじいさんだった。

歩くのも大変そうで、声もよぼよぼだった。

そのせいか、周りの反応も薄い。


そんな人が、いったいどのような話をするのだろう。

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