思い出
箱の中に入っていたのは凸型の物。
黒いイメージがあるけれど、黄緑色にしてもらっている。私が思うマリーのイメージカラー。
そこに細い葉っぱや赤い木の実の模様を少し入れている。少しでもかわいくしようとした結果。
出っ張っている部分の先端はレンズになっていて、中は真っ暗で覗けない。
「あの…これはいったい?」
マリーは手に持って色々な角度からプレゼントを眺めてみるが、それが何かわからない。
「それはね。カメラっていうの」
「カメラ…ですか?」
そう、私が思いついたプレゼントはあのカメラである。
仕組みなどの細かいことは何もわからないけれど、そこは双子の技術力でなんとかならないかな?
なんて甘い考えで提案したところ、まさかのOK。
ほぼ双子のおかげなのだが、自分なりに良い物を渡せたのではないかと思っている。
「うん、あのね。カメラっていうのは、写真っていう物を撮る道具なんだけどー…」
むっ…。そういえば使い方の説明を受けていなかった。
「細かい説明はアルフレッドとマルグリットから聞いてもらえるかな?
この二人が作ってくれたの」
「いいよ」
「任せて」
余程の自信作のようで、二人は快く引き受けてくれる。
二人で席を立つとマリーの横に立ち、アルフレッドがカメラを受け取る。
「このレンズがある方が正面で、まずは後ろのこの蓋を外す。
そこにカメラと一緒に入っていたこのカードを一枚入れて閉じる。
そして、横のダイアルを音がするまで回すと…」
アルフレッドが説明しながらカメラをマリーに向け、ダイアルを回す。
カチン…シュィーン
機械音の後に魔法っぽい音がした。
「それでね、中に入れたカードを取り出すとー」
マルグリットが続きを説明している間に、アルフレッドが中のカードを取り出す。
ちゃんと仕上がっていることを確認すると、カードをマリーに渡した。
「えっ!?」
受け取ったカードを見てマリーは驚愕した。
カードにはなんと、ダイアルを回していた時のマリーが写っていたからだ。
日本にあったカメラに比べれば相当質は落ちているが、表情もわかるし、なんと色が付いている。
依頼した時は白黒写真を想定して説明したし、試作も白黒写真だった。
それなのに、この双子はなんと独学でカラー写真にまで至っていた。
これが試し撮りを見せてもらった時に私が驚いた理由。
「すごいねこれ、どういう原理なの?」
レオナさんも興味津々である。
双子が得意気にカメラの仕組みを説明してくれた。
「簡単に説明すると、まずこのレンズが入って来た光を並列化して増幅させる。
「そして、このカードには光の色を覚える魔法液が仕込まれていて、ダイアルを回すことでカードに光が当たる。
「その時、宝石の色を変える錬金術を応用して作ったフィルタを通すことで、色が混ざらないようにしているんだ」
「…ごめん、何言っているか全然わからない」
私はなんとなーくイメージがついたけれど、アッシュはちんぷんかんぷんだったようだ。
まぁでも、原理なんてどうでもいいよね?
肝心なのはマリーがカメラを気に入ってくれるかと言う事。
「マリーも一枚撮ってみてよ」
私は箱からカードを取り出してマリーに渡す。
「は…はい」
マリーは未知の道具に困惑しながらも、双子がやってくれたようにカードをセットする。
「では、やってみます」
マリーは誰もいない所を向けてダイアルを回す。
カチンと音がして、中からカードを取り出した。
「うん、ちゃんと撮れているね。うまいうまい」
どうしても盛り上げたくて、ちょっとだけ変なテンションになってしまった。
しかし、そのかい虚しくマリーはぼーと取り出したカードを見つめているだけだった。
うぅ…、いいと思ったのだけれどちょっと奇抜すぎたかな?
今にして思えば、高価であることを度外視してカメラを喜ぶ女子ってどのくらいいるのだろう?
