再び魔術塔へ
マリーの不在二日目。
誕生会の準備は順調に進んでいた。
食べ物についてはレオナさんからアッシュに話してもらえることになり、部屋の飾り付けなどはレオナさんが用意してくれることになった。
プレゼントについては午前中に双子が試作を見せてくれて、ほぼ私が望んでいた物になっていた。あとは誕生会までに改良を加えるのみと意気込んでくれている。
そこで私はあることに気が付く。
そう、企画者の私が本番までやることが無いのだ。
ありがたいことに、こんなにみんな積極的でスムーズに話が進むとは思っていなかった。
想定していたものよりもずっとちゃんとした誕生会になりそうで楽しみな反面、私にできることがなくて寂しい。
みんな頑張ってくれている。
こうなったら、誕生会とは関係ないけれど私も一つけじめを付けに行こう。
そう考えた私は魔術塔へと向かった。
目的は、私が魔法を使えると嘘をついていた事をジル様に謝罪しに行く事。
魔術塔は相変わらず不気味な外観をしていた。
何本も生えた煙突からは煙が出ていて、怪しい実験でも行われているのかと思わせる。
ただ、初めて来た時と違い魔術師の人達がたくさんいるようだった。
外の廃棄場にゴミを捨てている人や、一休みしている人などが見える。
魔術塔の中へ入っていく。
ここには本を読んでいる人や、議論を交わしている人達がいて研究所といった雰囲気が出ていた。
「セツナ様、ジル様がいらっしゃるか確認して参ります」
レオナさんが奥へと歩いていき、誰かに尋ねに行く。
私はドアの隅っこでそれを待っていると、魔術師の人に話しかけられた。
「巫女様、ここでお会いできるとは。魔術討伐では助けていただきありがとうございました」
笑顔でお礼を言ってくれる魔術師。
たしかジル様の指名で結界の中へ入った者の一人。
「そんな、みんなで力を合わせた結果ですよ」
「おやさしいのですね。実際は巫女様一人で倒されたようなものですのに。
次は絶対に活躍できるよう精進致します」
おー、さわやか。
誰かさんのせいで魔術師にインテリクールなイメージを持っていたが、こういう人もいるのか。
「もしかして、ジルさんにご用でしょうか」
「はい、そうなんですが…」
そう言うとさらに緊張が増してくる。
ごめんなさいを言いに行く時はいつだってつらい。
「でしたら、三階の専用研究室にいると思います。お呼びしてきましょうか?」
「大丈夫です。もう確認をしてもらっているので」
「そうですか、あまり面白い所ではありませんがゆっくりしていってください」
そう言って魔術師は外へと出て行った。
「セツナ様」
入れ替わりでレオナさんが戻って来る。
「ジル様は三階にいらっしゃるようでして、今からでも面会ができるようです」
「わ、わかりました」
私はレオナさんと一緒に階段を上っていく。
うぅ…帰りたくなってくる。
ジル様がいる研究室の前へとやって来る。
他にも研究室がいくつかあり、ドアはどれもいっしょでジル=クラークと書かれた札がかかっているくらいしか違いがなかった。
コンコン
レオナさんがドアをノックする。
特に返事はない。
「失礼します」
レオナさんがゆっくりドアを開ける。
私の目に飛び込んできた光景は、例えるなら校長室のような部屋だった。
綺麗に掃除された床、両サイドには本棚がずらりと並び、真ん中には接客する椅子とテーブルがある。
その奥に大きな机があり、ジル様がこちら向きに座っていた。
壁にはドアが一つあり、たぶんあの中で実験などがされているに違いない。
私とレオナさんが部屋に入り、ドアを閉める。
するとようやくジル様がこちらに顔を上げてくれた。
何か書き物をしていたようで、手にはペンが握られていて目には眼鏡がかけられている。
イケメンと眼鏡ってなんでこんなに相性がいいのだろうか?
