はじめてのクエスト
聖なる巫女としてお城に来てから三日目の朝。
天気はどんより雲で、いつ雨が降ってきてもおかしくない感じだった。
今日もキョウヤ様のお手伝いをしようと思っているのだが、ちょっとだけ気分が削がれている。
その証拠に、私はまだ寝衣のままぐだぐだしていた。
テーブルは空になったお皿とコップがあるだけで、残った食べ物はアッシュが帰る時にきれいに片づけていった。
カードゲームに夢中になり過ぎて、あまり食べなかったことが悔やまれる。
でも、がっついているよりよかったかな。アッシュは気にしなさそうだけど。
コンコン
マリーが朝支度のためにやって来てくれる。
私が返事をすると、マリーはペコリと頭を下げて部屋に入った。
「セツナ様。今日は2時間後に国王様とお会いしていただきます」
いつもよりピシッとした雰囲気が伝わってくる。
ついにちゃんとした行事がやってきたようで、思わずゴクリと唾を飲む。
朝ごはんを簡単にすませ、ドレスを丁寧に着せてもらうと、私は時間まで大人しく待った。
コンコン
数分前になると、再びドアがノックされる。
マリーがドアを開けると、やって来たのはキョウヤ様だった。
「おはようございます」
キョウヤ様が私たち二人に挨拶する。
「セツナ様、昨日はありがとうございました。疲れが残っていたりしませんか?」
ちょっと肉体労働をしただけでこんな労いの言葉がもらえる。
転生前だったら考えられない。
お姫さま気分が味わえてテンションが少し上がった。
「はい、あのくらいなんでもないです」
私が元気に答えると、キョウヤ様が笑顔で返してくれる。
「では国王様の所へ参りましょう」
キョウヤ様がドアを大きく開けて、私が通れるようにしてくれる。
私は椅子から立ち上がり、キョウヤ様にお礼を言って部屋を出た。
年上の男性にドアを開けさせていることにまだちょっと慣れない。
階段をエスコートされた時ほどではないが、この守られている感がちょっとドキドキしてしまう。
まるで心を抱っこされているよう気分で、気を抜いたら甘えだしてしまいそうだ。
マリーも続けて部屋を出ると、キョウヤ様がドアを静かに閉め、私たちに目配せをする。
キョウヤ様が先頭を歩き始めたので、私たちもついて歩いた。
いったい、どんな話をされるのだろうか?
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私は玉座の前まで案内されてやってきた。
見るのはこれで2回目だが、相変わらず豪華である。魔物による損傷もあまりなかったようだ。
両サイドには高そうな服を着た貴族がずらりと並び、その中にロック様とジル様の姿もあった。
目の前には国王様が玉座に座り、その横には側近が立っている。
キョウヤ様とマリーが膝をつく。
「聖なる巫女といる時は膝をつかなくてもよい。気を使わせてしまう」
国王様にそう言われ、二人はゆっくりと立ち上がった。
私が聖なる巫女だからかどうかはわからないが、この国王様は本当に人格者だなーなんて思った。
威厳を感じさせ、王様の衣装がよく似合っている。でも恐れ多いといった雰囲気は全然なくて、理想のリーダー像に近い印象を持つ。
「まずは聖なる巫女よ。この前の魔物の襲撃を退いていただき、感謝しています。
活躍の程はキョウヤから伺いました。お礼を申し上げるのが遅くなり申し訳ない。
そして、聖なる巫女はあなたで間違いなかったのでしょう」
国王様がスッと頭を下げる。
「い、いえ…その、当然のことをしたまでです」
とても良い印象を持っていたとしても、国のトップに頭を下げられるとさすがに焦ってしまう。
咄嗟に出た言葉はちょっとくさいセリフだった。
それに、光の魔法が使えない状態で聖なる巫女と確信されてしまうのも微妙に困る。
素直に言った方がいいのか悩ましい…。
「そう言っていただけると助かります」
勝手がわからず困ってキョウヤ様をちらりと見ると、キョウヤ様はコクリと頷いた。
たぶん、そのままでよいということかな?
