口の悪い弓使い
ウェーブがかかった深緑の髪色、前髪は左に寄せられていて左目がやや隠れている。
ギザ歯とつり目が印象的でいわゆる悪人面に近い。
少々小柄で、ポケットが多い年季の入ったマントを付けている。
「なんで女がこんな所にいる?死にたいのか?」
ボガードの特徴はこの高圧的な口調。
声が若手人気声優っていうのもあり、この口調がむしろかわいいというのがゲームキャラとしての評価だった。
私としては仕事柄、こういうことを言う輩にろくな奴がいなかったので悪い印象しかない。
「お前!この方がどなたかわかっているのか!?」
「あっ?」
レオナさんに怒鳴られ、ボガードが睨み返す。
そのままじとっとした目付きで私に視線が移る。
「あぁ、たしか聖なる巫女サマ。そんな格好をしているからわからなかったぜ」
ボガードはくくくっと嫌味っぽく笑う。
「たしかに勝手に立ち入っていた我々も悪かったが、だからと言って矢を放つなど、当たっていたらどうするつもりだったんだ!?」
あんまりな態度に怒り心頭のレオナさんが詰め寄る。
「そんなミスするかよ。それに、聖なる巫女サマは俺に気づいていたぜ、お前と違っていてな」
レオナさんが驚きつつ、私の方を見る。
私はこくりと頷いた。
「だからと言って…」
自分だけ何も気づいていなかった事がショックだったのか、レオナさんの語気が弱くなる。
「お前はもういいや」
ボガードはレオナさんを無視するように横を通過すると、私の前に立つ。
「なぁ、聖なる巫女サマって強いんだってな。それに組手ごっこも見させてもらった。
噂もまんざら嘘ではなさそうだな」
すごい自信を感じるし、それ相応の実力も伺える。
「セツナ様、付き合う必要はありません。もう行きましょう」
レオナさんが私の手を取る。
それをボガードは見下すように眺める。
「雑魚が出しゃばんな。足手纏いのくせに」
レオナさんの顔が強張る。
先ほど弱い自分を克服しようとしたばかりで、弱点も指摘されたばかり。
足手纏いと言う言葉が重くレオナさんに突き刺さったようだった。
「い…いきましょう…」
言い返す事ができず、唇を噛んでレオナさんは堪えていた。
「へっ、この程度の挑発には慣れっこか」
ボガードが言う。
なんでこんな人がイケメンナイツの一人なんだ?
私は先ほどの言葉に苛立ちを感じた。
ボガードは負け犬として挑発を言われ慣れていると表現した。それは断じて違う。護衛のプロとして私を最優先にしてくれているだけだ。
それに、レオナさんは弱くない。
「おっ、やる気になったか?」
私の視線に気が付いたボガードが、今度は私を挑発する。
「セツナ様?」
レオナさんが不安そうに私を呼ぶ。
「ごめんなさいレオナさん。でも、このままじゃ私の気持ちが収まらない」
私はボガードとの勝負を受けることを伝えた。
「しかし…」
「大丈夫、絶対に怪我はしないから」
「言うねぇ」
レオナさんが困ったような悲しいような表情をする。
護衛として強引にでも中止するか、弱者として身を引くか葛藤しているようだった。
「そ…それでもダメです!万が一のも何かあったらいけません!」
まるで自分にも言い聞かせるようにレオナさんが言った。
「勘違いするな、そんなことは俺でもわかっているよ」
ボガードが勝負について補足する。
「勝負はそっちに決めさせるつもりだったが、こうしよう。
俺はこの訓練用の矢を使う。こいつの先端には魔法がかかっていて、どんなに強く放っても刺さらないどころか痛くもない。その代わり、一定時間が経過しないとくっついたままだ」
ボガードのその矢を一本だけ取り出して見せてくる。
「これを三本打つ。一本でも避けられたらそっちの勝ち。
どうだ?これから怪我せずに済むぞ?」
私はその矢を触らせてもらう。先端は尖っているが、お餅のようにベタベタしている。
レオナさんも触ってみて、殺傷能力が無いことを確認する。
「でも…」
それでもこの勝負を止めなくてはいけないと考えているようだった。
それは私もわかっている。
だけど、レオナさんを馬鹿にされたまま引き下がりたくない。
それに、イケメンナイツであるボガードとはこれから関わっていくことになる。
こんな形で引いてはいけないと思った。
「大丈夫だから、約束する」
そう言ってレオナさんの手を放す。
「その勝負受けるわ。ただし、内容を少し変えさせてもらえる?」
「なんだ?」
「私も矢を三本使うわ。どちらが多く当てられるかを競いましょう」
