ちょっとした恋バナ
クラッカーと共にマリーの時が止まった。
今、いったい何が起こったのか?それを必死で確認している。
セツナ様以外に複数人いて、テーブルにはケーキやお菓子が用意され、部屋は少しだけ華やかになっている。
………はて?といった様子だった。
「マリー、お誕生日おめでとう」
改めてそうい言いながら、私はマリーに近づいて手を取る。
それでもマリーはまだこの出来事を処理しきれていなかった。
「もー…、誕生会やるって私言ったじゃん」
あまりにも無反応なので不安になってしまい、ちょっとだけ怒ったっぽくなってしまう。
「あっ!もしかしてこれがそうなのですか?」
ようやく事態を飲み込めてきたマリーがはっとする。
「そうだよー」
「申し訳ありません。あの…このことを私、伺っていましたでしょうか?」
ものすごく心配そうにそう聞いてくる。
「言ってないよ。マリーを驚かせようと思って留守中に準備したの」
「驚かせようと?」
あれれ?
思っていたリアクションと全然違うぞ…。
うーん、誕生会をやる習慣がなかったくらいだから、サプライズでやるなんて発想が存在しない?
ひょっとして、これ…大失敗した?
なんて言ったらいいかわからなくなっている私に、アッシュが助け舟を出してくれる。
「マリーちゃん、長旅おつかれさま。とりあえずこっちにきてよ。いっぱい用意したんだ」
アッシュに手招きされて、私とマリーはテーブルへ向かう。
「すごいですね」
テーブルに並んでいる食べ物を見て、マリーが少しだけだけど感動してくれる。
「なにはともあれ、まずは乾杯でしょ」
そう言ってみんなを席につかせると、アッシュがジュースをついで回ってくれる。
こういうことにすごく慣れているなー。
もう少しアッシュに相談すればよかった。
「マリーちゃん。これはセツナちゃんが用意してくれた君の誕生会だよ」
「私の…」
マリーが私をちらりと見たので、うんうんと頷く。
「みんなで君の誕生をお祝いしにきたの。だから君が主役」
アッシュがポンとマリーの肩を叩くと、自分の席につく。
「ということでセツナちゃん。始めようよ」
あっ、これは何か言わないといけないやつだ。
想定よりもちゃんとした誕生会になったのだから、想定よりもちゃんとする必要があった。
「そのー…、驚かしてごめんねマリー。私も実はこういうの慣れていなくてうまくできなかったけど、マリーにはいつもお世話になっているから、何かお返ししたいなと思っていて、それがこの誕生会なの。だから、その、えっと、お誕生日おめでとう」
本日三回目のおめでとう。
「おめでとう」
「「おめでとう」」
それにレオナさん、アルフレッドとマルグリットが続いてくれる。
「セツナ様、みなさん」
落ち着いてきたマリーが、私たちの気持ちに気づき始めてくれている。
「じゃあ乾杯!」
アッシュが音頭を取ってくれて、みんなで乾杯する。
さらにアッシュがぱぱっと適当に食べ物を盛った小皿を作ると、マリーの前に置いた。
「ありがとうございます」
「食べてみて、いいの選んだから」
続けて私の前にも置いてくれる。
マリーは遠慮して手を付けないと思ったから私がやろうと思っていたのに、先にやられてしまった。
「アッシュ、私にも」
「はいはーい、姉さんの分もね」
「僕らももらおうよ」
「そうだね」
双子は自分たちで食べたいものをとって食べ始めた。
マリーは最初そわそわしていたけれど、次第に慣れてきて普通に会話を楽しんでくれた。
マリーがいなかった間の出来事、結婚式やマリーの実家の話。
特に結婚式の話は、日本で良く行われているスタイルと少し違っていたので興味深かった。
マリーは絵を描いていたおかげか、話がとてもわかりやすく情景が目に浮かぶ。
「素敵だなー、自然と共にって感じがすごくロマンチック」
思わずため息が出てしまうような美しい結婚式を思い描く。
これから人生を共にする人と、一度きりの想い出。
考えただけで心が潤う。
「セツナちゃんは選り取り見取りなわけだし、すぐにでも相手を見つけられるんじゃない」
「やめてよそんな言い方。夢がない」
「そう?キョウヤさんとロックさん、たしかジルさんとも知り合いだっけ?みんなモテるいい男だよ?あっ、もしかしてセツナちゃんはこっちだったかな?」
アッシュがそう言って隣の双子の肩に肘をのせる。
「「えっ?」」
急に恋愛話を振られて年頃の男子が困惑する。
「アッシュ、からかうのはやめてあげなよ。
でもセツナ様、好みが一人くらいいなかったのですか?」
アッシュを注意をしつつも、意外にもレオナさんが話に乗っかってくる。
「えー…好みって」
転生前、ゲーム上ではキョウヤ様推しだった。
それは今も変わらないつもりだが、こうして色々な男性と関わっているとみんなかっこよく思えてくる。
だから、好みと言われてもみんなの顔が浮かんでぐるぐる回る。
もしかして私って節操ない?それとも恋愛をまだわかっていないだけ?
