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不気味な魔術

ゴールグでひと騒ぎ起こした日の翌日。

私はキョウヤ様とジル様と共に、魔物がいると言われている森へやって来た。


街と森の境界には柵が敷かれていて、普段は人が立ち入らないようになっていた。

街から少し離れた所の柵が一部取り払われていて、私たちはそこから森の中へ入っていく。


鳥の声も風の音も聞こえてこない静かな森で、私たちだけの足音が聞こえる。


「足元は大丈夫ですか?」


「はい、大丈夫です」


森を歩くのでドレスにハイヒールというわけにはいかず、私は街で調達された作業着を着ている。

普通の服なのにとても動きやすく感じる。いかにドレスが見た目重視なのかを痛感する。

ドレスから解放されたといっても過言ではない気分。


列をなしてしばらく歩いていくと、先頭を歩いていた兵士たちの足が止まる。

兵士たちはわき道に逸れて、私たちに道を譲る。

列の先頭まで来ると、目の前に少し開けた場所があった。


「ここがそうなのか?」


「そうだ」


キョウヤ様がジル様に何かを確認する。


「見ていろ」


ジル様が足元の枝を拾い、何かの魔法をかけて投げる。

すると、まるで枝が水面に落ちたかのように空間が波を打つ。


「これは…」


「不気味な魔術の正体は、魔法による結界だ。

この中は魔物にとって都合のいい世界になっている。常識など通用しない」


結界かー。

あまりよくわからないけど、すごそうだな。


「魔物を倒すには、この中に入るしかないのか?」


「結界の外に出てくるのを待ち伏せるという手もあるが、いつどこから出てくるのかわからなければ時間が無駄になる。それに結界を張れるとなると相当魔術に長けている。一度逃したら対処がさらに難しくなるだろう」


ジル様の意見としては、結界の中へ入り一回で魔物を倒すのがベストなようだ。

しかし、それは大変危険なことなのでキョウヤ様が私を心配そうな目で見る。


「行きましょうキョウヤ様。こうしている間にも被害が出ているかもしれません。

私は絶対にキョウヤ様から離れませんから」


あっ、今のはかなりヒロインぽいセリフだったかな?

ちょっとだけ照れくさくなる。


キョウヤ様はちょっとだけ考えると、兵士たちに指示を出す。


「これから魔物討伐を開始する。

第一部隊とジルに指名された者は私についてこい。それ以外はここの見張りと結界の解析を命ずる」


兵士たちが一斉に返事をすると、兵団が二つに分かれる。

一つはキョウヤ様の後ろに並び、もう一つは結界に入らないように散開する。


「ではいきましょうセツナ様」


キョウヤ様が私に手を差し伸べる。


「えっ?」


なに、この手…まさか?


「結界の中では何が起こるかわかりません。せめて入る時だけは手を」


「は、はい」


私がキョウヤ様の手をとると、しっかり握られる。

うぅ…、うれしい反面、ちょっと子供みたいで恥ずかしい。


「いくぞ」


ジル様が魔法でバリアみたいなものを身に纏うと、先陣を切って結界の中へ入っていく。

ジル様も同じように空間に沈んでいく。

それにキョウヤ様を続き、私と繋いでいる手だけを残して少し止まると、手を引かれて私も結界の中へ入っていく。

中に入ったようだが特に違和感は無く、結界の外の兵士たちも普通に見える。


「どうなんですか?」


魔法のことはわからないので、私はジル様に聞いてみる。


「今ので魔物に見つかったようだ。おかげで居場所がわかったがな。

ここから先は注意しろ」


入っただけで居場所がわかるとは、さすがジル様といったところ。

でもどうやってわかったんだろう?見つかったおかげと言っていたから逆探知みたいな感じかな?


