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大炎上

ボガードの矢は特殊だった。

胴体には筆で書かれたような模様があり、先端は淡い赤色に光っている。


以前ボガードが、弓術の半分は魔法と言っていた。

今までの経験をふまえると、胴体には術式、先端には魔力が施されている。


ボガードが弓を引き、魔物に狙いを定める。


「地を這え」


まるで大砲のような轟音と速度で矢が放たれた。

200メートルはあろう距離を一瞬で飛び、魔物の左の翼に突き刺さる。


魔物は一瞬よろめいたものの、矢には意も返さずこちらを目指そうとする。


ダーーン!!


翼に刺さった矢が破裂する。

白い煙を上げて飛び散ったのは大量の油。

重くべったりと張り付く油が魔物の羽を汚す。


突然風に乗れなくなった魔物の鳴き声が響く。

バサバサと翼を仰ぐが、高度はみるみる下がっていく。


「今だ!!」


ロック様の合図で弓兵たちが次々と馬車から降りてきて、射程距離に入った魔物に矢を打ち込んでいく。

一糸乱れる連携で途切れることなく矢が魔物を捕らえ、ついに魔物は地に落ちた。


あまりに見事な攻撃に、私は見入ってしまった。

作戦を聞いた時は正直五分五分くらいに考えてしまっていたが、物量が私の想像を超えていた。

油にしても矢にしても、いったいどうやってそれだけの量を運んだのか?

本当に魔法というものは厄介であり、頼もしい。


「第二矢!!」


ロック様の号令で、次は地面と繋がれたロープが結ばれた矢に変わる。

重く返しのついた矢が山なりで飛んでいき、魔物に絡みついていく。

油と矢だけでなく、大地の力も借りて魔物を地面に張り付ける。


「よし!突撃部隊は俺に続け!援護は魔物に動きがあるまで待機だ!」


ロック様は大剣を背負うと魔物へと走りだし、それに兵士たちがついていく。

その後ろに、弓兵であるはずのボガードもついていっていた。


「お前、なんで来ているんだよ!?」


「お前が仕留めそこなった時のためだ」


「こいつ…」


生意気な態度にロック様はピキリときていたが、その可能性も捨てきれないのでそれ以上は何も言わなかった。


その後ろ姿を、私は馬車から降りて見守った。

この調子なら私の出番はないかもしれないけど、念のため。


魔物に接近したロック様が飛びかかる。

高く舞い上がり、落下を利用して大剣を魔物へと振り下ろした。

魔物はそれをくちばしで受ける。

ガン!と強い衝撃音と共に、ロック様の大剣がはじかれる。


「なんて固さだ!」


おそらく岩をも切り裂くロック様の斬撃が効かない。


「くたばれ!」


ロック様の攻撃でひるんでいる魔物に、ボガードが矢を放つ。

矢は魔物の体に当たり、衝撃で少しよろめいた。


「休ませるな!続け!」


兵士たちが次々と切りかかっていく。

一撃一撃が小さくても、積み重ねられたダメージで魔物の体制が崩れていく。


もう少しで倒れる。

そう思った時、切りかかった一人の兵士が足に掴まれる。


二本の脚はたしかに地についている。そうなるとあれは三本目?

捉えられた兵士に一瞬を気を取られると、さらにもう一本の足が近くにいた兵士たちをなぎ倒す。


新たに現れた足は、まるで腕のように翼の付け根あたりから生えていた。

今出したのか、それとも隠していたのかはわからない。

掴んだ兵士を地面に叩きつけると、四本の足で体勢を立て直し、怪獣のような鳴き声をあげる。


チリッ…


遠くで見ている私は、何かが焼けるような嫌な予感を感じた。


「お前ら、引け!」


ロック様も同じく何かを感じ、兵士たちに注意を促す。


その予感は当たった。

魔物は火炎放射のように勢いのある炎を口からはいた。


ロック様は間一髪で躱し、ボガードは退避して距離をとる。


しかし、多くの兵士がその炎の餌食になってしまった。

熱さと痛みで兵士たちは悲鳴を上げ、武器を放り出して地面を転がる。


このままではみんな焼死してしまう!

