療養中
パーティー会場に穴を開けた翌日。
私はマリーに朝ごはんを食べさせてもらっている。
パンをちぎって口に運んでもらい、スプーンですくったスープを飲ませてもらう。
体は相変わらず痛いが我慢すれば動ける。クノイチは忍耐力にも自信があるのだ。
けどまぁ、なんというか、こうやって女の子に食べさせてもらうのってちょっと楽しい。
こういうのって男の人だけの趣味かと思っていたけれど、童心に帰ったみたいで和む。
「ごちそうさまでした」
私はちょこんと頭を下げてお礼を言う。
「全部食べられたみたいでよかったです」
マリーが食器を片付けながらそう言った。
大袈裟だなーと思ったけれど、全身に包帯を巻いて動けなくなっていればそう思われてもしかたないかもしれない。
「そうだセツナ様…その、まだお体を動かすのはおつらいのですよね?」
マリーがなにやら心配そうに聞いていた。
「うん、そうだね。数日はこんな感じかな」
「ではその…お体を拭いたりですとか必要ですよね?…あとはその……」
何をもごもごしているのかと不思議に思っていたが、すぐに気が付いた。
「それは大丈夫!もう少ししたらトイレくらいは行けるようになるから!」
マリーに甘えすぎて、危うくとんでもないことをやらせてしまうところだった。
「そ、そうですか」
気を使っている感じだったが、わずかに安堵している様子。
そりゃね。いくら仕事とはいってもね。
「それよりも、聖なる巫女としての役割的なものってどうなっているか知っている?
私自身が動けないわけだからできないとは思うのだけれど、迷惑をかけていないかな?」
マリーがぶんぶんと首を振った。
「そんなことはありません。セツナ様は国王様をはじめ多くの人々を守られました。
その功績はすぐに王国中に知れ渡り、もう面会を申し出てくる方もいるくらいです」
面会?
その単語にちょっとだけ嫌な予感がした。
この王国に限ってそういう人は少ないと思いたいけれど、日本にはお礼と言いつつクノイチとのコネやツテを求めてくる人がそれなりにいた。
しばらくは動けないことにして保留にできるから、後で考えよう。
さらにマリーの熱弁は続く。
「ですから、セツナ様を気遣えど不満に思う人などいないはずです。
今はゆっくりお休みになってください」
「そっか、ありがとう。お言葉に甘えてそうさせてもらうよ」
私は起こしていた上半身を再び布団の中へ入れようとする。
「あっ、あのように言った手前申し訳ありませんが、何もすることがないわけではありません」
「えっ?」
私は中途半端な体勢で止まってしまい、腰に痛みが走る。
「いつつ…」
「あぁ、すみません」
「大丈夫、それで?ベッドで寝たままできることがあるってこと?」
私はゆっくり仰向けに寝ながら聞いた。
「はい、今日はオズワルド様がこの部屋にいらっしゃいます」
「オズワルド様が?」
「はい、神殿での続きをお話したいと伺っています」
「あぁ、たしかにお話するだけならこのままでもできるか」
でも、寝衣のまま神官の紳士に会うのは恥ずかしいなー。
と思ったけれど、乙女心と楽な方を天秤にかけたら楽な方が勝ってしまった。
「お昼前を予定していますので、オズワルド様が参られる少し前に私が準備を致しますね」
「ありがとう、よろしくね」
「それまではお休みください」
マリーは少し部屋の片づけをした後、部屋を出た。
一人残された私は、ベッドで静かに寝ている。
オズワルド様と話す事となると聖なる巫女についてだろう。
事前に色々と考察しておいた方がいいと思うが、マリーの誕生日プレゼントも考えなくては。
時間はまだありそうだし、半々でやりますか。
………。
……・
…・
コンコン
「えっ?あっ、はーい」
「失礼します。セツナ様、どうかなさいましたか?」
部屋に入ってきたのは再びマリーだった。
「あれ?もうオズワルド様が来る時間なの?」
「もう…ですか?2時間ほどは経たれたと思いますが…」
えー…、そんなに?
