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夜遊び

キョウヤ様のお手伝いを終え、私はお城の自室に戻ってきた。

お風呂に入って晩ごはんをもらい、寝衣(しんい)に着替えさせてもらう。

ちょっと時間は早かったけど、慣れない作業で疲れていたマリーには早めに休んでもらった。


窓から街を見下ろすと、家やお店や街灯がやわらかい光を発している。

明る過ぎないおかげか、見上げると街中だというのに星空が広がっている。


私の部屋の灯りは、ファンタジーの世界らしくランプである。

ただし、中は蝋燭でもなければ蛍光灯でもない。表面がつるつるした石がぼんやり光っているのだ。

これも魔術や錬金術で作られた道具なのだろう。

電気の灯りのように眩しくないが、暖かい色味と光加減が眠気を誘う。


夜風にあたりながら、私は椅子にもたれかかった。

気分はバカンス中のスイートルーム。

誰もが一度は経験してみたいと思うような、日常を忘れさせてくれる贅沢な時間。

マリーが置いて行ってくれたお菓子やジュースも嗜む。


しかし、こんなすごい体験も人間という生き物は慣れてしまうもので、私は早くも暇を感じていた。

テレビや動画、漫画に雑誌、そして乙女ゲーム。

日本には、夜に自室で一人楽しめる物は山ほどあったんだと痛感する。

この部屋にあるものといえば数冊の本だが、歴史とかマナーとか教科書みたいなやつだった。

見たことない文字なのに普通に読めるが面白くて何ページか読んだが、すぐに飽きてしまった。


そうなってくると、もう寝るしかない。

でもなー、時計はまだ10時過ぎ。お肌にいいかもしれないが、17歳には早い。

このスローライフ感がこの世界の標準なのだと思うけど、時間がもったいない気がしちゃうな。


コンコン


ぼんやりとを考えて事をしていると、ドアがノックされた。


「はーい」


私が返事をすると、聞き覚えのある明るい声がした。


「セツナちゃん、起きているね」


やって来たのはアッシュだった。

私がドアを開けると、長い髪を後ろで縛り普段着を着ている姿が目に入る。

手に持っているのは、槍ではなくハンカチがかけられたバスケットだった。


「おっ、ドレスもいいけど、寝衣もかわいいね」


私はエッチな視線を感じて思わず胸元を隠した。


「いやいや、そんなつもりで言ったわけじゃないよ」


「でも見たよね?」


「…まぁそれは、ね」


言葉は濁しても否定はしなかった。

でも、それからは私の顔だけを見ているし、上着を着なかった私の落ち度ということにしよう。


「…で?どうしたの?」


「実は俺、明日は非番だからさ、ちょっと夜更かししようと思って。

街に行こうとも思ったんだけど、ひょっとしたらセツナちゃんとお話しできるかなって」


アッシュはそう言ってバスケットのハンカチを摘まんで取る。


「じゃーん」


中には2本のボトルと軽食やお菓子が敷き詰められていた。

マリーが置いてくれたお菓子はおいしかったが、アッシュが持ってきたのは甘さとかカロリーとかを度外視した罪悪感たっぷりのやつ。

チョコたっぷりのケーキとか、生ハムが乗ったクラッカーとか。

夜だと余計に食べたくなるのが不思議だ。


「どうかな?」


食べたいでしょ?とアッシュが笑いかける。

ゲームでも謎だったのだけど、なんでこの男だけ聖なる巫女と対等に接してこれるのだろう?

周りが大人の男性ばかりだから少し安心するけど。


「ちょっとだけなら」


「やったね」


私がドアを大きく開けると、アッシュがふらっと入ってくる。

お菓子が置いてあるテーブルへ真っすぐ向かうと、バスケットを置き、私が座っていた椅子の向かい側に座った。


「早くー」


本当に遠慮が無いな。

私はそう思いながら、上着を着て椅子に座った。


「あのさ、アッシュってここへ来て大丈夫なの?」


「なんで?」


「だって、私って一応聖なる巫女だよ?」


「…?あぁそういうことか、大丈夫じゃない。何も言われてないし」


ふーん、そんなもんなんだ。

もしそうなら、これから色んな人が訪ねてくるようになるのかな?

