パーティー会場にて
豪華絢爛。
私の頭の中で最初に浮かんだ言葉がそれだった。
どうやって釣り下がっているのか気になるほど大きなシャンデリア。
ウォールランプやカーテンの素材は素人目にも高級品であるのが明らか。
優雅な音楽は常に生演奏されていて、純白のテーブルの上には金銀の皿が並び、その上には一口サイズの軽食からがっつり食べたいお肉料理まで様々。
参加者は貴族というだけあってみんな豪華な衣装をお召しになっている。
ウェイターやウェイトレスも洗礼されていてかっこいい。控えめに言って好き。
そんな光景が飛び込んできたのは、アッシュとレオナさんに扉を開けてもらった瞬間である。
お城の中も十分きらびやかであったが、パーティーというだけあってワンランク上がっている。
場所はお城の中のパーティーホールなので一度は目にしているはずなのだが、まったくの別世界。
正直、まぶしすぎて入っていけない。
「どうぞこちらへ」
レオナさんに手を差し出してもらい、なんとか第一歩を踏み出す。
扉の近くにいた人たちが私に視線を向けるが、特に何もなかった。
なんの説明もなければ私なんて誰かの娘さん?くらいにしか見えないだろう。
想像を遥かに超えた世界にどぎまぎしてしまっているので今はその方がいい。
できれば端っこを歩きたかったが、二人は真ん中を堂々と突き進む。
すれ違う人みんなに見られている気がして、すっごく恥ずかしい。
ユリさんにすごく頑張ってもらったドレスだけど、これで本当によかったのかわからなくなってくる。
視線を下げて歩いていると、蛍のような光が私の前を横切った。
「なにあれ?」
目で追いながら二人に聞いてみる。
「あれは会場を雰囲気を良くするための魔法で、飾り付けのようなものです」
レオナさんに説明してもらい、少し見渡してみる。
たしかに、ちらほらと飛んでいて色も様々だ。
見上げてみると天井の方にはもっとたくさん飛んでいて、まるで七色の流星群のようだった。
けっこう魔法を見てきたつもりだが、今のところこれが一番感動した気がした。
会場の真ん中くらいにあるテーブルまで来る。
「しばらくしたら国王様から紹介されることになるのですが、それまでは会場の雰囲気と食事を楽しんでくださいとのことです」
レオナさんがそう言いながら、手際よく食事をお皿に持ってくれる。
「そうした方がセツナちゃんもやりやすいだろうってキョウヤさんが提案してくれたらしいよ」
アッシュがグラスを手渡してくれる。
「キョウヤ様が?」
「おう、あの人にしてはめずらしい事をしたよな。
なにかあったのセツナちゃん?」
それが本当ならうれしい。
気遣いというより、私という人間を少しわかってもらえた気がしてくる。
「あ、ありがとぅ」
「ん?それは俺に言った?それともキョウヤさん?」
ぽぉとした頭でつい感情を言葉にしてしまった。
しかもアッシュには完全に見透かされている。
「セツナ様、どうぞ食べてみてください」
アッシュのにやけ顔を真っ赤になって見返している私に、レオナさんが食事を差し出してくれる。
私はその中から一口で食べられそうなお肉料理を選んで口に運んだ。
「おいしぃ…」
ゴールグで食べたごはんをうまいと表現するなら、こっちのごはんは美味である。
複雑でどうおいしいのか説明できないけれど、奥深い味とはこういうことをいうのかと初めて知った。
まずは滑らかな舌触りから始まり、柔らかい触感としっとりしたソースが噛んでいて心地よく、そして次第に肉汁とソースが混ざり合って味を変え、飲み込んだ後に少しだけ余韻を残す。
一息ついた頃には頭の中はこの料理一色になっていて、緊張なぞはとうに消え去っていた。
すかさず別の料理に手をつける。
今度はアスパラガスのような野菜。筋っぽさや青臭さは一切無く、良い感じに焼かれた表面とみずみずしい中身のバランスが絶妙。こんなにはっきり甘いと感じたことはなく、高級かつ新鮮であることが伺える。
と、止まらない。
おいしいおいしいと子供のような感想を言いながら次々と食べていき、レオナさんが持っていたお皿を空にしてしまった。
「いい食べっぷりだね」
アッシュの笑い声で我に返る。
「緊張もほぐれてきたようですし、大丈夫そうですね」
レオナさんも笑っている。
はぅ…レディへの道はまだまだ遠そうだ。
「レオナさんは食べないんですか?」
「私たちは仕事ですから。その場に合わせることはありますが、基本的には食べないです。
気を使わせてしまうかもしれませんが、どうかお気になさらず」
やさしい…そしてかっこいい。
こっそり飲み食いしているアッシュとはえらい違いである。本当に同期なのだろうか?
