聖なる巫女について
「セツナ様、今日は神官であるオズワルド=コーハン様にお会いしていただくことになっております」
キョウヤ様とロック様に氣を教えた翌朝。
目を覚まして上体を起こした私にマリーがそう告げた。
オズワルド。その名前には聞き覚えがあった。
何を隠そうイケメンナイツ唯一のロマンスグレー。
黒髪オールバックで丸眼鏡をかえ、すらっとした長身のおじさんキャラ。
低音の渋声でゆっくり語られるセリフは心地よ過ぎて首筋をぞくぞくさせる。
あまり私好みではないけれど、こんな執事がいたらーなんて妄想したものだ。
「それって、聖なる巫女として初めての行事?」
「そうなるのでしょうか?魔物討伐がどう分類されるのかはわかりませんが…」
そっか、あれも聖なる巫女として派遣されたんだった。
クノイチとして解決してしまったからその認識が無くなっていた。
「まっ、いいか」
急ぎではなかったのでゆっくりと準備をさせてもらい、私とマリーはオズワルド様がいる神殿へ赴いた。
神殿はお城の裏手にあり、至る所に彫刻が彫られた豪勢な建物だった。
大理石ってものでできているのか、建物内は一面きれいで真っ白な床と天井まで届くステンドグラス、一番奥には大きな女神像があり、その正面に教壇がある。
ハイヒールの足音がよく響き、大声を出して反響させたくなる。
教壇の方をよく見ると、近くの椅子に座っている男性が見えた。
頭は下を向き、本か何かを読んでいるように見える。
ちょっと緊張してきたな。
国王様と会った時はまだどこか夢心地で何も考えられていなかったけれど、ちゃんと心の準備をして聖なる巫女として誰かと会うのは初めてな気がする。
私たちがある程度近くまで来ると、オズワルド様がゆっくりと立ち上がってこちらを向く。
お、大きい…。身長だけだったらロック様よりありそう。
「お待たせ致しましたオズワルド様。セツナ様をお連れして参りました」
マリーがすっと頭を下げる。
「ありがとう。セツナ様もご足労いただきありがとうございます」
イケボで丁寧な話し方。
ジル様とは別方面でちょっと近寄りがたい見た目をしているが、今の一言でいい人なのが丸わかりだった。
聖職者の黒い衣装も着こなされていて、まさにベテランの風格。
「お初にお目にかかります。セツナ=モチヅキといいます」
雰囲気に流されて、私も心なしか口調がゆっくりになる。
「オズワルド=コーハンと申します。
これから定期的にお会いすることになると思います。どうぞよろしくお願いします」
「こ、こちらこそよろしくお願い致します」
うひゃー大人だー…。
「お二人とも、こちらにお座りください」
真ん中の通路を挟みオズワルド様が座っていた椅子とは反対側に私たちは座る。
それを見届けるとオズワルド様は教壇に立った。
「今日は、セツナ様が聖なる巫女についてどのくらいご存じなのかを確認させていただきたいと思っています」
「聖なる巫女…についてですか?」
「はい、聖なる巫女はこことは別の世界から現れるとされていました。
別の世界ということですから、そちらではまったく違う役目を担っていたかもしれません。
セツナ様、まずは別の世界からここへ来た自覚はありますか?」
「えっ…えと…」
まるで、突然期末試験でも始められたくらい頭がパニックを起こす。
何も言わずとも、今まで聖なる巫女ということだけでよくしてもらい、私もそれが当たり前になりつつあった。
本来だったらもっと早く行われる予定だったのだろうけど、魔物襲撃や魔物討伐が続いて延期になり、とりあえず世界を救うくらいの認識のままここまできている。
聖なる巫女としてやるべき事は考えていたけれど、聖なる巫女という存在については曖昧だった。
さらに相手が神官のオズワルド様であることも相まって、緊張感が急激に増していく。
「あります」
私は一呼吸おいてなんとか返事をする。
「そうでしたか。それでは向こうの世界での生活もあったことでしょう。当然こちらへお呼びしてしまい、誠に申し訳ないことをしました」
心から悔いているように私には見えた。
「気にしないでください。何と言っていいか…その、あちらでの役目はすでに終えていたといいますか…」
死んでしまっていたのでむしろ助かりました。とは言えなかった。
「お心遣いありがとうございます。
では、聖なる巫女である自覚はどのくらいありましたか?」
「すみません、なんとなくそうかな?って思っていたくらいです。あとはみんながそう言ってくるからで…」
「なるほど、そうなりますと具体的にこれからどうなさればよいかわからない状況といったところでしょうか?」
「そうなります。魔物を倒さなくてはいけないことがわかっているくらいで、あとは…」
ここがゲームと同じ世界で、ゲームのように光の魔法が必要なのであれば、私はイケメンナイツたちとの交流を深めなくてはならない。
ただ、それをオズワルド様に言った方がいいのかどうか?
