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街で大活躍

国王様からクエストを申し渡され、あれよあれよと準備が進み、急げ急げと馬車に揺られて三日目。

私はゴールグという街に到着して、宿屋で一休みさせてもらっていた。


馬車で二泊三日、野宿するものだと思っていたが私専用の簡易寝室も馬車で運ばれていて、普通にベッドで横になれた。

とはいっても他の兵士たちは野宿なわけで、申し訳なくて寝つきが悪かった。

これなら野宿の方がマシだったかもしれない。クノイチだから慣れているし。


キョウヤ様は町長に会いに行き、ジル様は森へ下見に行ってしまった。

私がいる部屋の外には見張りの兵士がいて、外へ遊びにいけない。

なんてことはなく、窓から出てしまえば気づかれることはない。

だけど、この前キョウヤ様に怒られたばかりである。勝手なことはできない。

かといって宿屋の部屋なんて何も無い。特に体も疲れていないから暇を持て余す。

これなら多少困らせてしまっても、街を歩くことを許可してもらうべきだった気さえする。

でもなー…。

私はせめて街並みだけでも楽しもうと窓を開ける。


四階の部屋だけあってなかなかの眺めだった。

向かいの建物も同じくらいの高さなので遠くは見えなかったが、通りを行き交う人々の活気が見え、これはこれで面白かった。

国の台所と言われているだけあって、野菜・果物・お肉・お魚とここから見える範囲だけでもなんでもあるように見える。

飲食店や露店も多く、外で食べている人もちらほら。

日本で見たことあるような料理もあれば未知なものあり、私の興味がそそられる。


…ちょっとくらいならいいかなー。

お金は持っていないけど、試食とかあると思うしー。

なまじ行く事が可能なせいで、私の中の悪魔がどんどん天使を押さえつけていく。


いやいや、ここは我慢だよ。

ちゃんと聖なる巫女としての自覚を持ったことを、キョウヤ様に見せてあげないと。


空を眺めながら葛藤をしていると、真下の方から子供の泣き声が聞こえてきた。

視線を落とすと、空へ登っていく赤い風船が目にとまる。子供がうっかり手放してしまったようだ。

取ってあげたいけど、ここからだと手が届かない。

風船が私を追い越していく。


「しかたない」


私はスカートが広がらないように抑えながら、窓枠を踏み台にして空中へ飛んだ。

風船の紐を捕まえて本体を抱え込み、放物線を描いて向かいの建物の三階くらいに辿り着く。

着地する場所はなかったけれど、足をかけるでっぱりがあったのでそこを蹴って後ろ向きに宙返りする。

空中で逆さまになった時に下を見てみると、通りの人々が見上げていた。

今度は宿屋の二階バルコニーのてすりに着地する。

ここまで来てしまったら中へ入る方が手間なので、私はぴょんと飛び降りて地面に着地した。


さっと音もなく飛び降りて来た私に、子供だけでなく周りの人も言葉を失っている。

目立っちゃったなーと思ったけれど、泣いている子供を見過ごすよりはいいよね?