私は少しだけ姿勢を正して次の言葉を待つ。
「あー…、それでなのだが…」
国王様が本題に入ろうとするが、言い出しずらそうにしている。
そんな国王様を庇うように側近が一歩前へ出ると、代わって本題を説明してくれる。
気品も風格も十分なのだが、ちょっと側近頼みなのがたまにきずのようだ。
「魔物の襲撃から三日しか経っていないので申し上げにくいのですが、聖なる巫女様にはキョウヤ率いる第一騎士団と、ジル率いる魔術部隊と共に魔物の討伐へ行っていただきたいのです」
「魔物の…討伐?」
私はてっきり聖なる巫女に関する儀式とか勉強とかかと思っていたので、少しだけ面食らってしまう。
「はい。ここから東にゴールグという街があるのですが、最近近くの森に魔物が出現するようになりました。聖なる巫女様がいらっしゃる前に討伐部隊を派遣したのですが、不気味な魔術を使うらしく討伐に失敗しています」
側近が簡単に事情を説明してくれると、国王様は悔しそうな顔をしていた。
「ゴールグはこの国の台所と言ってもよい街であり、何かあれば王国全体の食糧に大きな影響を与えてしまいます」
ただでさえ食糧難になっているのに追い打ちがかかりそうということか。
たしかにこれは一刻を争う問題である。
お城にいるせいか好き放題食べさせてもらっているが、遠くの街や村では人々が苦しんでいるに違いない。
「ですので、聖なる巫女様のお力と、魔術師の筆頭であるジルとで魔物の魔術を打ち破っていただきたいのです」
この国を助けてくださいとばかりに側近が頭を下げる。
「…わかりました。ぜひ私にお手伝いさせてください」
私はひと呼吸置いてからキリッと答えた。
周りからおぉと喜びの声が上がる。
「よろしくお願いします。この国をお救いください」
最後に国王様からもう一度お願いされてしまった。
いやー正直不安いっぱいだけど、こう言うしかないよねー…。
光の魔法は使えないけど、ストーリー的にはまだ序盤だから私の忍術でまだなんとかなると思う…。
笑顔は保ったが、内心ハラハラしている。
キョウヤ様、ジル様、頼りにしています。
詳しい話は自室でキョウヤ様から聞くことになり、私たちは玉座の間を出た。
「セツナ様、お力添えありがとうございます」
キョウヤ様から改めてお礼を言われる。
私はあははと笑って返すのがやっとだった。
ゲームなら何度でもやり直せるが、現実は一発勝負。
光の魔法が使えない上に、キョウヤ様たちのレベルもわからない。
こんな任務…、ゲームに合わせてクエストと言った方がいいかな?
とにかく、こんなに見通しが立たない状況はクノイチ史上初めてだ。
「おい」
なにやら初日と同じような所で、後ろから呼び止められる。
振り返ってみると、そこにいたのはやはりロック様だった。
ずいずいとこちらへ向かってくる。
「なあセツナ、国王からの指令じゃしょうがないが、あの約束は無効にはならないからな」
本当だったら明日実施されていた忍術の訓練のことを、ロック様が不機嫌そうに確認してきた。
低い声でぶっきらぼうな言い方。
脅しに見えなくもないいかつさだが、約束を心配しているだけだとわかってしまえば、素直に言えない子供のようでむしろ和む。
「わかっています。帰ってきたら、ちゃんとやりますから」
思わずあやす様な返事をしてしまうと、ロック様は微妙な顔をした。
「約束?」
キョウヤ様がなんのことかわからずそう言った。
「お前には関係ねぇよ」
ロック様が追い払うように突っぱねる。
「…いえ、たしかに本来なら私が口を挟むことではありませんが、セツナ様はこの国にとって大切なお方、変な事はさせられません」
キョウヤ様は一瞬怯んだが、私の身を案じて立ち向かう。
「変な事って、お前…」
食ってかかって来るキョウヤ様に、ロック様はめんどくさそうにする。
が、何かを思いつき、ニヤリと笑う。
「もしかして、俺と嬢ちゃんの仲が気になるか?」
ロック様が挑発するように言うと、わざとらしく私の後ろに回り、私の肩に手を置いた。
「なっ!?」
キョウヤ様が言葉を詰まらせる。
たぶん挑発だとわかっているのだろうけど、変に私を気遣ってうまく言えないんだろうなー。
でも、照れながらおろおろする姿は新鮮で、困っているフリをしながらも心の中ではロック様と一緒にニヤニヤしてしまう。
「なんだ違うのか?じゃあこの話はおしまいだ。じゃあなセツナ、がんばれよ」
ロック様は笑いながら去って行く。
それをキョウヤ様は「ま、待て」と口では言うが追おうとはしなかった。
なんか、イケメンに取り合われているみたいで楽しかったです。
心の中でロック様にお礼を言う。
ただ、自室に戻るまでキョウヤ様が若干よそよそしくなってしまい、トータルでプラマイゼロだった。




