光の属性
札にジル=クラークと書かれたドアの前。
コンコンとマリーがノックする。
前回と同様、特に反応が無い。
マリーがこちらを見て、いらっしゃるんですよね?と目で問いかけてくる。
私はうんと頷いた。
「失礼します」
マリーがドアを開けて、私を中へ入れてくれる。
きれいに整頓された部屋。
前回と違ったのは、そこにジル様がいなかったこと。
「あれ?」
おかしいな。時間は合っているはずなんだけど?
と思っていると、研究室のドアが開く。
出てきたのはジル様だった。
何かを考えていたみたいで、目はどこも見ていなかったが、一歩踏み出した時に私たちに気が付く。
「お前たち…。そうか、そういえばそんな予定が入っていたな」
ジル様は小さくため息をついた。
本来だったら少し傷つくところだが、相手はジル様なので予測の範囲内。
なにより、ため息をついた理由が一目瞭然だった。
なんとジル様、今日はいつもと格好が違う。
眼鏡は前回通りとして、あの魔術師の格好ではなくスーツ姿だった。
髪もまとめられていて清潔感が上がっている。
なんでもないように振舞ってはいるが、それを私たちに見られたのがたぶん照れくさいのだ。
なんて察しがついても、思わず見惚れてしまう。
綺麗と言われて喜ぶ男性がいるのかはわからないが、それ以上の誉め言葉が見当たらない。
かっこいいとも言えるのだが、それだとちょっと味気ない。
「何を見ている?」
案の定、いつも通り睨まれてしまう。
だがこちらもそれ込みで楽しんでいる。
「今日はどうしたんですか?その格好…」
聞いてくるなという顔をされたが、無視する方が失礼な気がする。
「学会の発表が近いのだが、この格好でないといけないらしい」
やれやれといった様子で首元を少し緩める。
魔術師の格好と比べるとたいぶ窮屈そうだ。
「新しく作ったから、念のため試着していたんですね」
そうか、発表とやらで色々と準備があるから昨日は会ってもらえなかったのか。
「そういうことだ」
ジル様がドア付近まで近づいてくる。
「どうした?入らないのか?」
そう言われ、私たちは部屋に入りドアを閉める。
「座っていろ、いちいち言わせるな」
ドアの前で立っていた私たちは接客用の椅子に座らされる。
「コーヒーでいいか?」
「は、はい」
言い方は少々きついが、流れるように私たちはもてなされる。
座っている私たちの前にコーヒーが並び、砂糖とクリームが置かれる。
ジル様も椅子に座るが、ジル様のコーヒーはなかった。
「万が一にも汚すわけにはいかないからな」
それなのに私たちには用意してくれるあたり、やさしさが垣間見えてしまう。
「それで?今日は何を聞きに来た?」
「はい、実はですね」
私は前回の魔物討伐をことを簡単に話した。
「それで、ボガードが言うにはあの魔物は火の属性じゃないかと言っていまして…」
「あぁ、そいつの羽なら受け取って見させてもらった」
ジル様は立ち上がり、自席の引き出しから書類を取り出す。
それをテーブルに置いて、私たちに見せてくれた。
が、小さい文字がびっしり書かれて早くも眩暈がしそうになる。
「まぁ、これを見せたところでわからないだろうが…」
なら、なぜ見せたのだろう?
