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聖なる巫女の一撃

私は今、天井で直立している。

髪は重力に引かれて逆立っていて、逆さまに吊り下げられている状態。

ドレスやハイヒールは脱ぎ捨てているので、髪以外を気にする必要がない。

わずか1日でここまで用意してくれたユリさんには感謝しかない。

これで忍術に集中することができる。

私は両手で印を結び氣を込める。


「雷遁の術:電倒(でんとう)無死(むし)


私を中心に電撃が広範囲に発生する。

殺傷能力は無いが、大勢の敵を一気に怯ませる忍術。


私の電撃を受けた魔法の明かりが、スーパーボールのように会場中を跳ね回る。


キョウヤ様がやった事は術式の書き換え。

魔法の明かりが、人や物にぶつからないようにゆっくり飛ぶのではなく、勢いよくぶつかって跳ね返るようになったのだ。


その魔法の明かりに電撃を与えて四方八方に散らし、おまけに電気を加えて光を強くする。


狙いはもちろん、会場を隅々まで照らして魔物を炙り出すこと。

流星群を想像させる数の明かりが、会場を埋め尽くす。

その様子はさしずめミラーボールのあるダンスホール。

七色の光が床や壁を照らし、上品だった雰囲気ががらっと変わる。


魔法の明かりはすごい速度でぶつかってくるが、キョウヤ様やアッシュとレオナさんはそれらを躱している。


演説中の光に比べると弱いが魔物は出てくるだろうか?

私も飛んでくる明かりを躱しながら会場中に注意を払う。


ガシャーーーン!


階段下のテーブルがひっくり返る。

狙い通り、光に耐えられず魔物が飛び出してきた。


「逃しはしない!」


キョウヤ様がシャンデリアから魔物へ向かって飛び出し、空中で一撃加える。

さらに一回転して魔物の背面にもう一撃。


うまい!

これなら魔物を空中に残せて、影の中へ逃げ込む事を防げる。


キョウヤ様は魔物よりも先に着地して、もう一撃くらわせる。


「まだまだー!」


いつの間にか槍を手にしたアッシュが魔物を突き刺す。

貫通こそしなかったが、槍先は刺さっているのでダメージがありそうだ。


「続けろアッシュ!」


魔物の下へ回り込んだレオナさんが、魔物を蹴り上げる。


「ナイスアシスト」


アッシュは弓を引くように深く槍を構えると、目にも止まらない連撃を繰り出す。

槍が刺さる度に魔物の表面が剥がれ、徐々に削れていく。


おー、アッシュもやるじゃん。

あれほどの使い手は日本でもあまり見たことがない。ちょっと見直した。


グワァァァァ!


魔物が叫びながら空中で高速回転を始める。

すると、表面が紐状に解けていき、何十本もの太い鞭がキョウヤ様たちに襲い掛かる。

ヒョンヒョンと風を切る音が響き、当たったら大ケガ確定なのがわかる。


「ちょ…そんなのあり!?」


アッシュは槍を器用に回しながらその攻撃を凌ぐ。

レオナさんはキョウヤ様と合流して庇ってもらっている。


どちらもきつそう。

しかも今は魔法の明かりにも気を付けなければならない。

早くなんとかしないと。


私は天井でぐっと腰を落として魔物へ突っ込む体制に入る。

あの鞭をかい潜り、かつ一撃で仕留める忍術。

これ、私も痛いから使いたくないんだけど、そうも言っていられない。


氣を全身に巡らせて、私自身を武器と化す。

髪や肌から電気が走り、足元に空気が集まってきて渦を巻く。

いくぞ、耐えろ私!


「風雷遁の術:電光(でんこう)石火(せっか)


ズガーーーーン!!!


