謎の強襲
アッシュとレオナさんが盾になるように私を囲む。
キョウヤ様は手すりから身を乗り出して一階の様子を確認する。
「なにごとですか?」
「ここからではわからないが、座り込んでしまっているご婦人がいる」
アッシュの問いにキョウヤ様が答える。
聞いた限りだと、単にその人が転んでしまっただけのようだった。
でも、嫌な予感が私の中から消えない。
「なにか来るぞ!」
キョウヤ様がそう叫ぶと、悲鳴が連続して聞こえてきた。
キョウヤ様が階段へ一瞬で跳躍する。
ガキーーーン!
鉄同士が強くぶつかった音が響く。
いつの間にか剣を抜いていたキョウヤ様が衝撃で一歩よろめく。
攻撃してきたのは真っ黒なサメのような魔物で、大きさは人間よりも一回り大きい。
キョウヤ様に空中へ弾かれたサメが階段に落ちる。
それをキョウヤ様が追うが、階段を下りる前に立ち止まる。
「影に気を付けろ!魔物は影の中へ消えていった!」
影の中に?なんかクノイチみたいだな。
じゃなくてこれは文字通り、水の中へ潜るが如く魔物は影の中へ入っていったのだろう。
空飛ぶクモと蜂人間、幻覚使いのトカゲに続き、今度は影を泳ぐサメ。
ゲームプレイ中は魔物になんて1ミリも興味を持たなかったけれど、結構個性的だなと思ってしまった。
背中の方がチリっと何かを感じる。
振り返ってみると魔物が私を目掛けて飛びかかって来ていた。
「でやっ!」
レオナさんが魔物に回し蹴りを浴びせる。
しかし、かなりの重量があったようでダメージは無く、軌道が逸れて私の斜め上を通過しただけだった。
そして、あきらかに魔物よりも小さい影の中へ溶けるように消えていく。
「アッシュ、国王様たちの避難を!私がセツナ様を守る」
「おう!」
アッシュが国王様の所へとんで行き、魔物がどこから攻撃してきてもいいように警戒しながら皆を会場から避難させる。
さきほどの攻撃で狙いは私だと判断したのだろう。戦うにしても逃げるにしても他の人達を逃がしてから方が得策だと考えたようだ。
国王様たちに何かあってはいけないし、私も戦えないわけではない。良い判断だと私は思った。
私も席を立つとテーブルの上に乗った。
それに気が付いたレオナさんも同じようにテーブルに乗り、私と背中合わせになる。
これならよく見渡せる。真下以外は。
「飛んで!」
そう叫ぶと、私とレオナさんはテーブルから飛び降りた。
その瞬間、テーブルを突き破り大口を開けた魔物が現れる。
狙い通り!
「風遁の術:衝甲波」
忍術の突風が魔物を壁へと吹き飛ばす。
壁が軋む音がしたが、それほどダメージを与えられなかったようで、魔物は再び影の中へ潜る。
この前のトカゲのようにバリアを張っているわけではないが、今度は相当タフネスのようだった。
攻撃し続ければ倒せそうだが、どこから攻撃されるかわからない恐怖が精神を削っていき、長期戦は不利になる気がする。
それに、逃げられたかどうかもわかりづらいのが地味にきつい。
次の攻撃に備えながら、私は魔物について考察する。
狙いは私であり、二階へ上がる前に感じた違和感が魔物のものなら色々とおかしい。
まず、演説後に攻撃してきたことを考えると、その時までどれが私なのかわかっていなかったことになる。
さらに、攻撃してきたのが明かりを消していた演説中でなかった上に、わざわざ一階で姿を晒している。
もし私が魔物なら、演説中に奇襲する。
「セツナ様、お怪我はありませんか?」
影を作りそうなものを蹴散らしながら、キョウヤ様が駆けつけてくれる。
「大丈夫です。キョウヤ様も気を付けてください」
レオナさんと、避難誘導を終えたアッシュも戻って来て四人で背中合わせになる。
「ねぇ、この魔物のやり方おかしくない?」
アッシュが言う。
おそらく私と同じ疑問を持ったのだろう。
「そうだね。何かアクシデントがあったのかも」
レオナさんがそう答える。
「キョウヤ様、最初に悲鳴を上げた人に変わった様子はありませんでしたか?」
アクシデントがあったとしたらそれは最初の悲鳴があった時。
私はキョウヤ様に聞いてみる。
「そうですね。数人の子供と一緒にいて、テーブルが倒れていて…、そういえば魔法の明かりが多く見えたような…」
「多くの明かり…」
「眩しかったとか?」
アッシュのつぶやきで私はピンときた。
「もしかして、強い光が苦手だとか?」
