ドレス選び
貴族のパーティーの前日。
私はパーティーに着ていくドレスの試着をさせられている。
普段着せてもらっているドレスも十分オシャレなのに、パーティー用はさらに豪華だった。
それが何着もあって、一番気に入ったものを選ぶ。
最初こそ楽しかったけれど、時間が経つにつれて何がいいのかわからなくなってくる。
色とか見た目の好みがあっても、結局どれも素敵なんだもん。
もうこの際誰か決めてよ。と思うのだけど言いにくい。
なぜなら私以上にマリーが真剣になっているから。
いったい何着あるのか?スタイリストさん的な人がさらにもう一着持ってくる。
「こちらもいかがでしょうか?」
そう言いながら私の前に持ってきて軽く合わせる。
これもいいですね。なんて同じようなことを何回言っただろうか?
いい加減きっぱり決めた方が良さそうだ。
「それにしても巫女様ってスタイルがお綺麗ですね」
ふいにスタイリストさんが言う。
「へっ?」
そんなことを言われたのは初めてだったのでびっくりする。
「あっ、申し訳ありません。差し出がましい事を…」
「いえ、いいんです。ありがとうございます。
その、自分ではわからないのですけれど、本当にいいんですか?」
試着にうんざりしているのを察したリップサービスである可能性が極めて高かったが、もう少しだけほしくなる。
「はい!まんべんなく鍛えられていてバランスがとても良く、コルセットなんていらないくらいです」
おっ、なんか楽しそうに褒めてくれる。
これはお世辞ではないな。素直にうれしい気持ちになる。
クノイチの訓練のおかげかな?
モデル体型とはいかないけれど、余分な物をそぎ落とし必要な物だけを残した機能美を私は持っているのかもしれない。なんてね。
「そうだ、今更で申し訳ないんですが、お名前はなんていうのですか?」
気分が良くなった私はスタイリストさんに名前を聞く。
「ユリ=フォクシーと申します」
「改めてよろしくお願いしますユリさん、私のこともぜひセツナと呼んでください」
レオナさんに続いて女子の知り合いがまた増えた。
イケメンに囲まれるのもいいけれど、心を落ち着けられるのはやはり同性同士である。
自己紹介もほどほどに再びドレスを試着を始める。
うん、これもいい感じ。
しかし、この動きにくさはどうにかならないものなのだろうか?
見た目に特化させたそういうものと言われてしまえばその通りなのだが、いつでも動けるようにしておきたいクノイチとしては一つ不安を抱えた状態になる。
ドレスに慣れてきていると思う反面、同時にクノイチとしての感度が下がっている危機感を覚えなくもない。
いざとなればドレスを脱ぎ捨てる覚悟をしているつもりだけど、本当にできるだろうか?
「ユリさん、一つ聞いてみてもいいですか?」
「なんでしょうか?」
「えーとですね…変なことを言いますけど、すぐに脱げるドレスとか、下着っぽくない下着とかってありませんか?」
「下着っぽくない下着…ですか?」
案の定ユリさんに苦笑いされてしまう。
けれど私としては案外真面目に聞いている。
「この前のように魔物がいつ攻めて来るかわかりません。
聖なる巫女として?いざという時、すぐに戦える格好になりたいと思っているのですがー…」
「セツナ様も…魔物と戦われているのですか?」
「は、はい」
まぁそういう反応になりますよね…。
「申し訳ありません。そういった物のご用意はありません」
「あはは…そうですよね」
「…ですが」
私にドレスを着せ終えたユリさんが私の前に立った。
「よろしければ私に作らせていただけませんか?」
思ってもみなかった申し出が返ってくる。
「そんなことできるんですか?」
「セツナ様のご希望に応える物が作れるかはわかりませんが、ぜひやらせていただけませんか?」
ユリさんから情熱のようなものを感じる。
「えーと、それって仕事の依頼みたいになるのかな?
そんなことできるのマリー?」
試着を見守っていたマリーに問いかける。
「ユリ様はお忙しい方なので難しい事だと思いますが、セツナ様からのお願いであればもしかしたら」
聖なる巫女特権を使えばできそう。というのがマリーの回答だった。
いいのかなー?ちょっと申し訳ない感がある。
「仕事の調整はこちらでやります。
そうですね…。下着の件は明日までに試作を用意致します。それを見て判断していただけませんか?」
「ちょっと待ってください。やっていただけるのは私もうれしいんですけど、その…なにかアイデアがあるのですか?」
「具体的な案はまだありません。ただ、前々からドレスにかかる時間を短縮したいと考えていました。
セツナ様のご希望を叶えつつ、私の理想にも近づけるのではないかと考えています」
要するに、私のほしい物とユリさんが作りたい物が近いからチャレンジしたいということのようだ。
「でも、下着に関してはそんなに関係ないのかなと思うのですが?」
「たしかにそうですけれど、"下着っぽくない"はもしかしたらそのうち下着ではなくなるかもしれません。そうなれば着替えの短縮に繫がるかもしれない。服とは生活と共に変化していくのです」
なんかすごくそれっぽいことを言っている気がするが、私には難しい。
ともあれ、ユリさんの熱い思いは本物のようなのでお願いすることにした。
今後のことを考えれば私としてもありがたい。
「ではお願いできますか?えーと、私はどうしたらいいでしょう?」
発注書でも書くのかな?
「それでしたら、この後私がユリ様と一緒に手続きを致します」
「そう?じゃあお願いするわねマリー」
勝手なお願いをしたような気がしなくもないけれど、よしとしましょう。
「それでは試着の続きを致しましょうか」
ユリさんが次のドレスを取りに奥の部屋へ行く。
次で決めようと思っていると、ユリさんが今までのドレスとはちょっと違うタイプのものを持ってきてくれた。
今までのゴージャスなドレスと違いシンプルな作り。
全体的に少し伸縮性がありそうで、スカートが若干短めになっていて足が出しやすそう。
「これって」
「はい、実はこっそり作っていたドレスです。まだ調整が必要ですが、今一番セツナ様のご希望に応えられそうなのはこれだと思いまして」
ユリさんがそのドレスをそっと合わせてくれる。
今までのはなんだったのか?と思えるくらいしっくりくる。
やっぱり私はこの路線なんだな。とちょっと笑えてくる。
「あとは邪魔にならないように飾りを増やして、パーティー向けに仕上げていきましょう」
「はい!これがいいと思います。ありがとうございます」
ようやくいいのが見つかって私のテンションが少し上がる。
「マリーもこれがいいよね?」
と言いながら振り返ってみる。
「…はい、よくお似合いだと思います」
あっ、マリーは不服なようだ。
笑顔でいてくれているが、それじゃない感が漏れている。
マリーって結構こだわりが強いんだな。
できればマリーも気に入ったものを着たかったけれど、これを出されてしまっては他のドレスを着る気になれない。
ごめん、マリー。普段をもっとちゃんとするから。
着る物が決まり、ようやく解放された時には陽が沈んでいた。
半日がかりだった。
貴族は貴族で苦労があるんだなと思う今日この頃。
残された時間をまったりと過ごし、私は貴族のパーティーに参加する日を迎えた。




