結晶の囚人~終幕~
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泳ぐ炎の柱、元姫の背後から射出される無数の炎刃。姜維と劉備は彼女の前に立ってはそれを眺める。
数分前――、確かに死んだはずだった。しかし、目を醒ました。隣の劉備もまた、目を醒ましていた。痛みはあるが、身体は動く。そこで濃霧の中から元姫の声を聞いた。ああ、彼女が力を与えてくれたのだと。ならば生かすしかない。そしてこの濃霧、ジエジンは元姫に集中している。ならば、今が好機――そう思って攻撃をした次第である。
「首を斬っても核は死なない。核の中にある源を取り出さなきゃ」
「その源は?」
「氷の核、ジエジンは左胸よ」
だけど避けるでしょうね。元姫は淡々と告げた。ならばまた囮を使うか、この濃霧の中から奇襲――は先ほど行ったため警戒されるだろう。
「真っ向勝負しかないわ、姜維殿。……ただ、何されるかわからない。私が支援する。攻撃を全て私と、劉備殿が防ぐ」
「わかった」
姜維は口内に残る血を吐き捨て、炎の柱泳ぐ中を走っていく。胴体が炎刃へ降り注ぐもジエジンの胴体は右へ転がり回避した。炎の中を通り抜け姜維はジエジンの豊満な左胸を掴み押し倒すと、そのまま彼女の胴体へ跨がる。首に手を伸ばされる。しかし瞬時に右から現れた劉備によってジエジンの伸ばされた右腕は切断された。左手も同様に劉備によって斬られ吹き飛ばされていく。
「先ほどはよくやってくれたな、ジエジン。」
姜維は槍を振り上げ、ジエジンの左胸へ振り下ろす。が、流石に戦い過ぎたのか、それとも血で弱ってしまったのか、ジエジンの防御が強かったのか、槍の刃は粉砕されてしまった。即座に劉備は右手に持つ剣をジエジンの左胸へ突き刺そうと、叩きつけるように振り下ろしていく。姜維は左手で彼の右手を握り一緒に力を加える。
「ッぐ、ああああああああッ」
絶叫が、離れた場所から聞こえる。そして視界の端に見えたジエジンの頭。それは姜維達へ襲い掛かる――が劉備は左手の剣で真っ二つに斬り捨てた。
「邪魔はさせぬ」
斬り捨てた頭は炎に焼かれていく。それでも死なないのだろう、ジエジンは。この源を取り払うまでは。
胸が裂かれ、中からは心臓――ではなく氷の球体が現れた。それは真っ白で、透明で、純粋さを表わしているようだ。ああ、知っている、彼女は純粋な事くらい。姜維はそれを左手で静かに掴む。
「ッ、姜維ッ!」
――が、劉備によって即座に手を振り払われ、彼に引き寄せられると彼ごと吹き飛ばされ炎の中を通り抜けては地面に叩きつけられた。
「ッぐ……」
喉の奥から衝撃に耐え、痛みに呻く声が溢れる。
何が起こった、何が。劉備の腕の中から抜け出せば彼の喉を氷の刃が貫いていた。それは炎の中にある何かと繋がっている。
「劉備殿ッ!」
すっ飛んできた元姫。姜維は劉備の喉を貫いている刃を出来るだけ動かさないよう手刀で折り、元姫へ託す。苦しげに顔を歪め悶える劉備。彼の口から血が吐き出される。これだから詰めが甘いのだ。姜維は心中で己を罵った。
足音が響く。姜維は膝をついたまま炎の中の人影を睨み付ける。外部からの炎の柱が一瞬で凍らされてしまった。
「やって、くれたなッ。だが、もう、負けない」
目の前に立つは見慣れた姿。最初に見たジエジンの姿だ。白い衣服に、血色の悪い青白く光る肌、白い髪――人とは思えない姿の彼だった。
力が尽きたか。だがこちらも同じ。元姫は劉備の首から刃を消しその傷を塞いでは力を与えている。劉備は重傷、そして姜維は槍をなくした。戦えない。
「姜維殿、右手を」
折れて使い物にならないはずの右手を差し出す。柄はまだ握られている。元姫が左手をかざすと、槍の柄が光り出す。そしてそれは姿を変えた。蛇のように長く、うねるように巻いている刃。反りがあり、見た事もない剣だった。