それを聞いてボガードの目が少しだけ大きく開く。
「聖なる巫女サマは弓も使えるのか?」
「少しだけだけど、あなたには勝ってみせる」
「いいね」
ボガードがにやりと笑う。
そして私たちはそれぞれ弓矢を持ち、20メートルほど離れて弓矢を構えた。
それを遠くからレオナさんが見守っている。
情けない思いをさせて申し訳ないと思うけれど、こればっかりは譲れない。
「こんなに近くていいのか?」
「いいですよ」
「それじゃ、始めようか」
勝負が始まる。
私とボガードはお互いを狙い合って動きを止める。
私の見立てだとボガードは相当の腕前。だが、目視できていれば躱せる距離。
問題は私が知らない技術、または魔法。
特に魔法に関しては私の常識を簡単に打ち破ってくる。決して油断できない。
などと考えているとふと思うことがあった。
「ねぇ、そもそも魔法ってあり?」
私は勝負中にも関わらずボガードに質問した。
「どちらでもいいぞ。
ちなみに言っておくと弓術の半分は魔法だ。無しの方がいいと思うが」
「そう、ならありでいきましょう」
私は足を通して地面に氣を送った。
「土遁の術:濡離壁」
軽い地響きと共に、私の前に高さ2メートルほどの半円の土壁ができあがる。
「…はっ?」
クノイチでなければ聞こえないような小さく間の抜けた声が聞こえる。
「魔法はありなんでしょ?」
これは魔法ではないが、この際それは関係ない。
肝心なのはこの勝負をなんでもありにすること。
「それがどうした!そんな壁貫いてくれる!」
私に挑発されたと思ったのか、ボガードが叫ぶ。
私は青空に向かって一矢、真横へボガード目掛けてカーブをかけた二矢を放った。
ボガードは一瞬だけ一矢に気を取られるが、すぐに二矢に気が付いて弓で叩き落とす。
「土遁の術:粘土錠」
「なんだ!?」
ボガードの足に粘土の左足に足かせがはめられる。
その間に自由落下で地上に戻ろうとしている一矢がボガードへ落ちていく。
「なんの」
ボガードは右足を大きく前に出し、姿勢を可能な限り低くして一矢を躱した。
「残念だったな!俺の勝ちだ!」
ボガードが三本の矢を連続で土壁に向かって放つ。
その威力は強大で、土壁を軽々貫いていった。
その刹那、ボガードの胸に私の三矢目が突き刺さる。
三矢目はなんと地面から生えてきていた。
「土遁の術:土竜罠」
武器をモグラのように地中を移動させて罠を張る忍術。
「こ、こんなのありかよ…。でもな、聖なる巫女サマは一本、俺は三本だ!」
「いいえ、0本ですよ」
私の声の後に土壁が崩れる。
姿を現した私の手には、三本の矢が握られていた。
勢いが衰えることなく貫いてきたのは驚いたけど、忍術を通過させた時点で感知できちゃうんだよね。私レベルのクノイチともなると。
「そ…そんな…」
ボガードが力なく膝をつく。
私はボガードに近づいていき、レオナさんも駆け寄ってきた。
「私の勝ちでいいわね?」
私がそう尋ねたが、ボガードは俯いたまま何も言わない。
「最後に一つだけ言っておくことがあります」
そう言うと、ボガードが顔を上げる。
「レオナさんは強くて素敵な人です。
た、たしかに今はちょっと調子が悪いみたいだけど、これからもっと強くなるんだから。
あなたに勝った私が言うんだから絶対です。
だから、レオナさんに謝ってください」
「セツナ様…」
「なっ…」
ボガードは先ほどまでの苦い表情から呆気にとられた顔に変わった。
そして、少し悔しそうに歯を食いしばりながらレオナさんの方を向く。
しばらく何も言えなかったが、最後は絞り出すように謝罪してくれた。
「わ、悪かった」
それを聞けて留飲が下がったのか、レオナさんの表情がやわらかくなる。
「この場を勝手に借りてごめんなさい。私たちはもう行くわね」
私はそう言うと、その場を後にしようとした。
「ま、待て!」
ボガードが私を引き留める。
「お、お前は…そいつのために勝負を受けたのか?」
「そうだけど?」
何も言葉にできないといった様子でボガードが黙る。
「そ…そうか」
何やら私をじっと見つめてくる。
「なんです?」
「いや、なんでもない」
ボガードはすぐにそっぽを向いてしまった。
あまりすっきりした結末にはならなかったけれど、ちゃんと謝ってくれたし、これでもイケメンナイツだから悪い人ではないんだよなー。
それに最後の眼差しはなんだったのだろう?まるで面白い物でも見つけたような丸い目だった。
私は少し頭を悩ませつつ、レオナさんと弓の訓練場を後にするのであった。




