イケメンナイツについて
「ドアを開けていただけますか?」
オズワルド様に言われ、私は抱えられたままドアを開けた。
「あっ、セツナ様。大丈夫で…」
ドアが開く音を聞いて振り返ったマリーが固まる。
よろよろ出て行った女子が、紳士に抱っこされて帰ってきたら誰でもそうなりそうだ。
「はっ!やはりまだ一人で歩くのはおつらかったのですね」
事情を察するマリー。
「う、うん。そうだったみたい、ごめんね」
たははと面目なく笑った。
「元の世界でどのように暮らしていたかはわかりませんが、ここではもう少し人を頼ってもいいのですよセツナ様」
お姫様抱っこをしたままオズワルド様に諭される。
うぅ…顔が近い。老いた肌質とかシワがよく見える。
それが何故か色っぽく見えるから不思議だった。
ざらざらした触感を想像して、思わず触ってみたくなる。
それをぐっと堪えていると、私はベッドに運ばれた。
マリーが掛布団をめくり、オズワルド様が私を寝かせる。そしてマリーがすかさず掛布団をかける。
見事な連携でした。
「オズワルド様はこちらにかけてください」
マリーが準備した椅子とテーブル。淹れたての紅茶もある。
「ありがとう」
マリーが椅子を引き、オズワルド様が静かに座った。
紅茶に目をやり、手に持って一口飲んだ。
「おいしいです。上手に淹れてありますね」
「ありがとうございます」
やさしい旦那様とできるメイドという構図がそこにあった。
さしずめ私はやんちゃして寝込んでいる出来の悪い娘。
「いかがですかセツナ様?かなり苦しそうでしたが…」
「大丈夫です。こんな格好で申し訳ありませんが、お話するだけでしたら問題ないです」
ここまでしてしまったらもう気取るものなど何もない。
私が一番楽な姿勢を貫かせてもらおう。
「そうですか」
オズワルド様がマリーに顔を向ける。
「すみませんが、セツナ様と二人きりにさせていただけますか?」
マリーがわずかにピクリと肩を震わせる。
侍女には関係の無い話とはいえ、直接お世話をしている人の話を聞かせてことに驚いたようだった。
「あの、マリーは聞いていても問題ないと思いますが…」
私はすかさず口を挟む。
「わかっております。ただ、今回お話したい内容はなるべく人に聞かれたくないのです。
いずれわかってしまう事かもしれませんが」
いずれわかる?どういうことだろうか?
「か、かしこまりました。それでは失礼致します」
少し遅れてマリーが礼をして、部屋を出ていく。
「私のような年寄りと二人きりというのは疲れるかもしれませんが、しばらく我慢していただけますか?」
オズワルド様はそう言ってまた紅茶を飲み、ポットの紅茶を注ぐ。
けっこう紅茶好き?
「本日お話したかった事は、以前お話された聖なる巫女の力を高める存在についてです」
本日の議題はイケメンナイツについてのようだった。
前回はそういう人たちがこのお城にいるというところまでに留めていた。
「セツナ様は、その存在が誰なのかご存じなんですか?」
「…はい」
まだ一回した会ったことがないが、オズワルド様は信用できような気がした私はキョウヤ様たちのことをお話した。もちろんオズワルド様のことも。
「私も含まれているのですか?」
さすがのオズワルド様もそれには驚かれていた。
目を大きく見開き、眼鏡が少しずれる。
「こんな老いぼれにそんな大役が、いやいや驚きました。
それにあの双子も…、これはもはや何かの運命なのでしょうか?」
この世界がゲームをなぞっているなら運命と言えなくもないが、そんなロマンチックなものにはちょっと思えなかった。
「それで、今挙げられた者で全員なのですか?」
「いいえ、実はあと2人います」
私はゲームを開始して初めて出てくる選択画面を思い出す。
そこには8人のイケメンナイツが並び、選択したナイツだけ好感度が上昇した状態でゲームがスタートするというもの。
私はその時キョウヤ様を選択したのだが、一応一周回って全員の顔と声を確認している。
残された2人の内の1人目は弓使いのボガード=ラモン。
そしてもう1人は曲芸師のクリス=アンヘル。
どちらもクセが強めであまり好きにはなれず、ゲーム内であまり関わっていなかった。
「弓使いでしたら専門にしている部隊がいますので伺ってみましょう。
曲芸師の方は、専属契約している団体があるなどは聞いたことがありませんので、時間がかかりそうですね」
「よろしくお願いします。近くにはいると思うのですけれど…」
あまり関わっていなかったとは、テキストをまじめに読んでいなかったという事を指す。
要するに、外見と職業、そして大まかな性格しかわからないということだ。
そして、聖なる巫女の役目を果たすためとはいえ、ちょっとだけ気が乗らない。
「わかりました。捜索の方は私から進言しておきましょう」
オズワルド様は持ってきていたメモ帳に色々と書き込んでいる。
「セツナ様を守護する存在が誰なのか具体的にわかりました。
よかった。これで提案したかったことをお話することができます」
「提案…ですか?」
「はい、私も含まれているとは思ってもいなかったのでお恥ずかしいのですが…」
オズワルド様は軽く笑った。
「簡単に申し上げますと、その者たちと信頼を深める時間を積極的に持っていただきたいのです」
積極的に?