演説中の間、私はずっとスポットライトを浴びていたから近づけなかった。
そして、婦人が魔法の明かりを集めて子供をあやしていたら、偶然近くに潜んでいた魔物が耐えられなくなって出てきてしまった。
「なるほど、いかにも影のモノって感じですね」
レオナさんが私の仮説に納得してくれる。
「じゃあ、ずっと潜んでいた理由は?」
「それは単純にセツナ様がわからなかったからじゃないだろうか。
目があるように見えなかったから、おそらく外見で判断することができない。
ただ、サメに似た見た目から判断するに他の感覚器官は優れていそうだ。
セツナ様を認識できれば、後は嗅覚や聴覚で追うことができた」
アッシュの二つ目の疑問にキョウヤ様が憶測を答える。
なるほど、たしかにテレビか何かで聞いたことがある話だ。
「無理に接近する必要はなく、後からゆっくり匂いなどを辿って寝込みを襲えばよかった。
アクシデントがなかったら危なかったですね」
「えー…、セツナちゃん怖いことをさらっと言うね」
「これが神のご加護、聖なる巫女の天運ということで」
レオナさんが前向きな結論でしめてくれる。
「…攻撃してこないですね」
しばらく警戒を続けているが、一向に攻めてこない。
「逃げたとか?」
「可能性はあるが、状況を判断できる能力があるならアクシデントの時点で撤退していてもおかしくない。愚直に機会を伺っていると考えるべきだ」
キョウヤ様の意見に私も同意する。
かと言って、このまま待っていてもジリ貧だ。なにか打つ手はないだろうか?
私は辺りを見渡して、天井を見え上げてみる。
「キョウヤ様、あの魔法の明かりってどういう原理なのですか?」
「原理ですか?」
「はい、何かに使えないかなと思いまして。あれのおかげで魔物に気が付けたわけですから」
「あれは電気による発光を魔法で実現していまして、術式を使って人にぶつからないようになっています」
「えっ?じゃあどうやってあの人は集めたんです?」
「たぶんですが、魔術関係者だったのではないでしょうか?
あれの術式は簡単なため、知識があれば誰でも操作できます」
それを聞いて、私にアイデアが生まれる。
「ではキョウヤ様、こんなことってできませんか?」
私は三人にそのアイデアを伝える。
「セツナ様…、そんなことができるのですか?」
レオナさんはまだ忍術を見たことがないので驚いている。
「いいじゃん。一発勝負だけど、やる価値あると思うよ」
アッシュも同じく見たことがないはずなんだけど、特にリアクションはなかった。
「たしかにできそうですが…、まったく、あなたという人は」
三回目の戦闘ともなるとキョウヤ様も私に慣れてきてくれたようだ。
あきれたような感じで言われてしまったが、声はむしろ笑ってくれていた。
「それじゃあ、いきましょう」
私がそう合図すると、全員で二階席の手すりを超えてジャンプする。
アッシュとレオナさんはすでに避難を終えていた一階に着地。
私とキョウヤ様はあの大きなシャンデリアの上へ。
キョウヤ様の跳躍ではギリギリ届かず、私が肩を貸す。
「風遁の術:八艘飛び」
キョウヤ様を担いで空中を跳ね、シャンデリアの上に乗る。
「すみませんセツナ様」
「いいんです。それよりも術式を」
「はい」
キョウヤ様が両手を上にかざす。
手の平から魔法陣が浮かび上がり、それが天井の半分くらいまで広がっていく。
「セツナ様、ここまでが限界です」
「わかりました。では、お願いします」
キョウヤ様が魔法陣に向かって詠唱する。
すると、流れ星のように流れていた魔法の明かりの動きが変わっていく。
「お願いします!」
キョウヤ様の合図で私はドレスを脱ぎ捨てて、天井へ飛ぶ。
「えっ!?」
キョウヤ様が驚愕されている声が聞こえた気がしたが、今は気にしないことにする。
今の私は下着姿といえばそうなのだが、ユリさんが用意してくれたこの格好ならそんなに恥ずかしくない…はず。
すべてをできる限りシンプルなデザインに統一。
色は間に合わなくてまだ下着っぽいけど…。
普通のスカートっぽく見えるぺチパンツ。
胸を覆い隠せる見せブラのようなブラジャー。
胸下を切り替えられるワンピースのように見せかけるコルセット。
動きやすく、可能な限り恥じらいに配慮したこの新しい衣装で。
私は氣を使って天井の上に立つ。




