聖なる巫女の休日
「おい、まずてめぇはなんなんだよ?」
ボガードがメンチを切ってクリスさんを脅かす。
下から睨まれたクリスさんはその視線から距離を取ろうとしてのけ反った。
「あ、あの…僕はですね…」
私の目には、中学生からカツアゲされている大学生のように映った。
「ボガード、そうやって誰にもつっかかるのをやめてよ」
私は二人の間に入って引き離す。
「この人はクリス=アンヘル。サーカスの団員で、とってもすごかったんだよ」
ボガードは口のへの字に曲げながら私の話を聞いた後、私越しにクリスさんを見る。
「そんなことはどうでもいい。俺が聞きたいのは、そいつがお前になんの用があるんだってことだ」
「用…?あっ、そうか」
私はクリスさんに振り返す。
クリスさんは私に隠れるように身を丸くしていて、なんだか情けない。
サーカスの間はあんなにかっこよかったのに、どうしてこんなに差があるのか?
「そうそう、約束の件をどうしようか聞きたくて待っていたんですよ」
「あっ、そのためにわざわざ…、ありがとうございます」
クリスさんが照れながらペコリと礼をする。
「あっ?なんだよその約束って?」
ボガードが後ろから割って入って来る。
「この前あなたに教えた事を、クリスさんにも教えてあげるだけだよ」
「はっ?なんでそいつにそんなこと?」
なんだか気に入らないという気持ちがボガードが漏れ出ている。
威圧してくる割に何が言いたいのかわからない。
それなら、時間がかかってもちゃんと言ってくれるクリスさんの方がマシに思えてきた。
すると不思議なことに、レオナさんへの態度や、ロック様との喧嘩など嫌な面ばかりが脳裏をよぎり始める。
なんだかボガードに意地悪をしたくなってきた。
「別にいいでしょ。私の勝手じゃない」
「俺はあんな奴といるのはごめんだぞ」
「なら、ボガードは明日来なければいいじゃん」
「な、なんだと…?」
茫然とするボガード。
まさかロック様の提案を蹴ってくるとは思っていなかったようだ。
「大丈夫よ。ロック様には黙っておくから」
ボガードは何か言いたげだが、喉まで出かかって止めてしまう。
「そういうわけだからクリスさん。じゃあ明日、出会った場所で待ち合わせをしましょう」
「は、はい…」
気まずい雰囲気に居たたまれなくなっているクリスさんが小さく返事をした。
「じゃあ決まりですね。帰ろっかボガード」
そう言うと私はボガードを返事を待たずに歩き始める。
「おい、待てよ」
ボガードは一回だけクリスさんを見ると、すぐに私を追いかけてきた。
だが、それからは何も言わず私の後ろを歩いている。
私も振り向いたりしないので、ボガードが今どういう顔をしているのかわからない。
ちょっとやり過ぎちゃったかな?
でも、私のいる所で誰彼構わず威嚇されてはたまらない。
上から目線で申し訳ないけれど、これで少し考えて直してくれたらいいんだけどなー…。
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翌朝。
私はクリスさんと出会った公園へやって来た。
街で遊ぶのに武道着なのがつらいところだが、これしかないのでしかたない。
少し早かったのか、まだクリスさんは来ていないようだった。
ただ、少し離れた所にボガードはいる。
腕を組んで木に寄り掛かり、横目でこちらの様子を伺っている。
ロック隊長の命令で私の護衛をしているだけ。というテイなんだろう。
まぁ、素直に一緒に遊びたいというキャラではないからいいのだが、いつまでその態度を貫くのかは気になるところ。
ボガードを気にしていると、遠くにクリスさんがいることに気が付いた。
向こうも私に気が付いてくれて、軽く会釈をして小走りになる。
しかし、途中でボガードの存在に気が付いて足を止めてしまった。
まさかいるだけで邪魔になるとは…。
いや、これは気弱過ぎるクリスさんにも非がある?
もー!なんでこんなにやきもきしなくちゃいけないのよ。
ゲームでこの二人を好きになれなかった私は、この事態を予感していた?