私は静まり返っている道を歩き、子供に風船を渡してあげる。


「もう離しちゃだめだよ」


風船が自分の手に戻ってきたことを実感した子供が次第に笑顔へ変わっていく。


「ありがとー!」


元気のあるいいお礼だった。

子供の傍にいたお母さんはまだ驚きが抜け切っていない様子。


「おねーちゃんすごいね。かっこいー!」


風船なんかもう見ていなくて、きらきらした目が私に向けられている。

子供の好意的な態度につられ、周りの人達も少しずつ私の方へ寄って来た。


「冒険者かなにかかい?」

「どうやったらあんなことができるの?」

「ドレスきれい」


一度に色々言われて反応に困ってしまう。

私がおろおろしていると、体の大きい男性がずいっと私の前に現れる。


「すごかったぜ、惚れちまうかと思ったよ。

これは驕りだ、食べてくれ」


そう言って手渡してくれたのはピザをクレープのように巻いた食べ物だった。


「店の一番人気なんだ」


男性は腕を組んで自慢げにしている。

いい匂いがしてくるので、私は大口で一口いただく。


「おいしい!」


チーズのまろやかさとトマトの酸味が絶妙に混ざり合ったようなおいしさ。

見た目通りピザに近い味だったが、固いグリーンピースのような粒が触感を面白くしてくれている。

思わず二口目をいってしまう。


「いい食べっぷりだね」


男性のうれしそうな声が聞こえる。


「お嬢ちゃん!うちのも食べてくれよ」


今度は太めのおばさんが長細い揚げ物を持ってきてくれる。


「いいんですか?」


「あぁ、いい物を見せてもらったし、あんなおいしそう食べてくれたら宣伝にもなるからね」


私は揚げ物も受け取るとさっそく食べてみる。

さくっとした衣と、とろーりした中身。例えるならジャンボカニクリームコロッケ。


「これもおいしーです」


ほくほく食べながら感想を言った。


「そうかい、ありがとう」


おばさんもにっこり笑ってくれた。


みんなでワイワイやっていると、私の視線の横をすっと怪しい影が通る。

なんだろう?と思って目で追っていると、「あっ!泥棒!」と女の人の声がした。

私が作ってしまった人だかりを利用してスリが行われてしまったようだ。


このまま逃げられてはその女の人に悪い。

私は揚げ物の包みを細長く丸めて氣を込める。


「風遁の術:針尖(はりせん)


包みをぷっと吹き飛ばすと、人々の隙間をぬってスリの足に刺さった。


「ぎゃーー!」


スリは大きく転倒して地面にうずくまる。

足に刺さった包みから氣がなくなると、ふわっと普通の紙に戻った。

おー!と歓声が上がる。


近くにいた男の人達がスリを取り押さえると、盗まれた物が女の人のもとへ返ってきた。


「ありがとうございます」


女の人にお礼を言われる。

盗まれた物は財布だったようで、女の人が財布を開けてお札を一枚出してきた。

お礼にと言われたが、ちょっとお金を受け取るのは気が引けたので私は遠慮する。

じゃあ代わりにと近くで売っていたジュースをお礼にくれた。

それがフルーツ炭酸ジュースだったのでちょっと驚いた。

てっきりソフトドリンク系は無いものだと思い込んでいた。


最高に楽しい。

いい事をするといい事が待っているんだよね。

いつの間にか私の前に食べ物飲み物がどんどん並んでいく。

人がいいのか面白がられているのかはわからないけれど、おいしいものを楽しめるならどちらでもよい。


スリを捕まえた忍術にみんな興味を持ったようで、私は食べ物のお礼にいくつか忍術を披露した。

折り紙で風車を作って回したり、鶴を折って飛ばしたりした。

魔法が普通にある世界なのに、みんなはそれを喜んでくれた。

思い返してみれば、ジル様以外に魔法を使っている人をまだ見ていない。

魔法道具はいっぱい出回っているけれど、魔法自体はもしかしたら珍しいのかもしれない。


お腹も膨れてまったりしてくれると、さっと人がどいて道が出きた。

何かな?と思ってみてみる。


「あっ…」


そこにいたのは、町長と会っているはずのキョウヤ様だった。

まだ何も言っていないが、今にも小言が飛び出しそうな顔をしている。

しまったー。食べるのに夢中で時間を忘れていた。


「えーとですね…これには事情がありまして…」


と言ってみるが、私の両手はスプーンとコップが握られていて説得力が無い。


「まったく、あなたという人は…」


キョウヤ様がため息をつくように少し俯く。

やばい、嫌われた。と私が内心焦っていると、その後意外なことにキョウヤ様がくすりと笑った。


「じっとしているのが苦手のようですね」


あのキョウヤ様から、初めて親しげな事を言われて胸がキュンとする。

丁寧で紳士的だったけど、どこか一線を引いていたキョウヤ様。

聖なる巫女を丁重に扱うのは騎士団長として当然なんだけど、うれしい反面お近づきになりたい私としてはさびしいところだった。

キョウヤ様にどんな変化があったのかはわからない。

ただ、一瞬だけキョウヤ様を近くに感じることができて、私の頭はぽーとしてくる。


「楽しんでいたところ申し訳ないですが、お部屋に戻りましょう。お話したいことがあります」


キョウヤ様が手を差し伸べてくれる。


「は、はい」


ただ部屋へ帰るだけなのだが、ときめき状態だった私にはまるでデートのお誘いのようだった。

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