私は馬車の荷台を蹴り破り、水樽を抱える。

その水樽を軽く投げると、三角倒立をして両足で受け止める。

そして氣で全身を強化し、魔物の方へ水樽を蹴り上げた。

さらに、その樽を追いかけて私も飛ぶ。


引火してしまった兵士たちの上で水樽に追い付くと、私は印を結んで水樽を叩く。


「水遁の術:華散(かさん)(すい)


水樽が内側からはじけると、あきらかに樽には入り切らない量の水が溢れ出す。

広がって降り注いだ水は兵士たちの火を消していく。


「嬢ちゃん!?」


舞い降りた私にロック様が驚くが、すぐに事態を飲み込んでくれる。


「すまねぇ、助かった!」


「ロック様、私が隙を作りますので、トドメをお願いします!」


そう言って私は魔物の懐へ一瞬で飛び込む。

魔物はさらに炎をはこうとしていたので、私は垂直にジャンプして魔物の頭を蹴り上げる。

魔物の口は上を向き、炎が地面に対して平行に伸びる。


一発蹴りを入れたことで私は感じたことがあった。

この魔物、大きさはどうあれ、空を飛ぶ鳥のくせに重量がある。

こんな重さでなぜ飛べるのか疑問が浮かぶが、きっと日本には無い特殊な羽とかなのだろう。

それよりも、これだけ重くて大きい相手に対して、有効な技を私はあまり持ち合わせていない。

電光石火など高威力な忍術があるにはあるが、どのくらい通用するのか見通しが立たず使いどころが難しい。


着地の際、地面がぬかるんでちょっと足を取られる。

魔物が浴びた油が地面に滴っていた。

よくこんな状態で炎をはいたものだ。油に関する知識が無いということだろうか?


待てよ、全身が羽で覆われていて油まみれ。

わかりやすい打つべき手があった。


私は飛び上がり魔物の上をとる。


「火遁の術:火蜥蜴(ひとかげ)


魔物に負けじと私も炎をはく。

その炎が魔物に引火して、あっという間に全身が燃え上がった。


魔物が再び叫び声を上げる。

いくら巨大な魔物とはいえ、焼かれることに怯まない生き物はいない。


「ロック様!」


「あぁ、任せろ!」


ロック様の大剣が魔物の首をとらえる。

しかし、大剣は首の1/3ほどで止まってしまい、頭を切り落とすことはできなかった。


「…くそっ」


大剣が筋肉に挟まってしまったのか、ロック様は燃える魔物にぶら下がっている状態になってしまう。

そんなロック様を取り払おうと魔物が前足をのばす。

それをボガードが矢で振り払う。

色々あったがナイスアシスト。さすがイケメンナイツ。


魔物の頭がだらりと下を向く。

力尽きたか?と思ったが、魔物は地面に向かって口を大きく開ける。

そして、自分を燃やすように炎をはき始めた。


ロック様は大剣を手放し、寸前で炎から逃れる。

私はロック様と合流すると、その不気味な行動を注視する。


炎を大きく燃え上がり、迂闊に近づけない。

魔物はその間微動だにしなかったが、炎が弱くなりかかったあたりで翼を広げると、その場で羽ばたいて突風を巻き起こし始めた。

炎は風に乗って竜巻のように巻き上がり、みるみる魔物から炎が消えていく。


そして私は驚愕した。

あれだけ長い間燃えていたのに、魔物の羽はほとんど焼けていなかったのだ。


「な…なんで?」


おまけに油もロープも燃え尽きてしまい、束縛がなくなった魔物がふわりと浮き上がる。


「逃がすか!!」


ロック様が魔物の首に残った大剣へ飛ぶ。


ロック様が大剣を掴むのと同時に、魔物は上空へと飛び上がってしまった。


「ロック様!!」


私も全力で飛び上がり、魔物のオッポを掴んだ。


もの凄い速度で上昇していき、いつの間にか地上にいる兵士たちが見えなくなっている。

魔物が上昇するのをやめると、私は魔物の背に乗りかかった。

風が強すぎて立っているのもつらい。


ロック様も同じく魔物の背中に現れた。

大剣を背中に背負い、魔物をよじ登ってきたようだ。


ロック様が魔物の背中に乗ろうとした瞬間、魔物が飛行を始めてしまいロック様が背中の上を転がる。

それを私は全身を使って受け止める。


「あぶねぇ、助かった」


こんな状況でも余裕を忘れないのはさすがである。


「どうしますかロック様?」


「ここで仕留めるぞ」


「ここでって…」


私たちを振り落とそうと、魔物が宙返りをしたり、急降下をし始める。

しがみ付いているのがやっとで、攻撃どころではない。

このままでは振り落とされて、魔物を逃がしてしまう。


「ガアアァァァ!!!」


突然、魔物の動きがにぶくなる。


「おい!!」


後ろの方からかすかに声が聞こえる。

振り向いてみると、そこには魔物と繫がったロープに足をからめて、弓を構えているボガードがいた。

まさか、あの体制で攻撃したの!?

ロープが焦げていないように見えたので、私たちと同様に、魔物が飛び立つ直前で捕まえていたようだった。


「なんとかしろ!!!」


そうだ、今は感心している場合ではない。

まずはこの魔物を倒さないと。

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