マリーの誕生会
マリーの不在三日目。
今日はマリーが帰ってくる日であり、サプライズで誕生会を決行する日でもある。
そのせいでレオナさんたちには苦労をかけてしまったが、この機会は逃せない。
マリーはたぶん今日中に顔を出してくれると思うので、お城に戻ったら連絡をもらえるようになっている。
私は、レオナさんが用意してくれた飾り付けを行っている。
戻って来るのが予定よりも早くなってもいいように、前もって準備している。
いやーしかし、いよいよかと思うとドキドキしてくる。
魔物討伐から戻った時から計画していたこと。
なかなか時間をかけたせいか、喜んでくれるかな?という期待が膨れ上がってくる。
「セツナ様、こちらの飾りはこれでよろしいですか?」
「いい感じです。ありがとうございます、レオナさん」
うん、控えめだけど誕生会らしい雰囲気になってきた。
派手過ぎるとマリーが委縮しちゃうかもしれないからね。いいチョイス。
コンコン
「お姉さん、持ってきたよ」
「僕たちの自信作」
飾り付けが終盤に差し掛かったあたりでアルフレッドとマルグリットが来てくれた。
マルグリットの手には白い紙箱がある。
「ありがとう二人とも」
私は双子に駆け寄った。
へへへと得意気になる二人。
うー、喜びのまま抱っこしたい。
「最後の確認をしてよ」
「ちゃんと動くことは確認済みだよ、ほら」
とアルフレッドが言いながら一枚の大きめなカードを見せてくれる。
私はそれを見て驚愕した。
「えーー!!これって、あれ?昨日はたしか…」
「すごいでしょ、作り始めたら止まんなくなっちゃってさ」
「せっかくだから今日に間に合わせたいなと思って僕たち…」
ついに私は我慢できずに二人をまとめて抱きしめる。
「ありがとう、アルフレッドもマルグリットもすごいね」
「ちょ、ちょっとお姉さん」
「恥ずかしいよー」
いきなり女子に抱きしめられて双子は硬直していた。
自分の胸が潰れるくらい強く抱きしめているので少々刺激が強かったかもしれない。
私は双子を開放すると、改めて作ってくれた物を眺める。
自分がデザインしたとは思えないほど精巧に作られている。
私が担当したのはアイデアとデザインだけだけど、二人は何も言わなかったで合作ということにさせてもらう。
「気に入ってくれるかな?」
「そうだと思うけど、時間がかかるかもね」
「もしかしたら王国にはこれ一台しかない物かもしれないし」
たしかに、花とかアクセサリーみたいにぱっと見でわかる物ではない。
喜んでもらうにはプレゼン力が試される。
プレゼントをラッピングすると、双子にも飾り付けを手伝ってもらう。
そうこうしていると続けてアッシュが部屋へやって来た。
「おつかれー、もうみんな揃っていたんだね」
アッシュはカードゲームをした日と同じようにバスケットを抱えていた。
「軽く飲み食いできる物っていう注文だったから、こんな感じにしてみました」
バスケットを机に置いて、上にかけていたハンカチを取る。
中にはジュースが二本と、様々なお菓子、生ハムやピクルスを少々。
さすがアッシュ、頼りになる。
日本円にしたらなかなかの値段になりそうなラインナップ。
「最後に…」
アッシュが一度部屋を出て、大きめの紙箱を持って戻って来る。
「お祝い事と言ったらこれでしょ」
箱を開けると、中にはフルーツたっぷりのケーキが1ホール。
「おいしそー、よくそんなケーキ用意できたね」
「姉さんから話を聞いたその日に、知り合いの職人に無理言っちゃった」
得意気に笑うアッシュ。
その横で双子が目を輝かせてケーキを眺めている。
「楽しみにしていろよ、ここのケーキは絶品だ」
アッシュが双子にそう言って、箱を閉じる。
「高かったんじゃない?」
お菓子だけでも豪華だったのに、あのケーキまでプラスされると相当値が張ったに違いない。
私はちょっと心配になって聞いてみた。
「気にしない気にしない。俺は別に欲しい物とか無いし、こういうことに使うのが一番なんだよ。
あっ、どうしてもお礼がしたいっていうなら、機会があった時にでも」
そうは言われても、言い方からしてやはり高額だったもよう、何かお返しをしなければ。
とは思っても、欲しい物が無いと先に言われてしまっているのでどうしたものか?
