宣戦布告
「なっ!?」
まさかの図星をつかれ、クールだったボガードの表情が崩れる。
「えっ?なに…マジだったの?」
思う所はあったのだろうけど、冗談のつもりで言ったのに本気で驚かれてしまいアッシュの方も面くらっている。
しんと静まり返る。
見て取れるくらいボガードの顔が赤くなっていた。
「…だったらなんだよ?」
ボガードは否定しなかった。
立ち向かうようにアッシュと向き合う。
「なんだよと言われても…困ったな…」
アッシュは両手を顔の高さまで上げて、ちょっと待ったといったポーズをとり、私を見る。
苦笑しているような表情だったが、私のことを気遣ってくれたような目だった。
私はどうしたらいいかわからず、アッシュに何も応えることができなかった。
私の様子を確認したアッシュは、少しだけ天井を見上げながら何かを考える。
ゆっくりと両手を下ろすと、ボガードに対抗するように一歩詰める。
「ごめんよ。たまたま当たっちゃったとはいえ、こんな形で伝えることになっちゃって…」
「…別に構わねぇよ。あいつはもう知っている」
それを聞いてアッシュは再び驚いた。
今度は私に振り向いたりせず、ボガードから目を離さない。
「そっか…やるね、君」
戦闘中でも見せなかった、アッシュの真剣な顔がそこにはあった。
それにボガードも気が付いて、まるで敵と対峙したかのような目つきになる。
そんなボガードに対してアッシュがこう言い放つ。
「なら、俺たちはライバルってやつだな。まさかこんな早くリードしてくる奴がいるとは思っていなかったけれど…」
………!
今、アッシュはなんて言った?
ライバル?それって、えっ?そういうことで合っているよね?
最初は二人が喧嘩を始めてしまわないかドキドキしていたけれど、今は別の理由でドキドキしてきた。
初めて私に告白してくれた男子と、おそらく一番身近な男子が、私を取り合っている…ようにみえる。
これは現実なのだろうか?
異世界転生よりも現実的な出来事なはずなのに、ふわふわした変な気持ちになってくる。
こうしてモテるのが初めてだから?
それとも、まだアッシュの気持ちに関してはちゃんと聞いていないから?
…いや、言葉に出していないわけではなかった。
それに、ここへ来た時からずっと楽しませてもらっている。
じゃあ本当に、アッシュも私のことを?
「ライバルだと?」
リードされたと言っておきながら、どこかまだ余裕が見えるアッシュにボガードも譲らない。
アッシュはその問いかけに無言で答える。
ど、どうしたらいいのこの状況?
現実ではもちろんだけど、ゲームでもこんなの無かった。
まさか…今ここでどちらかを選べなんか言い出さないよね?
「セツナちゃん」
「は、はい!」
アッシュがいつもの笑顔で私に声をかける。
「なんかごめんね変な空気になっちゃって。見学行く?
三階にこの会場にまつわる展示品とかあるんだって」
………えっ?
この流れでそれを聞くの?
もっとあるんじゃないの?…まぁ、聞かれたところで困るのだけれど。
「あ、えーと…」
「行ってこい」
私が返答に困っていると、ボガードが見学へ行くように促す。
「…ボガードは?」
「俺は…」
「もちろん来るだろ、護衛なんだから」
行かない雰囲気を出したボガードを、アッシュが引っ張り出す。
うーん…、見学なんてする気分じゃないんだけれど、ここで黙って座っているのもどうかなー…。
私は考えた末、見学へ行くことにした。
私が頷くと、アッシュが部屋を出たので私はそれについていく。
「あっちだよ」
アッシュが廊下奥を指さして歩き始める。
私も歩き始めると、少し時間をおいてからボガードも部屋から出てきて追いついてくる。
私はアッシュとボガードに挟まれる形になった。
なんだろうこれ?
やっぱりやめておけばよかったかな?
モテるのもそれはそれでつらいと聞いたことがあるけれど、こういうこと?