か、かっこいい…。
印象が変わるっていうのもあるのだけれど、なぜか色気が上がるんだよね。
これは本当に不思議なもので説明不可能なのだ。
「お、おひさしぶりですジル様」
そんなに日が経っているわけではないが、今の私はそんな気分だった。
「いったいなんのようだ?」
椅子にもたれかかり、眼鏡をはずしながらジル様が言った。
あぁ…もったいない。
そう思ったけれど、眼鏡をはずす仕草や前髪を少し直す様子がまたセクシーだった。
が、すぐにジル様の視線が私に向けられるとそんな考えは消し飛ぶ。
まだちょっとおっかない。
「実はジル様にお話しないといけないことがありまして、その…もっと早く来れればよかったのですが…」
前置きが長くなってしまいそうだ。
でも、そんなすぐに本題に入れない。
ジル様が席を立つ。
「そんな所に立っていないで、そこへ座れ」
ジル様が接客用の椅子を見る。
私とレオナさんはジル様に従って椅子に座った。
ジル様もこちらに来るが、まだ席には座らない。
「コーヒーしかないが、いるか?」
まさかジル様から飲み物をいただけるとは思ってもいなかったので、その心遣いに感動してしまう。
うれしい、ぜひ飲みたい。
しかし、私は謝罪に来たのだ。いただいていいものなのだろうか?
色々考えてしまい私は固まってしまう。
「まぁいい、私が飲むからついでに淹れてやる」
ジル様がドア横にある食器棚からカップを三つ取り出し、コーヒーを入れてくれる。
冷たく人を寄せ付けない感じは変わらない。
だけど、なんか初めて会った時とは雰囲気が違う気がするな。きっと、こっちが本当のジル様なのかもしれない。
私とレオナさんの前にコーヒーが並ぶ。
コーヒーはあまり飲まないのだけど、なにやらチョコレートのようないい匂いがする。
でもきっと苦いんだろうなー、と思っているとジル様が角砂糖を置いてくれる。
ジル様も席について、コーヒーを飲んだ。
様になっている。できれば眼鏡をかけたまま飲んでほしかった。
「話とはなんだ?」
カップを置いたジル様が本題に入っていく。
「は…はい、今日来たのは、その…ジル様に謝らなければならないことがありまして…」
ジル様はただまっすぐ私を見ている。
「私の…魔法についてなのですけれど…」
つ、つらい。
なぜ私はあの時嘘をついてしまったのか後悔する。
あの時はこの世界に来たばっかりだったし、自分のことで精いっぱいだったな。
そう思うと、私もだいぶ変わったものだ。
これは、ちゃんと聖なる巫女になるための一歩なのかもしれない。
「ごめんなさい。実は私、魔法は一切使えません。
あの時見せたものは、魔法とは違う別のもの、忍術というものなのです」
私はテーブルに額を擦り付けるくらいの想いで頭を下げようとしたが、コーヒーが置いてあることに気が付き、そこそこの角度で止まった。
私の謝罪の余韻を残しながら、部屋がしんと静まり返る。
「ふん、そんなことか」
えっ?そんなこと?
もっと突き放されるのを覚悟していたが、ジル様の反応はあっけないものだった。
「それって…」
私はゆっくり顔を上げる。
「私は魔術師だ。少し考えればお前がやってみせたことの違和感に気が付く。
それに、聖なる巫女は異世界からやって来る存在だったな。ならば、ただこちらの常識ではかろうとしたこと自体が間違いであった。だから…」
ジル様が少しだけ俯く。
「あの時の私は少しどうかしていた」
そう言って目頭を軽く押さえる。
「それにお前の力が魔法でないことはキョウヤから聞いた。だからその件はもういい」
「だけど、私が嘘をついたことは事実なので」
ジル様はあれから色々考察していたみたいで、私の嘘についてはすぐに気が付いていたようだ。
ただ、自分にも少し取り乱した落ち度があったと考えていたようで、私の嘘は不問にしていたのかもしれない。
変な人だ。それとこれとは別なはずなのに。
律儀なのか、完璧主義者なのか。
ジル様が私を嫌ったり怒ったりしなかったのは正直安心した。
だけど、ジル様だけでこの件を消化されてしまうと、私が未消化で終わってしまう。
「何かお詫びできることってないですか?例えば、魔術塔の掃除とか?」
何を言っているんだ?とレオナさんが隣でびっくりしている。
「そんなものは不要だ。新人の仕事だからな。
それに、聖なる巫女にそんなことをさせては私が目をつけられてしまう」
たしかにそうかも。でも、何かしないと気が収まらない。
「だがそうだな…」
ジル様がぽつりと言う。
「そこまで言うなら、私の研究を手伝ってもらおうか」




