よく出会うあいつ
「…というものを考えたんだけど、作れるかな?」
私はマリーへの誕生日プレゼントで考えた案を双子に説明する。
実はこの案、一番いいと思っているけれど難しくて実現不可能かもと思っているもの。
魔法と錬金術はなんでもできると思っている素人っぽい発想だったりする。
案の定、アルフレッドもマルグリットも終始難しそうな顔をして聞いていた。
「やっぱり無理?私の説明じゃわからなかったかな?」
たまたま知っていた事だけを頼りにしたアイデア。
思っていた通りダメだったかな?
「「おもしろい!!」」
双子は声をそろえてそう言った。
「すごい、そんなこと考えたこともなかった」
「発想としては版画に近いのかな?」
もしかしてとは思っていたけれど、この世界にはまだ無かった物のようだ。
「で?どうかな、作れそう?」
反応はよかったので少し安心したが、技術的な方はどうだろう?
「うん!魔法の力を借りる必要があるけど」
「できる。明日には試作を作ってあげるよ」
やった!
しかも明日には形になるってすごすぎる。
私が思っている以上に魔法と錬金術って万能?
その後、外形のデザインを伝えると私とレオナさんは錬金工房を出た。
去り際、双子はすでに私の依頼に着手し始めていて期待が高まる。
「セツナ様はどのようにしてあのようなアイデアを思いついたのですか?」
錬金工房の熱気がなくなったあたりでレオナさんに質問される。
「そうだなー、マリーは昔絵をよく描いていたみたいで、何を描いていたのか聞いたら家族とか実家の近所って言っていたの。でも、絵を描くのが好きだとは表現していなかったから…」
「いえ、そうではなくてですね」
「え?」
「私が知りたかったのは、原理の方です」
原理かー。日本にあったから知る機会があっただけなのだけど、なんて伝えたらいいのか?
聖なる巫女が異世界から来ているって常識なんだっけ?
「レオナさんは私がどこから来たのか知っていますか?」
「いえ、予言書に遠い国から~などと書かれていたとしか」
「まぁ、そこにはすでにあって、私が自分で思いついたわけでじゃないんだよね」
「そ、そうでした」
レオナさんがちょっとだけ解せない顔になる。
そんなこと言われても、はぐらかされたか?と思っちゃうよね。
「レオナさん、話は変わるんですけど」
「はい」
「錬金工房にいる間、ずっと静かじゃありませんでした?
あの子たちもちょっとだけ様子が違かったし、でも知り合いじゃないんですよね?」
「あっ、あれはですね…」
なんと言ったらいいか?という感じで、口元を隠してレオナさんが少し悩む。
「…ここだけの話にしていただきたいのですが」
レオナさんが検討の末話し始めてくれた。
「実は私、似合わないのは重々承知しているのですが、その…」
あれ?レオナさん照れている?
「私、子供好きなんです」
レオナさんはすべでを自供して肩を落とす。
たしかにちょっと意外な感じはするが、そんなにおかしいことではない。
っていうか、理由にするなら逆じゃない?
「それなら逆に、もっとテンションが上がるものだと思いますけど?」
「おっしゃる通りです。ですが、どうも私は子供に怖がれやすいようで…」
要するに、あの子たちはレオナさんが怖くて緊張気味になり、レオナさんはそれがわかっているから大人しくしていたと。
えー、レオナさんって怖いかなー?
そう考えながらレオナさんを観察してみる。
洗礼された大人、でもさり気なくオシャレを入れる女子力、私だったら憧れるけどな。
そう思ったけれど、これはあくまで女子目線である。
男子だったり、双子よりも小さい女子にはピシッとし過ぎているかも。
「もしかして、昔それで失敗したことがあります?」
レオナさんは無言で頷いた。
どんなに完璧に見えても、人には人の悩みがあるようです。
「おっ、良い所にいるじゃねえか!」
こうしてお城の中を歩いていると、よく耳にするダンディボイスが聞こえる。
「大怪我だって聞いていたけど、大したこと無さそうだな」
これが本当に乙女ゲームヒロインにかける言葉なのだろうか?