「こっちだ」


ジル様が前へ進み始める。


「セツナ様は私の後ろへ」


私はキョウヤ様の背中にくっつくようについて歩く。

歩く速度は今までと変わらないが、みんなの緊張感が高まっている。

私もクノイチの勘が危険地帯だと告げていた。周りから監視されているようなプレッシャーを感じる。

袖に隠していたナイフを一つ手に持っておく。


どんどん歩いていくが、今のところ何もない。

それでも魔物のテリトリーに入っているので、警戒を怠ることができず少しずつだが疲労が溜まっていく。


「おい、何か聞こえないか?」


兵士の一人がそう言った。

みんなは立ち止まって耳を澄ませる。

しかしその一人以外は何も聞こえず顔を見合わせる。


「何か近づいてきて…なんだあれは!?」


その兵士が叫びながら指をさす。

やはりそこには何も無い。

けれど兵士は険しい顔で剣を抜くと、その場で振り回し始めた。


「何をやっている!やめろ!」


キョウヤ様が呼びかけるが、兵士は見えない何かと戦い続ける。


このままでは怪我人が出ると判断したキョウヤ様が、兵士の隙をつき手刀で気絶させる。

兵士が倒れかかったところをキョウヤ様が受け止める。


「ジル」


キョウヤ様に呼ばれ、ジル様が気絶した兵士の顔に手をかざす。


「魔法にかけられいる。おそらく幻覚を見せられたのだろう」


「幻覚か…、私たちは大丈夫なのか?」


すでに全員魔法にかけられていることを懸念したキョウヤ様が、ジル様に全員の確認を頼む。

魔術師たちがまず自分たちを確認して、近くにいる兵士たちも確認していく。

私とキョウヤ様はジル様に確認してもらった。


「他はかかっていないようだな。どうやら何か条件を満たすと幻覚にかかる結界のようだな」


ジル様が結界に関する見解の述べる。


「あの、幻覚だとわかる方法ってありますか?」


なんの前触れもなく幻覚を見せられては手の打ちようが無い。

せめて見分ける術はないのかと私はジル様に聞いた。


「幻覚魔法は相手の恐怖や欲求が強いほど効果が高くなっていく。

冷静さを保ち、現実をしっかり受け入れれば幻覚は消えるかもしれない」


「…かも、ですか?」


ジル様の眉毛がぴくりと動く。

質問の仕方を失敗した。もう少し考えてから話せばよかった。


「私は幻覚魔法にかかったことが無い。だから確証が無いんだ」


私とジル様が話をしていると、後ろから「おいやめろ!」「とまれ!」などの大声が聞こえてくる。

一人、また一人と幻覚魔法にかかっていき、兵士や魔術師たちが正気を失っていっていた。


「お前たち落ち着け!まだ魔物はいない、幻覚だ!」


キョウヤ様が一番近くにいた暴れる兵士を抑え込み、部下たちに指示を出す。

しかし、混乱が混乱を呼び、次々と同士討ちが発生している。

魔物は一匹もいないのに、ここはいつの間にか戦場と化してしまった。

まだ正気を保っている兵士の方が多いが、このままでは逆転してしまいそうな勢いである。


「くそ、このままでは全滅してしまう」


キョウヤ様がやむなく暴れる兵士を気絶させていくが、自ら戦力を減らしている状態である。

もそもお城の時のように大群で来られたらひとたまりもない。


「ジル様!」


私はキョウヤ様と一緒に暴れる兵士を鎮静化させながら、ジル様を呼ぶ。


「なんだ!?」


気絶させた兵士を片っ端から幻覚解除しているジル様が声を荒げながらも答えてくれる。


「ジル様は結界を張っている魔物の居場所がわかるのですか!?」


「だいたいはわかっている。それがどうした!?」


「私がその魔物を倒しに行きます!居場所を教えてください!」


「なんだと!?」


意外すぎる提案に、ジル様の声に動揺が混じる。


「セツナ様!それはあまりに危険過ぎます!」


私とジル様の会話を聞いて、キョウヤ様が私を止めに入る。


「そうですけど、このままじゃみんな死んじゃいますよ!」


キョウヤ様と視線と交わす。

その瞳には聖なる巫女を危険にさらせない責任と、部下を救いたい思いが入り混じっていた。


「私を信じてください!」


キョウヤ様は私の一言に一瞬苦い顔をしたが、いつもの凛々しい表情に戻る。


「ジル!セツナ様に居場所を教えるんだ!」


「キョウヤ、お前正気か!?」


「あぁ、セツナ様ならかならずやってくれる!」


キョウヤ様がそんなことを言うとは思っていなかったのか、ジル様がわずかに驚く。

ジル様は幻覚解除中だった兵士から手を離すと、立ち上がってある方角を指さした。


「あの奥にいる。距離はあと半分だ!」


「ありがとうございます!」


私は木々を三角飛びで登っていき、森の上へ舞い上がる。

ジル様が指示した方向を見ると、小さな崖があり、そこに何かいるのが見えた。


私は木のてっぺんに着地すると、足に氣を集中させる。


「キョウヤ様!ジル様!いってきます!」


「ご武運を!!」


キョウヤ様の応援が聞こえた。

私は二人の信頼を胸に、魔物へ向かって飛ぶ。

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