告白
「な、なに?」
明かりも少ない夜、女子が部屋に戻る間際、人相の悪い男性に突然声をかけられる。
この状況で警戒しない女子がどのくらいいるだろうか?
何か変な事をしてくるような人物ではないはずだが、ボガードの印象は良くないのでおそらくそれが態度に出ていたと思う。
「別に用ってほどのことでもないんだが…」
ボガードがのそのそと歩いてきて、お互い顔がよく見える距離まで近づいてくる。
様子を注意深く観察したが、やはり何かしようとしているわけではなく、ただ話をしに来ている。
「その、お前に聞きたいことがあって…」
いったい何を聞かれるのだろう?
思い当たることとしたら、あの時の一騎打ち。
まさかズルしたんじゃないか?とか因縁をつけにきた?
「あー…、あれだ、その」
やたらと間を取ってくる。
こうやって思わせぶりな態度を取ることで、相手の態度や仕草から情報を得る尋問手段もある。
この人、私から何かを探ろうとしている?
となると、聖なる巫女に関してだろうか?
「深い意味は無いんだが…」
いいでしょう、受けて立ちます。
クノイチは情報戦もできるというところを見せてあげる。
「お前、あの男とは…いったいどういう関係なんだ?」
………。
「ん?」
私の反応が遅かった上に間の抜けた返事しかしなかったせいで、ボガードがキッとにらんでくる。
「だから、あの…ロックとかいう男のことだ!」
「えーと…、ロック様と私の関係について?」
この人はなんでそんなことを、わざわざ人目を避けるようにして、私に聞いていたのだろうか?
ボガードを改めて観察する。
手をポケットに突っ込み、やや前傾姿勢になっていて、不良が因縁付けているような姿勢。
しかし、さらによく観察すると体は緊張で強張っているし、心拍数も上がっている。
顔つきは恐いが、顔が少し赤くなっていた。
そんな状態の男子が、女子に別の男子との関係を尋ねてくる理由を私は一つしか知らない。
一つしか知らないんだけれど…。
いやいや、さすがにそれは無いでしょう。
だって私がボガードにしたことって、力づくでレオナさんに謝らせた事くらいだよ?
あとはずっとロック様と言い争っているボガードを冷ややかに見ていただけ。
それだけで…っていうか、それがどうしてこんな事に繫がる?
もしや、これも何かの作戦だろうか?
私の動揺を誘い、そこから何かを盗もうとしている?
だとすれば、これはかなり高度なテクニック。私の心理状態を正確に把握していなければ難しい。
「…おい、なんとか言えよ」
ボガードが思考を巡らせている私に焦りを与えてくる。
相手の狙いが読めない以上、バレバレでも黙っているのが無難だろう。
しかし、ボガードはこれから共に戦う仲間でもある。変にけん制し合ったままになるのは今後に響くようにも思える。
ここは素直に質問に答えることにした。
「関係って言われても、私が聖なる巫女だから、ロック様としては守護する対象としか…」
「いいや、それだけじゃないだろ。誰が見たってそれは明らかだ」
ボガードは熱心に食い下がってくる。
うーん、たしかにそれだけにしては普通に話をしていたかな。しかたない…。
「えと、あなたと勝負をした時、私が土を操っていたじゃない。
あれなんだけど、実は魔法じゃなくて…」
私は勝負中に忍術を使った事と、それの基となる氣をロック様に教えていることを話した。
「じゃ、じゃあなんだ。あいつとお前は師弟関係ってことか?」
師弟関係とはまた大げさな。
別にロック様を立派なクノイチにしようとか考えていないし、あのなりでクノイチになられても色々と困るところがあるし。
「そんなんじゃないよ。ただ、ロック様って強さに対してとても素直っていうか…」
しかし、師弟以外にうまく説明できる言葉が見つからない。
「そうか…」
まだ納得している感じではないが、ボガードの気が少し収まってきている。
不思議な気分だった。
最初はあれだけボガードを警戒していたのに、いつの間にか普通に話をしている。
彼がなぜ他人に対して攻撃的なのかはわからないけれど、一歩踏み込めばそこにいるのは普通の男の子な気がしてならなかった。
………。
あれ?まてまて、それだとボガードが私に聞いていることって本当に…。
そう思うと、なんだか私まで…照れてきてしまうというか…。
うそ?本当に?