しかたなく残りの距離を私から詰めた。
「おはようございますクリスさん」
「おはよう…ございます」
挨拶を返してくれるが、まだボガードが気になっている。
「気にしないでください。これ以上は近づいてこないと思いますから…たぶん」
「そ…そうなんですか?」
私とクリスさんは少し雑談をした後、人通りの少ない場所へ移り、私の芸を教えることにした。
芸と言っても、今まで通り氣を伝授することになる。
私のやったことは氣の応用であり、クリスさんのバランス感覚をもってしても氣無しでは実現できない。
いつものように氣の説明から入る。
今までのイケメンナイツと違い、串芸しか見ていないクリスさんには意味不明だったみたいで、最後まで解せない顔をしていた。
だけど、さすがに髪の毛を使った氣を見て少しは私の言ったいた事を理解してくれたようで、素直に私に従って実践してみてくれた。
ただ、結果はいまいち。今までで一番手ごたえが無かった。
氣を実感してくれたみたいだけど、使えるようになるには時間がかかりそう。
今日はこれ以上してあげられることはなくなってしまった。
「あとは練習を続けてください。時間はかかりますが、誰でもできるようになりますから」
大人になってからだと厳しい面もあるが、私のまわりの人間は比較的センスがあったのでクリスさんもその内の一人かもしれない。
なにせイケメンナイツの一人だからね。
「わかりました。芸事は一朝一夕では身に付きませんからね。気長に練習します」
そう言ってクリスさんがにこりと笑う。
頼りないけど心が落ち着くそんな笑顔だった。
ずっと強い男性とばかり一緒にいたせいか、クリスさんといると平和を感じる。
「少し早いですけど、お昼にしませんか?
何か食べながら、どこへ行くか考えません?」
「えっ?お昼ごはんを…ぼ、僕とですか?」
少し慣れてくれて普通にお話できていたのに、急にクリスさんがあわあわし始めてしまう。
別に嫌そうな感じではない。
もしかして、女子として意識されている?
…あれ?なんかちょっとうれしいな。新鮮な気持ちになる。
女の子扱いされてこなかったわけではないが、思い描いていた理想とはだいぶ離れちゃったからね。
そう思うと、クリスさんと二人でごはんを食べるのも悪くない。
けれど、さすがにそこまではできなかった。
「ううん、私とクリスさんと…あそこにいるボガードの三人」
クリスさんは一瞬固まり、ゆっくりとボガードを見た。
「ここは私たちの驕りだから、一番おいしいお店を教えてよ」
クリスさんの返事は待たず、私は手を引いてボガードへ近づいていく。
すぐに気が付いたボガードは黙って私が何か言うのを待っていた。
「お昼ごはんを食べに行きましょう」
ボガードは表情一つ変えず、反応もしてくれない。
「そんなに拗ねないでよ。謝るから、一緒にごはんを食べて、三人でどこかへ遊びに行きましょう」
私は手を合わせて明るく謝罪する。
「す、拗ねてなんかねぇよ!」
まるで図星をつかれたかのようにボガードが怒りだす。
そのリアクションは肯定しているようなものだと思うよ?
「それに、ボガードがいないとどうやって経費にするのかわからないし」
「お…お前なぁ…」
自分の怒りがまったく私に通じていないことがわかり、ボガードが力なく項垂れた。
「だから、ね」
「ちっ、わかったよ。世間知らずなお嬢様の観光なんて見ていられないからな」
「決まりだね。じゃあクリスさん、道案内お願いします」
「えっ、えぇー…」
クリスさんは最初戸惑っていたが、昨日と違いボガードが威嚇してこないことがわかると、お気に入りのレストランへつれていってくれた。
高級店ではなかったし、別に会話が弾んだわけではないけれど、みんなでごはんを食べるのはやっぱり楽しい。
それに食事からその人の一面が見えるのも面白い。
ボガードはお肉中心で少なめ。昔は狩りをしていたみたいだし、その名残かも。
クリスさんは大盛の炭水化物。体力を使う仕事だからね。
そして私は、二人から食べ過ぎだと言われてしまった。
指摘されてしまったのは恥ずかしかったけれど、ボガードとクリスさんの意見が一致したのがなんだかおかしくて笑ってしまった。
それを見て、今度は二人が同時にバツが悪そうな態度をとったのがまた面白かった。
ひょっとしたら、この二人案外仲良くなれそうな気がするな。
さて、ちょっぴり打ち解けたところでどこへ行きましょうか?