黙ってしまった私を、オズワルド様は静かに見守っている。
少し悩んだ末、ゲームの事だけは伏せて私はわかっていることをすべてオズワルド様に話した。
うまく説明できたかわからないけれど、オズワルド様は静かに聞いてくれている。
「要するに、セツナ様との信頼を深め、聖なる巫女の力を高める存在がいる。
その者たちはこの王国に集っていて、すでに何人か見つけているということですか?」
「はい。ですが、どのようにしたらいいかまだわかっておらず、力がほとんど無い状態です」
ほとんどというかゼロなんだけど、これだけはそう言えなかった。
やっぱり心のどこかでまだ自分が聖なる巫女なのかどうか疑っていて、それを口にしてしまったらこの生活が終わってしまうと考えているのだと思う。
「お気になさらないでください。セツナ様をお支えするのが私たちの役割でもあります。
こうして打ち明けてくださったのです。かならずお力になってみせます」
浮かない顔をした私をオズワルド様が励ましてくれる。
たぶん力不足であることに責任を感じていると勘違いしたのだと思うけれど、ありがたい言葉だった。
「それでは最後にこの王国に伝わる聖なる巫女についての予言についてお話して、今日はおしまいとしましょう」
オズワルド様が聖なる巫女について予言書に書かれていたことを話してくれた。
言葉遣いが難しくて聞きにくかったけれど、なんとなく内容はわかった。
おそらくゲーム冒頭で流れる説明文とほぼ同じだからだと思う。聞いていてようやく思い出すレベルで忘れていたけれど。
「いかがでしたか?」
「少なくとも私の認識と合っていることはわかりました」
「それはよかったです。こちらもまだわからない事が多くありますが、これからも予言書や魔物について研究を重ねます。どうか、お力添えよろしくお願い致しますセツナ様」
「はい、こちらこそよろしくお願い致します」
ひとまずはお互い協力し合うことで合意した感じになった。
「あぁそういえば、予言書とは別にこんな言い伝えもありました。
"精霊石は救世主と共にある。絆がたしかなものになった時、その姿を現す"
救世主が聖なる巫女のことであれば、何か意味があるのだと思います」
私はその言葉を聞いてびっくりした。
それ、絶対意味あります。
だって精霊石って課金して買うアイテムのことだもん!
そうか、ゲームと同じ世界なら精霊石が存在するのも必然。
基本的には課金しないと手に入らないアイテムだけど、ちょっとずつなら手に入る。
その方法は、イケメンナイツの好感度を一定数上げて解禁されたイベントを見ること。
なんか意味深な感じで言い伝えられていたが、そういうことを言っている。
精霊石があれば普通だったらできないことができるようになるはず。
私が今までやろうとしていたことは間違っていなかったんだと確信に変わった。
思っていたよりも有意義な時間だった。オズワルド様とはもっと話す機会をもった方がいい。
何かを掴んだ私を見てオズワルド様が微笑む。
それに気づいた私も照れ笑いをした。
すると、パタパタと走る音が二つ聞こえてくる。
「お姉さん来ているんだってー?」
「もうお話終わったー?」
やって来たのはアルフレッドとマルグリット。錬金術師の双子である。