「あいつとは、本当にそれだけなんだな?」
何か強い意志を秘めた目で見つめられる。
今までの邪気が嘘のような清々しい眼差しに、思わずドキリとする。
「う、うん」
「ならいい…」
ボガードはふぃっと横を向いて黙ってしまう。
えっ、えー…、どうやってこれを終わらせればいいの?
私、こんな状況になったの初めてだよ?
「じゃあ、俺はもう行く」
ボガードがそう言って背を向けた。
「そう、おやすみなさい」
私はもうすっかり素の状態で答える。
そんなやりとりをして、この話は終わりかと思ったがボガードがなかなか動かない。
私も見送るつもりだったのでそのままで困ってしまう。
どうしたのだろう?まだ何かあるとか?
「なあ」
「なに?」
「あいつに教えている事を、俺にも明日教えてくれないか?」
ボガードは背を向けたままそう聞いてきた。
「い、いいけど…」
まぁ、イケメンナイツが強くなってくれるなら私としても助かる話。
明日もほとんどが馬車での移動だろうから、その間にロック様と一緒に練習としましょう。
「そ…それとだ!」
急にボガードの語気が強くなる。
再び私に向き直ると、ポケットから手を出して真っすぐ立つ。
「もし…、もし俺があいつより、いや、お前よりも強くなれたら…」
あっ、これって。
修行と任務ばかりの17年ちょっと。恋愛なんて無縁の人生だった私だったけれど。
こればっかりは言われるよりも早く、ボガードの想いが伝わっていた。
「俺と付き合ってくれないか?」
ボガードの顔は真剣そのものだった。
私は今、生まれて初めて告白されたのだ。
相手がどんな男子で、なんで私に好意も持ってくれたのかもわからない。
それなのに、息苦しいくらい胸が締め付けられるような思いがした。
「あ…あれ…それって…」
ただただ戸惑う私に、ボガードはまったく動じない。
「今は、俺が言った事を覚えてくれていればそれでいい。
だが、俺はかならずお前に勝負をまた挑み、そして勝つ。
その時は返事をもらうぞ。絶対だからな」
片思いの女子に対してというよりは、ライバルの男子に対して言っているような熱意の籠った宣言。
不慣れで不器用だったけれど、自分の気持ちを偽らなかった宣誓。
ボガードは私の反応を待たずに去っていく。
私はそれを見送っているようで、ただぼーと眺めているだけだった。
馬車に入らなくちゃ。そう思えた時にようやく胸がドキドキし始めてきた。
自分が告白された事の実感が徐々に湧いてくる。
自分の顔を触ってみる。涼しい夜風が吹いているというのに、ほのかに熱い。
なな、なんだろうこの気持ち。
どどど、どうしたらいいのこの気持ち。
思わず前掛けをぎゅっと掴む。
ゲームでも、一番好感度が高かったキョウヤ様ですら告白イベントに辿り着けていない。
それなのに、この前会ったばかりのボガードに告白された。
いったい、いつフラグが立ったのだろうか?
ううん、だめ。フラグだなんて考え方はいくらなんでも失礼だ。
でもまったくわからない。
私が騙されているとも思えない。
ボガードは、返事は勝負に勝った時でいいと言っていた。
それまでは今まで通りでいいという意味だろう。
だけど、言われた通り意識せずにいることなんてできる気がしない。
明日、いったいどんな顔でボガードに会えばいいのか?
告白一つでおちるほど私は簡単な女子ではない。
けれど、ボガードの顔が頭から離れない。
告白の威力というものを身をもって知ることとなった。
私の乙女心は確実に動かされている。




