貴族のパーティー
双子と楽しくお昼ごはんを食べた後、国王様との面会まで外でのんびりさせてもらった。
その後、一回自室に戻ってドレスに汚れが無いかなどをチェックから玉座へ向かう。
今日はそんなに人がおらず、国王様と側近と数人の貴族のみ。
仰々しい感じがなかったので、私は少し安心した。
その奥にアッシュの姿を見つける。
軽く笑顔を向けてくれたが、今は立派な騎士として佇んでいる。
私とマリーが国王様に挨拶すると、まずは魔物討伐のお礼を言ってくれた。
私が帰って来てすぐに言いたかったそうだが、国王様も色々と忙しいらしい。
椅子にふんぞり返っているだけの存在には見えないので、きっと国のために日々働いているのだろう。
ゴールグについて少し雑談をした後、国王様が本題に入った。
それを聞いた私は、驚きつつもついにこの時が来たかと思った。
「私が貴族のパーティーに?」
「そうです。聖なる巫女には気苦労をおかけすることになりますが、皆にそのお顔を見せて差し上げてくれませんか?聖なる巫女の存在は王国中に行き届いていますが、魔物や食糧難で神経をすり減らす日々、その存在を実際に目にすることで少しでも勇気を与えてほしいのです」
おー…、私の存在だけでみんなを元気にできると?
本当かな?なんかがっかりされるイメージしか湧かないんだけど。自信無いなー。
っていうか、それじゃご馳走を楽しめないじゃん!
私の期待はあっさり砕かれた。
「何か気になる事がありましたか?」
がっかりした気持ちが表に出てしまい、国王様に心配させてしまった。
「そ、そんなことありません。
私なんかでよければ、いくらでも顔を出します」
断る理由も無いので私は承諾する。
ちょっとくらいならご馳走をいただけるかもしれないし。
「ありがとうございます。パーティーは二日後を予定しています。
どうか聖なる巫女も楽しんでいってください」
「はい、楽しみにしています」
まぁ、役割が無かったとしても初めてのパーティーを楽しむのは難しかったかもしれない。
だって作法とかさっぱりだし、もしかしたらダンスとか申し込まれるのかもしれない。
それなら今回のパーティーは偵察ということで割り切るのもありだろう。
「では、パーティーの際に聖なる巫女様の護衛を任せる者を紹介致します」
側近がそう言うと、護衛なる者をこちらへ呼んだ。
まずやって来たのはアッシュ。だからこの場にいたのか。
「巫女様。アッシュ=デュオロンと申します。この身に変えてかならずお守り致します」
アッシュが胸に手を当てて丁寧に頭を下げる。
いつもの気軽な感じとは打って変わり、しっかりとした騎士の振る舞い。
そのギャップにちょっとだけキュンとする。
そしてもう一人やって来て、同じように挨拶してくれる。
「レオナ=ブルーハリーと申します」
少し意外だったのがその人が女の人であったこと。
ショートカットでさっぱりした髪型だったが、女性らしくオシャレにスタイリングされていて、紺色の髪と目の色がとても似合っている。
タイトなスカートとスーツのような上着をパリッと着こなしていて、美しかっこいい。
そういえば、昨日マリーがそういう女性がいることを話してくれていたな。
まさかこんな綺麗な人だったとは、ますます興味が湧いてくる。
「では今日はこの辺で、聖なる巫女様もありがとうございました」
挨拶も済ませたことだしこの場を終わらせようとする側近。
「あの、すみません」
私はそれをちょっと待ってもらう。
「なんでしょうか?」
「もし護衛の二人に時間があったらでよいのですが、少しお話をする機会をいただけないでしょうか?