だいぶアイデアがまとまってきて調子がいいなと思っていたら、夢中になり過ぎてしまっていたようだ。
いけない、予習ができていない。
マリーがテーブルや椅子を動かしてセッティングをしてくれている。
その間に少しでもゲームの内容を思い出そうとしてみる。
しかし、マリーには申し訳ないがやっぱり一人でいる時よりも集中力が落ちる。
まずい。予習をしなくてもオズワルド様に迷惑はかけないのだけれど、この事は私も深く関わっているから少しでも早く進めたい。
進めたいのに…。
意識を現実から長い間切り離していたせいか、急にトイレへ行きたくなってきた。
「マリー、ちょっとトイレに行ってくるね」
「動かれても大丈夫なのですか?」
「たぶん大丈夫、歩くくらいならできるから…」
心配をかけたくなくていつも通りに動いてみたが、筋肉という筋肉が痛くて冷や汗をかきそうになった。
なんとかベッドから出て立ち上がる。
「ほらね、まだ痛いっちゃ痛いけど、これくらいなら…なんとか」
ちょっとだけ自信が無くなって語尾が弱くなる。
「本当ですか、私がお付き添いします」
「ううん、大丈夫だから。ゆっくり歩けば一人でも行けるって」
私は心配そうな目をしているマリーを置いて、そろりそろりと部屋を出た。
あれー?トイレってこんなに遠かったっけ?
一瞬くじけそうになったが、クノイチの威信にかけても負けられない。
なるべく笑みを浮かべつつ、口の中では歯を食いしばりながら一歩一歩進む。
なんとか用を済ませて、トイレから出てくる。
寝衣ってめんどくさい。最初はかわいいと思っていたけれど、パジャマの楽さが恋しくなった。
しかも、この道のりを帰らないとなるとまたくじけそうになる。
私は壁に手をつきながら歩き始める。
「おや、セツナ様ではありませんか」
後ろからイケボ男性に声をかけられる。
壁に付けていた手を胸の前に戻し、なるべく痛くないように振り返る。
そこにいたのはやっぱりオズワルド様だった。
「お体はもう大丈夫なのですか?とてもお辛そうですが…」
眉毛を下げて本当に心配そうな顔をされている。
「だ、大丈夫です。まだ痛いですが、なんとか動く程度には」
「本当ですか?大事なお体なのですから、あまり無理はなさらないでください」
みんなの聖なる巫女なのだから。という意味なのだろうけど、そんな紳士的なことを言われてしまうと照れる。
なんだか無理して歩いている自分が恥ずかしくなってきた。
「そうですよね、ごめんなさい」
「いえいえ、私の方こそ出過ぎたことを。申し訳ない」
ここは素直に手を貸してもらうのが一番スマートかも。
「すみませんが、少し手を貸していただけますか?」
「もちろんですセツナ様。手と言わず、今回ばかりは私にお任せください」
はい?それってどういう…。
私がハテナを浮かべていると、オズワルド様が失礼しますと言いながらひょいっと私を持ち上げた。
えぇ!?
これってお姫様抱っこじゃない!
おぉ、視線が高い。これが高身長の男性の目線かー。
お姫様抱っこされるのはこれで二人目。
とんでもないことをされている自覚があるのに、しばらくぽぉとして落ち着いてしまうのはなぜだろう?
なんて感動している場合だろうか?
神官のオズワルド様にこんなことをさせていいとは思えない。
「あ、あの」
「ご無礼をお許しください。これが一番よいと思いましたので」
慈愛に溢れる笑顔で言われてしまっては、もう言う事はない。
このままベッドへ運んでもらおう。
マリーになんて思われるかわからないけれど、気にしない。
しかし、初めて会った時にもしかしてって思ったけれど、お姫様抱っこされて確信した。
大きくないが機能性に優れた筋肉、重心のぶれない歩き方。
オズワルド様ってかなり強い。
ゲームで好感度を上げていたらそういうエピソードがあったのかな?
さすがイケメンナイツの一人。設定は多そうだ。
もしかしたら今日、オズワルド様についても何か聞けるかもしれない。