男友達を見つけたかのように話しかけてくれるのはうれしいが、私の乙女心が若干拗ねる。
「ロック様っていつも何をしているのですか?色んな所で声をかけてくれますが」
「いいじゃねえか俺のことは、これでうまくやっているんだから」
棘のある言い方をしたつもりだったが、ロック様には刺さらなかった。
「それより、レオナと一緒ってどういう組み合わせ?それになんだその格好?」
その質問にはレオナさんが答えた。
「今日から三日間だけですが、セツナ様の世話役を任されたのです」
「世話役?お前が?ふーん」
すっごい含みのある言い方をロック様がする。
「二人は顔見知りのようですね」
「あぁ、アッシュがたまに飲みの席につれてくるんだ。
けっこう腕が立つんだぜこいつ、あっ、そういう意味だと嬢ちゃんと気が合うかもな」
そう言って笑うロック様を、私とレオナさんはジト目で見る。
ロック様からすると、私はおろかレオナさんですら子供扱いされている。
一緒にお酒を飲んでいるにも関わらず。
「それでだ嬢ちゃん、お前に見せたいものがあるんだ」
「見せたいもの?」
ロック様は得意顔になると、髪を一本抜いて私に見せつける。
えっ?まさか?
「見てろよ」
そう言うと、ロック様の氣が、ロック様の手に集中し始める。
その氣が髪に伝わっていき、ゆっくりと髪が立ち上がっていき、風になびく。
うそでしょ!?
これを教えてまだ一週間くらいしか経っていないけど?
「どうよ?」
「す、すごいです」
もう素直に驚いた感想しかでなかった。
「だろ?すげえ頑張ったからな。これはもう合格だろ」
年上の上から目線で話しかけてきたと思ったら、今度は年下が見返りを求めるようになついてくる。
わがままというか、気まぐれというか。
これだけ聞くと嫌な奴なのだが、決して嫌な気分で終わらないのは、ロック様がありのままの自分を見てくれているのがわかるから。
「あの、これはいったいなんですか?」
いきなりやって来て髪を見せてくるロック様に、レオナさんが困惑する。
「これはですね…」
私は簡単に氣の特訓の事を説明した。
「それがセツナ様の強さの秘密だったのですか」
「どうだすげぇだろ?お前もマスターしたらさらに強くなれるぞ」
なぜかロック様が得意気に言う。
「私も…?」
レオナさんが考える。
「まぁ興味があったらいつでも言ってください」
ずいぶん悩まれていたようなので、私はそう言っておいた。
「それでだ、次は何をしたらいい?」
こんなにあっさりできるようになるとは思っていなかったので、その場で考える。
「では、次はこれをマスターしてください」
私は自分の髪を抜いて、前回と同じように指でつまむ。
氣を集中させて髪の毛が立つ。
そこから、さらに氣を集中させて髪の毛を操る。
うねうねと動かしたり、バネのようにぐるぐる回ったり、自由自在に変形させる。
「ぐぬぬ…、やっぱりそれかー。
何度か試したけど全然できなかったんだよな」
ロック様は検討がついていたようですでに予習していた。
「抜いた髪の毛でも自分の一部ですから、氣を流すのは比較的楽なんです。
ですが、動かすとなると今度は小さすぎて難しいかもしれません。
ですから、大きめで柔らかい物で試してみるといいかもしれません」
「じゃあ、また氣を流すところからやり直しか、道は長いな」
しゅんとした拍子に獣耳も少し倒れる。
「たしかにそうですが、ロック様は習得が常人の十数倍早いです。頑張ってください。
それにこれができたら、体を使った実践的な内容に入りましょう」
「そうか?まぁ嬢ちゃんが言うなら信じるか。ありがとよ」
ロック様がまた私の頭を撫でた。
ただ、前のようにわしゃわしゃとではなく、髪の流れに合わせてやさしく。
あ、あれ?なんか、いつもの感じと違う?
すっすっと私の髪を流れるロック様の手がなんともこそばゆい。
子供としてではなくて、女の子として撫でている?
「じゃあな、また頼むぜ」
ロック様は用が終わるとさっさとどこかへ行ってしまった。
「な、なんなんですかね、あれ?」
「そ…そうですね」
頭を撫でられた照れ隠しのつもりで悪態をついたつもりだったが、たぶん私の顔が赤かったのだろう。
目を逸らして微笑ましく笑われてしまった。