「うん、じゃあ機会があったらかならず。絶対お礼をするからね」
「あはは、律儀だなーセツナちゃんは。それを楽しみにしばらく生きていけそう」
なんて話をしていると、飾り付けを終えたレオナさんがやって来る。
「まったく、悪い生き方とは言わないが少しくらい貯金した方がいいんじゃないか?
ただでさえロックさんと一緒に酒代にしてしまっているのに」
「それはロックさんにも言っている?」
「そ…そんなわけないだろう。あの人とアッシュじゃ稼ぎが違う」
「たしかに、あー俺も早く出世したいぜ」
姉弟のようにこの二人は仲がいい。
そこにロック様が加わって、お酒を飲みながらいったいどんな話をしているのだろう?
なんか楽しそうだなー。
ちゃんと混ざれる気がしないけれど、いつか誘ってくれたりしないかな?
こうして飾り付けと料理とプレゼントの準備が整った。
あとはマリーの帰りを待つばかり。
と思いながら腰を落ち着けていると、マリーが帰って来たという伝言が他の侍女さんから届いた。
陽がちょうど沈みかけているあたり、早めに準備を始めていてよかった。
「あー、すっごい緊張してきた。うまくいくかなー?」
ソワソワして落ち着かない。
「私、マリーがこっちに来てくれるか確認してくる」
居ても立っても居られず、私は席を立つ。
「そんなことしたらせっかくのサプライズが…ってセツナちゃん!?」
突然ドレスを脱ぎ始めた私にさすがのアッシュも目を丸くする。
「…ってあれ?なんで中に服を着ているの?」
アッシュのその感想は、ユリさんの腕の良さを証明した。
私がドレスの下に着ていたのは、色合いを調節してより普段着っぽくなったもの。
これでいつでも身軽になれる。ユリさんには本当に感謝しかない。
ユリさんにもいつかちゃんとお礼をしよう。
「セツナ様、これはさすがに刺激が強すぎたかと…」
レオナさんに耳打ちされる。
言われて双子を見てみると、顔を真っ赤にして固まっていた。
ご、ごめんね。
「1分で戻ってくる」
そう言い残し、私はこっそり作った隠し穴から部屋を出ると、お城の中をするする移動していく。
気配を消し、息をひそめ、音を立てず、誰の視界にも入らない。
20秒も経たずに侍女の支度部屋までやってくる。
えーとマリーはー…なんて探していると、ちょうど部屋を出たところだった。
ちゃんと私の部屋の方向へ歩き始めてくれている。
よかった来てくれる。すぐに戻らないと。
すると、キョウヤ様が私の目に止まった。
いつもの騎士の格好をされて、歩く姿ですら優雅さを感じる。
そしてその横には…ん?誰だろうあの女の人?
キョウヤ様にも劣らない美人、そして気品溢れるその姿。
傍から見るとベストカップル…なんですけど、えっ?いったい誰?
たしか家族構成にお姉さんがいたけど、その人かな?
でも髪型やドレスがゲームと違うんだよね。私も毎日違うドレスを着させてもらっているからそういうことだと思うのだけれど。
耳を澄ませて盗聴してみるが、世間話をしているだけで関係性がわからない。
うぅ…、早く戻らないとマリーが部屋に着いちゃう。
しかたない。ここは一旦諦めよう。
私は急いで自室に戻った。
「ごめん、お待たせ」
「うわーー!」
ドレスを着ながら帰ってきたことを伝えると、みんなが驚いて声を上げた。
「セ…セツナ様?いつの間に」
「はは…やっぱすごいなセツナちゃんは…色々と」
「「びっくりした」」
ドレスを着て、レオナさんに軽く整えてもらうとみんなでマリーを待ち構える。
わー、緊張してきたー。
ドキドキしながらその時を待つ。
コンコン
「はーい」
私の返事の後、ドアが開けられる。
「失礼します」
マリーが部屋に入って来ると、私と目が合った。
「お…お誕生日おめでとー!」
みんなで鳴らしたクラッカーが響く。




