↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
49/210

地平線の彼方から

馬車の中で氣の練習もほどほどに、私たちは馬車を停めて、お昼ごはんを食べている。


今日の献立は、パンと干し肉と野菜スープ。

スープは出来立てで温かく、味付けも具材も毎日違う。

日持ちする食べ物だけではあるが、クノイチの携帯食に比べれば大変おいしい。

ただ、大人の男性である兵士たちには少ないだろうなと思う量だった。


「今日中に草原中央まで行くのは可能ですが、どうしますか?」


「そろそろ魔物の襲撃に備えて、戦闘態勢を取った方がよろしいと思うのですが?」


「食料の消費がちょうど半分くらいです。魔物が来なかった場合はこのまま向こう側のカザンガへ到着して折り返すことになりますね」


食事中だというのに、次々と兵士からの報告・連絡・相談がロック様に舞い込んでくる。

それをロック様は普通にごはんを食べながら、あーだこーだと回答していた。


正直ふらふら仕事をさぼっている印象しかなかったけれど、今のロック様は立派な隊長である。

お互いフランクに話をしている様子から、隊長と部下というより兄貴と子分という表現の方がぴったりな気がする。


私はロック様の隣でもくもくとごはんを食べながら、なんとなく聞き耳を立てている。

変な感じ。例えるなら父親の仕事参観みたいな?


食べ終わってもなお話は途切れず、さらに4人ほどから話を聞いてようやく終わった。


「お疲れさまでしたロック様」


私はポットのお茶をカップに注いでロック様に渡す。


「おっ、気が利くな」


ロック様はそれを一気に飲み干す。


「すごいですね。あれだけ色んな話をされたのに全部答えられるなんて」


「そんなにすごかねぇよ。俺はあいつらの考えを聞いてやっているだけだ」


「そうでしたか?私は質問に対して答えていたように聞こえていましたが」


「形式的に、隊長である俺が責任を持って最終決定を下しているに過ぎない。

あいつらは自分たちのやるべき事がわかっているし、俺が変な事を言えば反論もする。

指示が無いと動けないようなボンクラはいないってこった」


なんでもない事のようにロック様は言った。


そういえば、私に剣を向けたロック様を止めに入った兵士がいたな。

当然と言えば当然の行動だけれど、上の者に意見するって結構難しいもの。

なんでも言い合える信頼関係があるということなのだろう。


「そうでなくっちゃ、俺が働かなくちゃいけないからな」


そう言って、茶化すようにロック様は笑う。

まぁ、それも本心なのだろうけど、しっかり部下を育てているのもまた事実のようだ。


「なんだよ?なんとか言えよ」


「なんでもないですよ。ロック様もちゃんと隊長をやっているんだなって」


「なんだよそれ?」


ロック様は冗談を言ったつもりなのに、私が真面目に返すものだから反応に困っていた。


「いいじゃないですか。それより、今日も馬車で移動するだけなんですよね?

移動中に少しでも作戦を考えませんか?」


私はようやく昨日自分が言ったことを行動に移せた。


「あっ?あぁ、そういえばそんなことを言っていたな」


それを聞いてロック様はあからさまにやる気の無い態度をとってきた。


それを私は不審に思う。

すでにある程度の状況なら想定済みで、そうでなくても兵士たち自ら考えて動いてくれるのだろう。

でも、私が何も聞かされていない。

それだといざという時、私がみんなの足を引っ張ってしまう可能性が出てきてしまう。

せめて、決まっていることだけでも教えてほしい。


私に目で訴え続けられて、ロック様がやれやれという感じで答えた。


「嬢ちゃんは強い。王国中を探しても対抗できる奴はそういないだろう。

だから、嬢ちゃんありきで作戦を立てるのが一番被害が少なくて済む。

現に何度も魔物を倒してくれているからな」


「それなら…」


「でもな、それでも俺は嬢ちゃんはなるべく前に出るべきではないと思っているんだ」


それを聞いて、私は頭を叩かれたような思いがした。


「それって、どういう意味ですか?」


「んー…、なんて言ったらいいのか…。

"他所から来た聖なる巫女に王国は守られました"なんて、それでいいのかねぇ?

とでも言いますか…」


ロック様は頬杖をついてぼんやりと地平線を眺める。

目を細め、まるで遠い未来を眺めているようだった。

いつもならかわいい獣耳に視線がいくのに、今は少し思いつめたような大人の表情から目が離せない。


「とはいえ、このまま黙って引き下がる嬢ちゃんでもないだろ?