雷が落ちたようなすごい轟音が鳴る。

魔物には大きな穴がぽっかりと空き、その下の床にまで穴を空けている。


魔物は攻撃に使っていた鞭を体に集め、穴を塞ぎ始めるが時すでに遅く、魔物の体が崩壊し始める。

細かく砕けながら、水蒸気のように消えていく。

その様子はもはや生き物ではなく、そんなものは初めから無かったかのように跡形もなく消滅した。


私はパーティー会場の2階層下から魔物の最後を見届ける。


い…痛い。痛すぎる。

動きたくても体に力が入らない。

助けてー、キョウヤ様ー。


「セツナ様ー!ご無事ですかー!?」


キョウヤ様の声が聞こえる。

続けてアッシュとレオナさんの声も聞こえてきて、みんな無事だったことに安心する。


後は私を担ぎ出してほしいんだけど…。


「すみませーん!レオナさん"だけ"来てくれませんかー!!」


痛みを堪えて大声を出す。

だって、こんなみっともない姿をキョウヤ様には見せられない。

服は焦げて動いたらやぶれそうだし、片足が何かに引っかかって大股開き。

あの忍術は色々と捨て身なのです。


「けほっ…」


まぁとりあえずは、今回も無事切り抜けられてよかった。


--------------------------------------------------


数時間後、私は自室のベッドで寝ている。

パーティーをやっていたのがすでに夜だったので今は深夜。

もしかしたらすぐに朝日が昇るかもしれない。

あれだけ綺麗でにぎやかな場所にいたのに、今は暗く静かな部屋に一人。


あれからレオナさんに救出してもらい、すぐにお医者様に見てもらった。

骨や内臓は無事だが、全身の筋肉がズタボロになっていて驚かれた。

痛みを和らげる魔法がかかった包帯を巻いてもらったが、数日間の筋肉痛は覚悟するようにと言われた。

すでに経験済みの私は苦笑いで返答した。


だいぶ楽になってきたが、寝返りをうつのも億劫になるくらいだるい。

まるで首から下が人形にでもなったかのようだ。


そういえば、治療中にマリーが来てくれた時は顔が真っ青だったな。

何を聞かされたのかわからないけれど、心配させてしまった。

これはますます誕生会を成功させなくてはいけない。


とは言え、今はペンを握るどころか起き上がることもしたくない。

しばらくは頭の中でプレゼントのデザインを考えるのみ。

こんな体じゃ何もできないし、考える時間を持てたと思うようにしよう。


心配といえばキョウヤ様も暗い顔をしていたな。

私がみんなを助けたくてやったことだけれど、やっぱり責任を感じているよね。

キョウヤ様が悲しそうにすると、私まで悲しくなってくる。


でも、これって結構難しい問題なんだよね。

生まれた時からイノイチだった私は、ゲームヒロインのような立ち振る舞いに憧れていた。

そして、キョウヤ様だけでなく多くの人がそれを想定していたと思う。

けれど現実は、光の魔法が使えない代わりに忍術で私自身も戦闘に参加せざる負えない。

決してキョウヤ様たちが頼りないというわけではないけれど、私がやらなかったら被害は大きくなっていただろう。


さらに、女子力が足りないせいか?イケメンナイツの私に対する態度がゲームと全然違う。

最近は良い傾向にある気がするが、ラブな感じにはまだ程遠い。

まぁ、ここはゲームじゃなくて現実だからね。

わかりやすい選択肢も、お金で買える好感度も、攻略サイトもあるわけじゃない。

地道に私自身で勝負していくしかないわけ。


「はぁ…」


この悩みでため息をついたのは何度目だろうか?

いくら頑張ると心に決めたって、こんな寂しい夜には弱気になることもある。


だからと言って落ち込んだまま終わる私ではない。


戦闘パートは今後期待できるものがある。

それはキョウヤ様とロック様が氣を操れるように近々なるであろうということ。

あの二人があんなあっさりコツを掴んだのだ。イケメンナイツはもちろん、他の騎士も訓練すればできるようになるかもしれない。


恋愛パートだって負けていない。

キョウヤ様とわかり合い始めてきたし、ロック様にも気に入られつつあると思う。

ジル様も最初の恐さがなくなってきた気がするし、アッシュとはもう友達と言ってもいい。

双子とも仲良くできているし、オズワルド様の印象も悪くないはず。


その他だって充実してきた。

マリーとの仲も深めつつある。

最近はレオナさんやユリさんともお知り合いになれた。


ちょっとずつだけど状況は良くなってきている。

だいぶ重い役目を持っているけれど、せっかく得られた第二の人生。

私は絶対に幸せになってみせる。


おやすみ!

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