「それは、倭国の剣。ずっと、未来に生まれる、日本刀」
「にほんとう……?」
「それが、彼を打ち破る。大丈夫、折れたりはしないわ」
見るからに細く今にも折れそうな剣だが、元姫が言うなら間違いはないだろう。姜維は立ち上がり、瞬時にジエジンの懐へ潜り込む。刃を振るっては左胸を斬り裂いた。氷の壁を作り出すジエジンだが、この剣――日本刀一振りで壁は粉々に粉砕される。
「ッ、何だ、その刀はッ!」
聞かれてもわからないので姜維は答えず、後退するジエジンに迫っていく。頭上に生み出され降り注ぐ大量の氷刃。最初に受けた攻撃だ。刀を一振りすれば突風を生み出し刃は欠片となって消えていく。地面からは巨大な氷柱。姜維はそれらを避け、足場として使用し上空へ飛び上がると空中から一振りしては突風で再び粉砕する。
「かかったな!」
背後から、右脇腹が貫かれる。痛みは――なかった。麻痺してしまっているのか、この刀のせいなのかわからないが。姜維は後ろへ刀を振り、己を貫いている刃を折ると即座に急降下、ジエジンの懐へ入り込み――刀を振るった。
「が……ッ」
ジエジンの上半身と下半身が分かれる。切断される。しなる刃、うねる刀を振るっては右胸付近を切断し、裂かれた右胸から白い球体――先ほどの氷が現れた。それは浮かび上がり元姫の元へ。彼女の身体へと静かに入り込む。
上半身と下半身は地に落ち、静まり返る。姜維はゆっくりとジエジンの元へ歩み寄る。
「……負け、たのか……我は」
「ああ、私の勝ちだ」
「……ふん。クソが。負けたというのに、腹が立たない。悔しさはあるがな」
ジエジンは優しげな目を姜維へ向ける。全て終わって、解放されて、荷が下りたのだろう。姜維は警戒を解かずただじっと見下ろしていた。後ろから元姫に支えられた劉備と元姫がやって来る。
「我は……、俺は、羨ましかった。元姫、貴様が」
「……私が?」
「ああ。核は神器の中からしか世界を見れない。俺は見たかった、世界を。だから貴様が俺達を手放した時、歓喜した。同時に思ったのだ。――俺達はこの世界で神器になれるのではないかと」
咳き込み、血を吐き出すジエジン。人間なら胴体切断されれば死んでいるところだが、流石核というところだろうか。
「だが最初から、神器に反旗を翻すつもりはなかった。俺はこの世界を見れたら、満足だった。ある時、言われたのだ」
「言われた?」
そうだ、とジエジンは肯定の言葉を吐き出す。
「神器を殺し神器に成り代われと。誰か、神器を憎む奴の声だと思っていたが……あれは、神器を羨む俺の心の声だったのだろう」
「……今なら、間に合うわ。ジエジン、契約しましょう。あなたを生かしてあげる。契約すれば、実体を持てる、力も使える。ただし私に縛られる事になるけれど……」
元姫は心優しい。自分を陥れた核でさえ救おうとするのだから。いや、彼女の場合は優しいというよりも――甘い、か。姜維は黙ったまま元姫とジエジンの会話を聞いていた。
「敗者に情けはいらん。このまま俺は朽ちる。……だから一つ忠告してやろう」
ジエジンは口を開き何かを言おうとしたがすぐ口を閉ざした。
「……いや、余計な事を言うのは止そう。貴様らへのあてつけだ。他の核にさっさと殺されるがいい。俺は元姫の中から見ておいてやる。――だが、他の核は俺のように優しくはないぞ。覚悟しておけ」
それだけを言い残し、ジエジンは氷の粒となり消え去った。これで本当に、終わった。そう思うと力が抜け姜維はその場に座り込む。
「きょ、姜維、大丈夫か?」
「はい、劉備様こそ」
「私は大丈夫だ。元姫殿に治してもらったからな」
大丈夫な訳ないです、刃が肺まで到達していたんですからね。と元姫からお叱りを受ける劉備。苦笑しつつ「すまぬ」と謝罪する彼に姜維は少し笑みが漏れた。だが傷が開いたのか胸に猛烈な痛みが広がりその場に蹲る。だがすぐに立ち上がった。