今ある作戦は全部伝える。

ただし、嬢ちゃんはあくまで俺たちの切り札だからな。無茶は無しだぜ?」


私はロック様から、魔物が襲撃して時の作戦を聞かせてもらった。


私はこの王国を救う聖なる巫女として転生されて来た。

仲間や国の人達はいい人ばかりで、私自身もこの王国を救いたいと思うようになった。

それでもロック様は何かに疑問を持っている。

結局それについては何も言ってはくれなかった。

けれど、少なくとも私が他所者だからという理由ではない事だけはわかっている。


お昼休憩が終わり、再び馬車が走り出す。


私の馬車の中は、午前中と違い静かなものだった。

ボガードは氣の練習を始め、それに触発されたロック様も練習を始めてしまった。

二人とも黙って手に持っている物に氣を集中させている。


だから私は邪魔をしないように外を眺めているしかなかった。

なんか、こうなってしまうとロック様とボガードの口喧嘩がちょっぴり恋しくなってくる。

でないと、ボガードの告白とか、ロック様に言われた事を永遠と考えてしまう。


"他所から来た聖なる巫女に王国は守られました"…か。


この魔物討伐へ来る前に、色んな貴族の方とお会いした。

偉そうなことを言われるのかな?なんて思っていたけれど、みんな礼儀正しい立派な人だった。

いっぱいお礼を言われ、たくさんの応援をもらい、多くの期待がかかっていることを知った。

みんなは、聖なる巫女が王国を救ってくれると信じている。それを望んでいる。

なんでロック様は、それじゃダメだと思っているのだろう?

別になりたいわけではないけれど、何か大きな事を成す時、集団の支柱となる存在は必要不可欠。

私という聖なる巫女がいることで人々に安心を与え、おまけに戦場でも成果をあげているのなら、それはいいことではないのだろうか?


私は窓からロック様に視線を移す。

隊長らしい姿を見せられた後だと、深い意味があるのではないかと思ってしまう。

もしくは、私のことを心配してくれているとか?


ふと、頭を撫でられた感触を思い出してドキドキしてくる。

ボガードに告白されたせいで、ちょっと敏感になってしまっているのかもしれない。


しっかりしろ私。

胸のあたりを軽く叩き、再び外を眺める。


どこまで進めたのかわからない広大な大地。そして空。


あっ、鳥が飛んでいる。

なんてのんきな事を思ったが、すぐ違和感に気が付いた。

まだ点くらいの大きさにしか見えないが、鳥にしては視認できている距離が遠過ぎる。


「ロック様!」


「ん?どうした?」


邪魔すんなよと言いたげな顔でロック様が私の方を向く。

が、外を見ている私の表情を見て、ロック様も事態を察してくれた。


「来たのか?」


「はい」


氣に集中しながらも私たちの会話を聞けていたのか、ボガードがすぐに自分の弓矢に手をのばす。


ロック様は馬車の天井を開けると、部隊に魔物の接近を伝えた。

馬車は変わらず走り続けているが、兵士たちは中でちゃくちゃくと戦闘準備を進める。


「こんな遠距離で気が付くとは、さすがとしかいいようがないな」


天井から顔を出したまま、ロック様が魔物の姿を確認する。


「おかけで最高の状態で迎え撃てる」


ロック様が馬車の中に戻って来ると、大剣を手に携える。


「作戦通りにいく。ボガード、先陣を切るのはお前だ。絶対にぬかるなよ」


「わかっている」


魔物はものすごい速度でこちらに向かっていた。

最初は点だった魔物も、すでにその姿がしっかり見える。

そして、その大きさも確認できた。

あまりにも大きな鳥だった。飛行機くらいはある。

全体的に鷲を思わせる形しているが、鶏のトサカや孔雀のオッポのようなものも付いている。


たしかにあのサイズなら、馬車の一つや二つ軽々運べるだろう。


その強大さを前に、馬車の中は緊張に包まれている。


「でかすぎて距離感が掴めねぇ」


「早くしろ、間に合わなくなるぞ!」


「くそっ!お前のタイミングでいけボガード!

それに俺たちが合わせる!」


「最初からそう言え!」


ロック様が合図を出すと、馬車が一斉に停止する。

そして、ボガードが屋根に立つと弓矢を構えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。