キョウヤ様の思い
部屋まで戻って来ると、私は椅子に座らされ、その前にキョウヤ様は立っている。
まだちょっとドキドキしている。
気のせいかもしれないけれど、ちょっとだけキョウヤ様の物腰がやわらかくなったような…。
「いかがでしたか?この街の料理は?」
前回とは違い勝手を咎めることなく、いつもの笑顔を向けてくれる。
「はい、とてもおいしかったですし、街のみんなもやさしかったです」
「それはよかった。私もこの街へ来る時はかならずどこかへ寄るんです。
どこへ行ってもおいしいのに、来る度に変わっていますから飽きないんですよ」
おぉ…、キョウヤ様と雑談している。
なんでもないお話しをするのは初めてな気がする。
「ですが露店の食べ物はあまり食べたことがなくて、セツナ様がおいしかったというなら、今度挑戦してみようと思います」
「いいと思います」
「そうですよね。…えーと」
キョウヤ様はあからさまに話題を探している。
話があって戻って来たはずなのに、すぐに本題に入ろうとしない。
「あっ、そういえばセツナ様はどうやって外へ出られたのですか?
戻って来た時、見張りの者がすごく驚いていましたが…」
「えっ?あー…それはですねー…」
これはさすがに怒られるかな?と思ったけれど、嘘は付けなったので黙って窓を指さした。
「ま、窓から?」
キョウヤ様は信じられないという顔をして、開けっ放しになっていた窓へ行き、下を見下ろした。
「…本当ですか?いったいどうやって?」
あー、なんかいたずらを自供させられているみたいで恥ずかしくよー。
「私は…その、壁とかがあれば…高さってあまり関係無いっていうか…」
もじもじと言う私を見ながら、キョウヤ様は言葉を失っている。
「そういえば、魔物が攻め込んできた時も壁を走られていましたね」
笑ってはいるものの、心なしか呆れているように見えるキョウヤ様。
ますます恥ずかしくなってくる。
はうぅ…、なんで昔のやんちゃを思い出されたみたいな気分なんだろう?
「ご…ごめんなさい」
私はなぜか謝らずにはいられなかった。
せっかくいい感じだったのに、あっという間に雲行きがあやしくなってくる。
聖なる巫女としてではなく、望月セツナとして動くとうまくいかない。
私らしくいこうと思ってはみたものの、果たしてそれでよいのかわからなくなってくる。
そもそも、私らしいとはいったいなんだろうか?
「そんな、せめているわけではありません。…いえ、窓から出たことは少々問題ではありますが、私は…その…」
しゅんとしている私をキョウヤ様がフォローしてくれる。
でも、そのフォローすら今の私を追い込む。
私がうまく返事をできず、普通のお話をしようとしてくれたキョウヤ様を困らせてしまう。
もうクエストの話をしてもらうかなと思っていると、何かを決したキョウヤ様が私の横まで歩いてきて、国王様の前のように膝をつき私を見上げた。
「ど、どうしたんですか?」
急なことで意味がわからず私は動揺する。
「セツナ様、嫌な気分にさせてしまったのなら謝罪します。申し訳ありませんでした」
さきほどとは打って変わり、いつも通り騎士団長としてのキョウヤ様に戻った。
「いえ、私こそまた勝手なことをしてすみませんでした」
「そんなことはありません。すべては私が至らなかったせいです」
「…えっ?」
どういうことだろう?
この前の事も、今日の事も、聖なる巫女として自覚が足りず、どこかへ行ったり危ないことをしたりする私の落ち度はなかったのか?
私はそれで納得していたのに、どうしてキョウヤ様が至らないのだろう?
「私は、騎士団長として聖なる巫女であるセツナ様を守護する責任があります。
ただ、それをセツナ様にすべて押し付けてしまうのは間違いだと言われてしまいまして、私なりにその助言に対応しようとしたのですが…」
キョウヤ様が言うには、町長とは付き合いが長く気心が知れているので、仕事の話をした後、私の事を少し相談したらしい。
簡単に言えば、自分よりも強い人をどう守ればいいのか?という内容だったそうだ。
「今思えばセツナ様を咎めてしまった時も、自分の不甲斐なさが原因で声を荒げてしまったのかもしれません」
あれはどう考えても私の事を思ってのことだと思うのだけれど、キョウヤ様的にはそうではなかったみたい。
それは少し残念なお知らせだったけれど、こうして悩み、心中を話してくれているのは私のためだと思うとうれしさが込み上げてくる。
私は、まだ自分のことしか考えられていない子供だったんだなと思った。
「彼は私にこう言いました。それなら聖なる巫女としてではなく、一人の女性として接して、どういう女性なのか知っていく必要があるのではないかと。人間というのは知らない事に怯えるものだと」
キョウヤ様は本当に素敵な人だな。素直にそう思えた。
こんなこと、なかなか人に相談できないし、行動に起こせない。
でもキョウヤ様は、私のためにすぐ自分を変えようとしてくれた。
そして私のせいでうまくいかなかったのに、恥を忍んで事情を教えてくれている。
私はこの誠実さに涙が出そうになる。
「だから、まずはセツナ様がなさることを認め、私なりに理解しようとしたのですが…うまくいかず…」
私は椅子引いて立ち上がると、キョウヤ様の前で正座して同じくらいの目線になった。
「セツナ様?」
「キョウヤ様、ごめんなさい」
「そんな、ですからセツナ様は悪いことなど…」
「ううん、違うの。これは私が悪かったところです。
私も、キョウヤ様を知っているつもりになっていて、知ろうとしていなかった。
だから、私が悪いんです」
今ここにいるのは現実のキョウヤ様なんだ。
ゲームのキョウヤ様はしょせん、いい所だけの切り抜きに過ぎない。
それだけでなんでも受け入れてくれる人だと思い込んでしまっていたのは傲慢だった。
「セツナ様」
お互い言いたい事を言えたおかげか、少し分かり合えた気がした。
どちらからともなく笑顔になる。
「たぶん…というか、絶対これからもキョウヤ様に迷惑をかけてしまうと思います。
でも、聖なる巫女として、キョウヤ様の力になりたいと思っているのは本当です」
「私も、あなたのことを一番に理解できように努めます。
小言がたまに出てしまうかもしれませんが、ご了承くださいセツナ様」
「はい。私もキョウヤ様のことをこれからもっともっと知っていきます」
「ありがとうございます」
いい感じだな。
本音で話した照れくささがあるけれど、そのおかげで信頼関係が築けた気がする。
ヘタに恋愛と光の魔法を一緒に考えてしまって、無意識に私は焦っていたのかもしれない。
それじゃあうまくいかないのもしかたないよね。
今はキョウヤ様たちや自分の忍術を信じて、光の魔法のことは一旦保留にしよう。
まずは、みんなに私のことを知ってもらい、私もみんなのことをもっと知ろう。
コンコン
「入るぞ」
こちらの返事を待たずに、ジル様が急に入っている。
床に座って見つめ合っている私達を見て、ジル様は不可解なものを見る目をした。
「なにをしているんだお前ら?」
私とキョウヤ様はそろって顔を赤くするだけで、何も言えなかった。