パーティーの間一緒にいるわけですし、少しだけでも打ち解けたいといいますか…」
「ほぉ」
感心してくれたような反応を国王様がくれる。
「聖なる巫女からそのような提案があったが、二人はどうだ?」
国王様が護衛二人に問う。
「聖なる巫女様とお話する機会をいただけるのでしたら、私は歓迎致します」
アッシュはすぐにそう答えた。
「私も構いません」
レオナさんも承諾してくれたが、少し距離を感じる。
仕事一本の厳しい人のイメージ。
護衛二人から承諾をもらえたということで、急遽会談の場を設けてもらった。
ちゃんとした応接間に案内され、ティーセットが運ばれてくる。
マリーが三人に紅茶を用意してくれて、私の後ろに待機した。
振り子時計の音がよく聞こえるくらい応接間は静かである。
か、固い。
アッシュがいるからつい油断してしまった。
私も含めてこれは仕事上の流れでこうなっている。
お菓子を囲んで気軽に会話なんて甘過ぎた。
どうしよう…。アッシュも仕事モードだし、どうしたらいいかわからない。
若干泣きそうになりながら、アッシュの方を見てみる。
今までと違い凛々しい顔で笑い返してくる。
ほしいのはそれじゃないんだけどなー…、とほほ。
「くっ…くくく」
私が一人しょげていると、笑いを堪える声が聞こえてくる。
声の方に目を向けると、アッシュが震えていた。
「セツナちゃん安心して、もう気を抜いても大丈夫だから」
アッシュはわざと仕事モードを継続して私をからかっていた事がわかり、自分の顔が赤くなっていく。
怒りたかったがうまく言葉にできなかった。
「アッシュ、そのくらいにしておけ」
レオナさんがアッシュを窘める。
「申し訳ありませんセツナ様。アッシュとは顔見知りだと聞いていたのでこの場を任せてみたら、このようなことに…」
ずっと難しい顔をしていたレオナさんがふっと笑ってくれる。
その緩急は女子の私でもやられてしまいそうだった。
「姉さんも少し乗っていたでしょ?」
「さて、なんのことだ?」
二人は親しげに話を始める。
「えっ?お姉さん?」
「あー、姉弟じゃないよ。同期だけど俺より一つ上だからそう呼ばせてもらっているだけ」
「失礼な奴でしょ?セツナ様」
えー…、なんかすごく羨ましいんですけどその感じ。
私もいつかマリーとそういう仲になってやる。
「私のことはレオナと呼んでください」
レオナさんから改めて自己紹介をされる。
「よろしくお願いしますレオナさん。
実は、レオナさんとお話してみたくてこんなお願いをしてしまいました」
「私と?」
「俺はー?」
「あー、アッシュも無くはない」
「そんなに怒らないでよー、ごめんて」
一気に楽しい空間になった。
悔しいけど、さっきの件はこれでチャラにしよう。
「ちょっとだけですがレオナさんみたいな女の人を聞きまして、どんなことをしているのか知りたかったんです」
「とても光栄ですが、どうして私のような職業のことを?」
「それはですねー…、私もここへ来る前は似たようなことをしていたと言いますか」
「あっ、俺はそれに興味ある」
「それはまた今度ね」
アッシュははーいと言いながら乗り出していた身を引いて、紅茶を飲み始めた。
「そうですか、ではお話しできる範囲で。
私は主に貴族の女性を護衛することを任務としています。
男性だと一緒に行きにくい場所もありますし、護衛する方も気が楽でしょうから」
「なるほど、どうしてそういうお仕事についたのですか?」
「父は格闘技の師範をしていて、私は生まれてからずっと訓練を受けてきました。
父のように教える立場もよかったのですが、それよりも誰かを助けられるようになりたいと思い、兵士に志願したのが経緯です」
「えっ?最初は兵士だったんですか?」
「いいえ、女性の兵士がいないことは知っていたので。受けるだけ受けてみただけになります。
ですが、そうしたら私の実力を認めてくれた人がいまして、この仕事に推薦してくれました」
うわー、素敵な話だなー。
なんか憧れる。自分に正直に生きて、自分を活かせる場所を見つけて、まるで主人公みたい。
そうなってくると次に気になって来るのはやはり恋愛。
レオナさん美人だし、職場はきっと男だらけだからモテるだろうなー。
などと考えてレオナさんに質問しようとしたが、照れてしまってうまく聞けない。
初対面で失礼っていうのもあるけれど、すぐそっちへいってしまう自分を子供っぽく思ってしまった。
でも気になる。特にレオナさんを認めてくれた人のこととか。
「セツナ様、お茶のおかわりを取って参ります」
マリーが一礼して応接間を出て行った。
レオナさんへの質問がまだ途中だったが、この機会を逃すわけにはいかない。
私は一旦気を取り直して話題を変える。
「すみません、急に話が変わってしまいますがアッシュにお願いがあるの」
「俺に?」
アッシュが自分を指さす。
私はマリーの誕生日会を開きたいことと、そのための食べ物を用意したいことを説明した。
「いいじゃんそれ、そういうことなら全部任せてよ」
「全部?いいの?」
「おう、その代わり俺も混ぜてよ。二人っきりでやりたいなら話は別だけど」
そういえば誕生会のメンバーを考えていなかった。二人でやるより大勢の方がいいかな?
アッシュなら歳も近いし親しみやすい。
プレゼントを手伝ってくれるアルフレッドとマルグリットも招待したら来るかな?
「姉さんもどう?女子が多い方がいいでしょ。俺も歓迎だし」
「お前が勝手に仕切るな」
「いえ、レオナさんも良ければ参加してくれませんか?
大勢の方がサプライズ感があっていいと思うんです」
「私も?」
レオナさんがうーむと考える。
「そうですね、喜んで参加させていただきます。
ここへ来てからあまりそういうことができていませんし楽しそうです。
ただ、任務が入る場合がありますのでその時はすみません」
レオナさんも快く参加してくれることになった。
いい人である。私もお姉さんと呼びたくなってきた。
マリーが戻って来ると、自然と何事もなかったように普通の雑談に切り替わる。
そこらへんの気遣いもさすがである。
こうして私はマリーの誕生会の準備を着々と進めている。
あとはプレゼントのデザインを決めて、日時を定めるのみ。