なんてこれからの私の生活を想像していると、アッシュが手際よくテーブルに食べ物を並べていく。

最後にグラスを私の前に置き、一本のボトルを開けるとぶどうジュースのような飲み物を注いでくれた。


なんか手慣れた感じ。

なんて感心していると、夜に男子と二人っきりという現状にようやく気が付く。

急に緊張してきた。

よく見るとアッシュもなかなかイケメンである。しかも、髪が長いのにうなじが見えるっていうのはこんなにセクシーなものだったとは…。

それに、歳が近くてあんまり気にしていなかったけど、今のところアッシュが一番女の子扱いしてくる。

下心ありで来た?と思いながらもドキドキする。


注いでくれたグラスを手に持つ。

果実のいい匂いがしたが、何か他にも混じっている匂いがする。


「これってもしかしてお酒?」


鼻を近づけて嗅いでみると、ちょっとだけ頭がクラッとする。


「あっ、セツナちゃんお酒苦手だった?」


「いや、私まだ未成年だから…」


「ミセイネン?」


アッシュは初めて聞く単語に首を傾げた。


「そっか、えーと…まだお酒が飲める年齢じゃないの」


「いやいや、セツナちゃんって俺と同じ歳くらいだよね?

というか、飲める年齢ってなに?」


国どころか世界が違うので、お酒に関する認識に違いがあるとは思ったが、まさか未成年の飲酒という概念が無いとは思わなかった。


「…実は私、体質的にお酒が合わなくて、親からある年齢までは飲むなと言われていて」


それっぽい理由をでっちあげる。

正直に言えばお酒に興味ありだった。実際おいしそうなにおいがするし。

でも、もし酔っぱらってしまったら何をしでかすかわからないので今日は控えることにする。


「そうだったんだ。ごめんね。じゃあこれは俺がもらうよ」


アッシュがグラスを自分の所へ持っていくと、もう一本のボトルを持ってかざして見せる。


「こんなこともあろうかと、代わりもちゃんと持ってきているよ」


ポンと軽快な音を立ててコルクが抜かれる。

それを新しいグラスに注ぐと、私に手渡してくれた。

今度はお酒の匂いは一切しないただのジュースだった。すっきりとした柑橘系の香りがする。


「なんていうジュースなの?」


「クレイバだよ」


聞いたことない。この世界の果物だろうか?

得体が知れないのでちょっと怖かったが、一口飲んでみる。


「っおいしい!」


グレープフルーツに近い味だけど、香りの印象よりもずっと甘い。

でも飲んだ後も口の中がさっぱりしている。


「でしょ?俺の地元の名産品なんだ。田舎だけどこれで結構儲けているんだぜ」


「アッシュってこの街の出身じゃなかったんだ」


「そう、ずっと騎士になりたくてね。家業は弟に任せてきた」


「へー、どんな所だったの?」


アッシュはクラッカーを一つ頬張り、お酒を飲んだ。

ここでは全然問題無いことなのだが、私には未成年の飲酒にしか見えなくてちょっとだけそわそわする。


「田舎だけあって農園以外なんにもないような所だったよ。

海も山も無いし、川があっても農業で使っているから遊べるようなものじゃなかったし。

外で遊ぶにも限界があったから、カードゲームが流行ってたな。特にモトロ」


「モトロ?」


「知らない?けっこう有名なゲームだと思ってたけど」


うぅ…、世間知らずみたいになってしまっている。


「うん、あまりカードゲームってやったことがないんだ」


「ふーん、そうなんだ。たしかに女子はあんまりやってなかったかな?」


アッシュはお酒を飲みながら昔を思い起こす。


「じゃあさセツナちゃん、ちょっとやってみる?」


そう言ってアッシュはバスケットの端から汚れないように包まれた小物を取り出す。

包みをはずすと、トランプを彷彿とさせるカード入れが出てくる。

さらに中からカードの束が出てくる。

裏の模様はまさにトランプ、表はちょっと違っていて上に数字が書いてあり下には色んな模様が描かれていた。


ちょっと準備が良すぎないか?

私は思わず笑ってしまう。


色は四種類あって、アッシュがカードを色別に分けていき、その内の一束を私に渡す。


「そんなに難しくないから、話でもしながらやろうか」


ジュースにお菓子にカードゲーム。

なんだかお泊り会のような感じになってきて、緊張がほぐれて楽しくなっていた。

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