それがどういう意味なのか、わかるようなーわからないようなー…。
うんともすんとも言えず、黙ってしまう。
「信頼というものが一般的に言われているものなのか、それとも戦いの中で生まれるものなのか、はてまた男女の仲を指すのかはわかりません」
なんかさりげなくすごいことを言わなかった?
「あぁすみません。極端なことをさせるつもりは毛頭ありません。
ただ、こちらで彼らと関わる時間を設けてもよいかというご提案です」
こほんとオズワルド様は咳払いをする。
「聖なる巫女の力がほとんど無いとおっしゃっていましたが、魔物を倒す事ができています。
そして、昨日のご活躍は王国中に広まり民の希望になりつつあるでしょう。
ですが、それがいつまで続くかわからないのが正直なところではないでしょうか?」
オズワルド様の目が途端に厳しいものになる。
やさしき神官とはまったく異質な印象を受けた。
「たしかに…そうですね…」
魔物が私を狙い始めている可能性がある。
魔物を倒すのが大変になってきている。
オズワルド様が言いたい事はそういうことだろう。
それは私も感じていた。
故に、聖なる巫女の力である光の魔法が必要になる日が近いのではないかという事。
そのために、まずはお見合いのような場を用意してみようというのがオズワルド様の提案である。
はっきり言って微妙である。
私が憧れている恋愛から遠ざかってしまう気がしてならない。
けれど、事情は重々承知しているのでそれについて何も言えない。
「あの、一つ聞きたいのですが」
何も言えないので、別の質問をしてお茶を濁す。
「なんでしょう?」
「なぜ、信頼関係について隠す必要があるのですか?」
「それは簡単な理由ですよ」
いつの間にかいつものオズワルド様に戻っている。
「理由なんて、仲良くなるためには邪魔じゃないですか。
友達って、親に言われてなるものではないでしょう?」
本当にすっごく簡単な理由だった。
思わず笑ってしまうくらい。
「それに」
ふふふと笑いながらオズワルド様が続ける。
「あなたの魅力があれば、きっと彼らはあなたに惹かれていきますよ」
自分の顔がゆっくり赤く熱くなっていく。
そんな恥ずかしいセリフをよくさらりと言えたものだ。歳がなせる業なのだろうか?
しかもそれにオズワルド様自身が含まれているのをわかっていないわけじゃないよね。
「年甲斐もなく恥ずかしい事を言ってしまいましたね。
今日はこのくらいに致しましょう。
とりあえずは、身近な者から始めてみてもよろしいですか?」
オズワルド様が席を立つ。
「は、はい…」
あんなことを言われて、断れる術を私は知らない。
「では、安静になさってください。
今日はお時間をいただきありがとうございました」
オズワルド様がそう言って部屋を出ようとする。
「あの、あと一つだけ聞かせていただけませんか?」
「なんでしょう?」
「えーと、なんといっていいかわからないのですが…神官以外に何かやられていますか?」
抱っこされた時に確認したことを聞いてみる。
それを尋ねられてオズワルド様は再び笑った。
「さすがセツナ様、よくわかりましたね。
実は私、神官になる前は傭兵をしておりました。知っている者は少ないですが」
驚き、いや、納得か?
不思議な感覚。イケメンナイツの設定は深い。
あの時の厳しい目は、傭兵としての忠告のようなものだったのか。
「ですから、共に戦場へ向かう日が来るかもしれませんね」
最後に本気なのか冗談なのかわからない言葉を残してオズワルド様は部屋を出て行かれた。
今日の話をもって、事態が一つ進んだ感じがする。
未だ光の魔法が使えない聖なる巫女の運命はいかに?