「お前が聞いた通り、あの魔物は火の属性を持っているで間違いないだろう」
ボガードが言っていた事は合っていた。
弓術の半分は魔法だと言っていた通り、そちらの知識もちゃんとある。
「今日はその属性について教えてほしくて来ました。
あの魔物は、火の加護を受けていたから火にとても強く、その代わり、他の属性には弱いということは聞いたのですが」
「他の属性に弱いというのは違うぞ」
ジル様が私の認識違いを指摘する。
「言葉のあやだったのかもしれないが、火の属性を持っているから他の属性が弱点というわけではない。火以外の魔法の習得が難しくなるのだ。
魔物に魔法の概念があるとは思えないので、関係無いと思うが」
「火の属性を持つと、火の魔法専門になるということですね」
「そのくらいの理解でちょうどいいだろう」
火が苦手そうなのは水。
でもあの魔物は水を嫌がった感じはなかった。
なるほど、たしかに弱点というわけではなさそうだ。
「では、属性というのは四大元素と関係があるというのは?」
「それはだな…」
そこから30分ほど属性についてジル様から事細かく説明を受けた。
しかし、最初に教えていただいた事以外はさっぱり。
なるべく私にわかるように言葉を選んでくれているのは感じるが、こちらの世界の人間ではない私には知らない単語が多すぎた。
属性とはあまり関係ないが、四大元素を様々な形で組み合わせることで色々な物質や現象ができて、この世界が成り立っているということはなんとなくわかった気がする。
ジル様はまだ説明し足りない様子だったが、私の疲れが見てとれたのか、最後に補足を付けて一区切りつけようとしてくれた。
「最後に一つ。今話したのが属性の基本だから省いていたが、属性は四大元素の火・風・水・土だけではない。それに光と闇が加わり全部で6つとなる」
「光…それって」
「あぁ、聖なる巫女が持つと言われている魔力、光の魔法と関係がある」
光の魔法。
かなり今更になるが、それがなんなのかわかっていない自分がいることに気が付いた。
ゲームでは、聖なる巫女がその魔法を使い、仲間を助け、魔物を倒している。
私は、光の魔法をそういう感じのモノとなんとなく知っていたせいで、追及するという考えに至らなかった。
「すみませんジル様、私が聞くのもおかしな話なのですが、光の魔法とはどのようなものなのでしょうか?」
ジル様は一瞬だけじっと私を見た後、テーブルに視線を落とす。
また、ため息をつかれて嫌味の一つでも言われると思った。
が、ジル様は普通に光の魔法について教えてくれた。
「まず光についてだが、世界を構築している四大元素とは異なり、生命や魔力の素と言われている」
「素ですか、ということは誰でも持っているとも言えそうですね」
「そういう考え方もあるが、まだほとんどわかっていないというのが現状だ」
生命や魔力の素か。
ゲームでは仲間を強化したり回復させたりしていたので、なんとなくイメージは合う。
それに素ということは、魔力になる前の形って感じがするな。
梅を干して梅干しにしないとごはんのおかずにならないみたいな…。
「あれ?もしかして」
私の中に一つの仮説が浮かび上がる。
「ジル様、魔力の素というのは、魔力になる前の別物だったりしますか?」
「…今のところはそういうことになっている」
「ではもし、私が光の属性を持っているとしたら…」
ジル様の視線が再び私に向く。
「お前に魔力が無いのは、光の加護を受けていることが影響して、魔力が素のままで止まっているため。
それが光の魔法の特性なのか、他の属性の習得が難しいせいなのかはわからないが…」
ジル様が私の仮説に近いことを先に述べてくれる。
「なるほど、たしかに可能性がありそうだな」
すぐに私が言いたいことを察してくれたが、その考えには初めて至ったようだ。
指で机を静かに叩きながら、何やら色々と考え始める。
「あの、では私の属性を調べることってできますか?」
私はずいっと身を乗り出す。
しばらくジル様からの反応を待ったが、長くなりそうだったのでこちらから声をかけた。
私の声がジル様に届き、指の動きが止まる。
「それは残念ながらできない」
「なぜでしょうか?」
「先ほども言った通り、光の魔法についてはほとんどわかっていない。
故に属性を調べる方法も無いのだ」
うーむ、日本にいた頃の科学でもそうだったけれど、生命の神秘は未知の領域のようだ。
「ただ、その仮説はお前を調べれば証明できるかもしれないな」
ジル様が不敵に笑う。
その笑みにわずかながら狂気を感じ、背筋がぞくりとする。
マリーも怖くなったのか、私の腕を両手で掴んだ。
氣の研究をした時のことを思い出す。
あの時はのせられて頑張ってしまったけれど、大変だったな。
ジル様も完全に研究モードで何言っているのかわからなかったし。
光の魔法について知ることは私にとっても重要なことだが、またあの流れになるのは今日は勘弁かな。
ジル様もお忙しいみたいだし、それにこれ以上は私の頭がもたない。
私は最後にユリさんからのお願いを果たすことにした。
20万文字まで来ました。
読んでくださっている方々、ありがとうございます。
ここから更に話を盛り上げていきたいと思っていますので、よろしくお願い致します。
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