「ひ…秘密です。恥ずかしい」
「そうですか、残念です」
レオナさんがさっぱりと諦める。
「そういうレオナさんはどうなんですか?」
「わ、私?」
「そうです。私に振ったんですから」
「あぁ、姉さんは今のところ…」
「やめろアッシュ!言うな!」
レオナさんが大慌てでアッシュの口を封じる。
好みってより、その言い方だと好きな人がいるの?
うわー気になる。どんな人だろう?やっぱりレオナさんに今の仕事を紹介した人かな?
「私も秘密だ」
レオナさんがジュースを飲んで、口をへの字に曲げてしまう。
うぅ、これは聞けそうにないな。
でも顔を赤らめている乙女なレオナさんが見れたので、今日はこれでよしとしよう。
となれば次は…。
「じゃあー、マリーは?」
「私の好みですか?」
「うん、よかったら聞かせてよ」
クッキーを食べながらマリーが少し考える。
「そうですねー…」
そう呟きながら、私の方をじっと見てきた。
「なんて言ったらいいのでしょう。私と全然違う人、とかでしょうか」
なんて笑顔で答えてくれた。
こんな平然と話してくれるなんて、マリーって結構大人?
「よーし、次はお前らだー」
アッシュが意地悪そうに双子に話を振る。
「えぇ…」
「ぼくらの…」
かわいそうに、微妙に空気が読めるだけあって強く拒否できないでいる。
しかも、興味があるけど助けるべきか、子供好きのレオナさんが葛藤している。
「お…」
マルグリットが何かを言おうとする。
「お姉さんかな」
真っ赤な顔を伏せて、小声だったけれどそう言った。
「そうだね、お姉さん強いからな」
アルフレッドがマルグリットの背中を叩いて同意する。
アルフレッドも照れてこちらを見てはくれなかった。
だけど、勇気を出してそう言ってくれたことに私は心底感動した。
幸せだ。こんなかわいい子たちが私のことを…。
例え空気を読んで無難に私を選んだという大人の対応だったとしても、私は満足です。
うれしさのあまり涙が流れそう。
「そっか、そうだよねー。どんな所がいいと思ったの?」
「いい加減にしろアッシュ。意地悪が過ぎるぞ」
さすがに耐えかねたレオナさんがアッシュを止める。
「そういうお前はどうなんだ?」
「俺?俺もセツナちゃんに決まっているじゃん」
俺たち仲間ーって感じでアッシュが双子に絡む。
金輪際アッシュを恋愛話に混ぜるのはやめよう。
たぶん、のせられて自分だけペラペラしゃべって終わりそうだな。
もしかしたらレオナさんはすでにその被害者だったり?
こんな感じで楽しい時間は過ぎていき、最後にケーキを切り分けてみんなで食べた。
おいしい。日本でも高いケーキを食べてきたつもりだったけど絶品だ。
「セツナ様、そろそろどうですか…」
レオナさんに耳打ちされる。
それを聞いて私はプレゼントのことだと気が付いた。
私は口に運んでいたケーキを飲み込むと、よしっと気合を入れる。
「マリー、最後に渡したい物があるの」
改まっている私に気づき、マリーが持っていたフォークとお皿をテーブルに置く。
それを聞いていたアッシュが隠していたプレゼントを取ってきて私に渡してくれた。
「これ、誕生日プレゼント。
喜んでもらえるかわからないけど、一生懸命考えました」
なんかプロポーズみたいな言い方になってしまい恥ずかしかったけど、ついにプレゼントがマリーの手に渡る。
その様子をみんなは静かに見守っていてくれた。
「これを、私のために…」
プレゼントを受け取ったマリーがまじまじと見つめている。
「そう、受け取って。私ー…とみんなの気持ちだから。開けてみて」
マリーは静かにプレゼントの箱を開けた。