展示室までやって来る。
壁沿いに机が並んでいて、そこに本や資料が置かれている。
壁には絵が飾られていて、建設中の会場や今までの行われたイベントが描かれている。
部屋の中心には、この会場の模型が置かれていて、どんな形をしているのかよくわかるようになっていた。円形を基本的に作られているようだが、無秩序に廊下が枝分かれしているように見える。
「へぇ、なんか長い歴史があるんだね」
年表を見てみると、もうすぐ二百年を迎えようとしていた。
こうやって思ったことを口にすることで、ただの見学モードになりたい自分がいる。
私まで気まずい感じになってはいけない気がしていた。
「そうみたいだね。ここは魔術の為に建てられてた初めての建造物らしいよ」
アッシュがそう説明してくれる。
「会場が…魔術のため?」
「魔術の発展のために研究を共有しようと、魔術師たちが集まり出したのをきっかけにこの会場を作ることになった。
その時に、さらなる発展を願って魔力の流れをモチーフにした構造になっているんだって」
「魔力の流れか、そういえば似たような話をジル様から聞いたような…」
たしか、血管のように魔力を流れるところがあるとかなんとか。
ジル様の話を思い出そうとしていると、ボガードが後ろから補足してくれる。
「魔力管だ。当時はまだ魔力を可視化できなくて予測に基づくものだったが、ほとんどズレはなかったらしい」
「そうそれそれ、さすがボガード」
これがいつもの私だったか?と疑問に思うテンションだった。
急に明るく反応されて、ボガードもちょっとだけ驚くが、咳払いをして補足を続けてくれた。
「しかも、それが魔術的に意味があるものだったことが後からわかり、魔術の発展に大きく貢献することになったんだと。
魔力が強い奴がここにいると、魔力が活性化していくのを感じるらしく、そこから術式などとの関係性が研究されたんだ」
「いわゆるパワースポットってやつだね。魔術的に解明されているけれど」
最後にアッシュがわかりやすくまとめてくれる。
「へぇ、じゃあボガードは何か感じたりするの?」
「別に…俺は魔法を使うが、魔術を使えるほどじゃないからな」
それを聞いて一つ疑問が浮かぶ。
あれ?魔法と魔術って何が違うんだっけ?
「それって、どういうこと?」
「それ?…あぁ、お前は何も知らないんだったな。
簡単に言えば、俺は魔法道具無しでは魔法が使えないってことだ」
魔法道具か、お城の灯りとか、医療器具とかになっている物のことだったような。
たしか、貴族のパーティーでも術式でどうとかってキョウヤ様が言っていたな。
ということは、ボガードが言っているのって。
「もしかして、矢じりが魔法道具になっているとか?」
「そういうことだ。弓兵は魔力を使って威力や起動タイミングを操作しているに過ぎない」
なるほど、半分魔法とはそういう意味だったのか。
「魔術だけで狙いを定めたり、遠くへ飛ばしたりするのは無理だからな。
そういうのが俺たち弓兵の領域だ」
そう教えてくれるボガードは少々誇らしげに見えた。
「なぁ、それって俺の槍に付けたりもできるの?」
アッシュがしれっとボガードに質問する。
ボガードが口を閉じたので一瞬ひやりとしたが、それには普通に答えた。
「できなくはないが魔法道具はもろい。一撃必殺以外はすすめられないな」
「一撃必殺か…」
「換装式を考えたならそれもやめておけ」
「あはは、さすが察しがいいね」
…なんか普通に話してないこの二人。
先ほどはあんなにバチバチ?だったのに。
武器の事だから真面目に話したのか、ライバルと書いて"とも"と読むのか。
それから少しだけ武器談議が続いた。
きまずい雰囲気がなくなったのはいいけれど、どぎまぎしているのが私だけかもしれないのが複雑な気分。
放っておかれていると、あの時のアッシュの態度が気になってくる。
彼は本気でボガードにライバル宣言をしたのだろうか?
ボガードは本気だということに気が付いているはずだから、冗談ではないと思うのだけれど。
わからない。自分の感覚に自信が無い。
こんな状態で、これから魔術の難しい話を聞けるのだろうか?