いろいろお恥ずかしい姿を見せてしまったが、とりあえず平常心を取り戻してきた。
周りをゆっくり見渡す余裕もある。
なんとなく聞き耳を立ててみると、仕事の話や子供の話が聞こえてくる。
至って普通な話題。
あたり前といえばあたり前なのだが、貴族も同じ人間。環境が違うだけで興味関心は庶民とあまり変わらないのかもしれない。
さらによく観察してみれば、叩き込まれたマナーの中にもその人の手癖のようなものも見えてくる。
そういった発見がちょっと面白くなってきた。
「ん?」
変な遊びをしていると、会場の中になにか違和感を感じた。
「どうかしましたか?」
「喉に詰まったのか?そんなにがっつくから…」
アッシュを無視して、心配させてしまったレオナさんになんでもないですと答えていると、その違和感は消えていた。
気のせいだったのだろうか?
でも、クノイチの勘が警戒しろと訴えかけてくる。
再度その違和感を探そうとすると、照明が少しずつ消えていき、それに合わせて演奏も小さくなっていった。
会場が少しざわつき始めると、会場の二階席だけぱっと明るくなる。
そこには国王様がいて、こちらに向かって手をかざしていた。
「みな、楽しんでくれているかな。
食糧難が心配される中での開催なので食事は少々控えめになっているがー…」
から始まり、国王様が色々とみんなの前で話を続ける。
えー、これで控えめだったの?
昔はこれよりも豪華だったってこと?それともただの見栄?
っていうか今のところごはんに困ったことがないからその設定を忘れがちになる。
「…となにかと暗い話が多いが、今日はみなに明るい話も用意している」
ぱっと私に光が集まってくる。
それにつられてみんなの視線が一気に私に集まってきた。
な、なに?
思わず体を強張らせてしまう。
「予言書に記されていた聖なる巫女が参られたことを知っているだろう。
彼女こそ、我らに救いの手を差し伸べてくれる聖なる巫女である!」
国王様が高らかにそう言った。
しかし、歓声は上がらず少しざわざわする程度。
気まずい空気を感じずにはいられない。
それもそのはず、もう一度言おう。私を見たって誰かの娘さん?くらいにしか見えない。
見た目的にまだ少女だし、身なりも別にそれっぽくない。
しかも普通に参加していて食事をしている。
そんな女子がライトアップされたからといって素直に聖なる巫女だと認められるだろうか?
私だったらできない。
この反応には国王様も予想外だったようで、あきらかに動揺が見て取れる。
「では聖なる巫女よ。こちらへ来てくだされ」
焦る国王様に言われ、アッシュとレオナさんに先導されながら国王様の元へ向かう。
どうするのよこの空気?
と思いながら本来だったらどうあるべきだったか考えてみる。
本当だったら国王様の後ろで待機していて、合図と同時に後ろから現れて、マリーも納得のドレスを着て…って、あれ?そもそもドレスからして間違いだったのでは?
聖なる巫女なのだから、巫女らしい格好をしていた方がよかったのではないか?
どこでこんなことになった?最初からドレスを着ることになっていたけれど…。
私はゲームの序盤を思い起こしてみる。
主人公はある時を境に巫女の衣装を着るようになる。それがいつだったか?
はっ!そうだ思い出した。今まさにこの時だ。
ドレス選びの最中に巫女の衣装を見つけ、なんやかんやあってそれを着ることになったんだ。
それなのに、私はすぐ脱げるドレスとかよくわからない注文をつけ、ユリさんおすすめのドレスに決めてしまった。
そうか、本来だったら私も衣裳部屋の奥へ行くべきだったのかもしれない。
しかも、ゲームには無かったキョウヤ様の気遣いが裏目に出てしまっている。
…いや、これは国王様の考えが浅かったということにしよう。そう思いたくはないが。
とりあえず、起こってしまった事はしかたない。
ではこれからどうするか?
私はこれからみんなの前で何かを話さなければならないだろう。
ゲームの主人公が何を話したかなんて覚えていない。もしかしたらそんなシーンは無かったかもしれない。
となると、私は私の言葉でしゃべらなくてはならない。
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