「あの、セツナ様」
「なに?」
いったい何を言われるのかドキドキする。
「私なんかのために、このような素敵なプレゼントと誕生会を開いていただきありがとうございます」
マリーはわざわざ席を立ち、私にぺこりと頭を下げる。
「ただ、誠に申し上げにくいのですが…」
「う、うん…なに?」
「なぜ、このような物を私にプレゼントしてくれたのでしょうか?」
一瞬否定されるのかなと思いズキリと心を痛めてしまったが、なんだ…カメラである理由を教えてほしかっただけか。
私は心の中で安堵のため息をついた。
「何がいいかな?って色々考えていたら、昔絵を描いていたっていうのがずっと心にあって、絵に関係する物がいいなって思ったの。
それで最初は筆とかにしようとしていたんだけど、色々考え直していたら、もしかしたらって思える事があったんだ」
マリーは一切目を逸らさずに私の話を聞いてくれている。
プレゼントを選んだ理由をそんな真剣に聞かれているのが恥ずかしくなって、私はテーブルに視線を落とした。
「何を描いていたの?ってマリーに聞いた時、家族や近所って言っていたじゃない。
だから、もしかしたらマリーは思い出を描いて残していたのかなって思ったんだ。
絵を描くのも好きなんだろうけど、それ以上に思い出を形にするのが好きなのかなって。
仕事をしているから忙しくて、絵にする事も少ないし、絵を描く時間も無さそうだけど。
だから、すぐ形に残せるカメラがいいかなって…」
とまぁ、カメラを思いついた理由はこんな感じ。
…こんな感じなんだけど。
どうしよう?
今はそれだけじゃないんだよね。
でも、これって完全に後付けだから、かえって胡散臭くなっちゃうようなー…。
ちらりとマリーの様子を伺う。
まじまじとカメラを見つめているマリーの表情はちょっとだけ嬉しそうに見えた。
いつも侍女としてプロ意識を持って私の相手のしてくれているマリー。
楽しそうにしてくれていたけれど、誕生会でも侍女であるスタンスを崩してはいなかった。
そんなマリーがこの瞬間だけ、年相応の普通の女子に見えた。
そうしたら、思っていることを伝えずにはいられなくなった。
それを言って何になるかなんてわからない。
それでも私は言いたくなってしまったのだ。
「…ってところから入ったんだけど、今はそれだけじゃないんだ」
私はマリーと同じように席を立つ。
「私が、これからもマリーと一緒にいて、もっと仲良くなって、いっぱい思い出を作りたいの。
マリーのおかげで、寂しい思いをせずに今の生活を楽しめている。
変なことばっかりして困らせたり、心配させることばっかりだったと思うけれど、私はマリーのことが好きで…友達になりたくって、そういう写真がいっぱい撮れたらいいなって…」
柄にもなく感情だけでしゃべったから変な事を言ってしまっている。
私が兼用することを前提としたプレゼントなんて聞いたことがない。
ただ私は、色々な立場や事情があるだろうけど、マリーにはもっと楽しそうにしてほしかった。
カメラがあったら、そういう機会が増えるんじゃないかと期待した。
そして、できれば私の世話役を続けようとしてくれたマリーに応えたい。
「…セツナ様」
ほら、マリーもそんなものを聞かされて困って…。
マリーの目からほろりと一粒の涙が流れる。
私は泣かせてしまうような事を言ったのかとぎょっとした。
けれど、この涙はそういうものではなかった。
「ありがとうございます。とてもうれしいです」
マリーは涙を手で拭きながらそう言った。
「私はただの侍女であり、特別な物など何もありません。
だから、セツナ様のような方のお世話をする時、私情なんて挟んではいけないと自分に言い聞かせてきました。
でも、セツナ様はいつも、私が侍女であることを忘れてしまいそうになるくらい明るく接してくださいました。だから…だから…」
マリーが感極まってポロポロと涙を流し始める。
「私もセツナ様のおそばにずっといたいと思っています」
それを聞いて私も涙がこみ上げてきそうになった。
その涙を見せる前に、私はマリーを抱きしめる。
「うん、ありがとう。これからもよろしくね」
「はい」
そこそこ長い時間抱き合っていた気がしたが、誰も何も言わず静かに待っていてくれた。
マリーを開放した後は、誕生会の続きだー!ということで残りのケーキを食べ始めたけれど、終始アッシュにからかわれてしまった。
茶化されて少し面白くなかったけれど、隣でマリーが笑っているのが聞こえるとどうでもよくなった。
これにて、マリーの誕生会は無事成功に終わった。
私にとって、マリーとさらに仲良くなれた思い出深い誕生会になった。
それはきっとマリーも同じ。
片づけれたテーブルの上には、アッシュが撮ってくれたみんなの写真が飾ってある。




