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氷点下を操りし剣聖  作者: 氷菓
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謎の人物

「かんぱーい !!」

 結斗のかけ声で五つのグラスが互いにぶつかる。それぞれのグラスには、色とりどりの飲み物が入っている。

「とりあえず、山城君以外は一回戦突破だね」

「俺だって負けたくて負けた訳ねーだろ !」

 ティナがそっとため息をつく。

「それ、何回も聞いた」

「ティナの言うとおりよ。いくら相手が生徒会のメンバーだったからって言い訳しすぎ。それに、同じ生徒会メンバーでも桐原君は勝ってたじゃない」

 白石がそう言うと、山城は何も言わなくなった。

「まあまあ、山城君落ち込んだら駄目だって」

「お前に言われると腹が立つな」

 山城と片山の会話をよそに楓は周囲を見渡す。そこには、見慣れたベッド、本棚、机があった。

「桐原君、どうしたの ?」

 キョロキョロしていた楓が気になったのか、白石が話しかけてきた。

「祝勝会自体は別に良いんだけど、それよりもなんで俺の部屋なんだ ?」

 そう言うと全員がこっちを向く。

「だって、女子の部屋に男子を入れる訳にはいかないし。それに男子で一番部屋がすっきりしてるって片山君が言うからそう決まったの」

 そう言って白石はグラスに入ったオレンジジュースを飲み干した。

「いや、一番すっきりしてるのは結斗の部屋だろ」

「まあ別に良いんじゃない。楓もそんなに嫌がってないし」

「でも、大変なのはこれからになりそうね」

 あまり口を開かないティナが口を開いた。

「てか、お前こういうのに参加するタイプなんだな。てっきり嫌いなんだと思ってたぜ」

「白石さんに誘われたから仕方なくね。それよりもこれからの話をしましょう」

「これからの話って俺には関係ない話だな。俺はもう帰らせてもらうぞ」

「待って !山城君にも居てほしい話なの」

 白石の制止も聞き入れず山城は楓の部屋から出ていった。

「まあ、山城はひとまず置いといて。で、これからの話ってなんなんだ ?」

「おそらく、これからは基本的に生徒会メンバーが勝ち上がって来る。だからもし、同じブロックにいた人が生徒会に負けたらその人のデータを手に入れるチャンスだと思ったの」

 珍しく今日はティナがよく喋る。いや、もともとこういう性格なのかもしれない。

「確かにそうだね。でも、同ブロックにいるのはティナさんと山城君だけだったよね。他の人には意味がないんじゃないかな」

 結斗が的確な指摘をする。確かに他のメンバーはブロックが被ってない。つまり、相手の分析は自分でしなければいけないのだ。

「別に他のブロックの生徒会とかは全員で分析すれば良いじゃないのかな ?その方が皆の意見がわかるんだし」

 これまた優等生の白石の意見。言っていることは正しい気もする。

「とりあえず、注意すべき人物が現れたら報告する。それで良んじゃない ?」

「確かにそうするのが一番得策だと俺も思うな。俺はティナの意見に賛成だ」

「ティナさんの意見が一番得策ですか。それもそうですね。私も賛成です」

「もちろん僕もそれが良いなら賛成だよ」

「じゃあ今日はもうお開きにしようか」

 結斗、白石、ティナは立ち上がり帰りの支度を始めた。

「皆、また明日」

 三人は楓の部屋から出て自分たちの部屋に帰っていった。

「さて、ん ?あれは山城か」

 部屋の窓から外を見るとそこには山城が1人で海を眺めていた。



 山城は楓の部屋を出て自分の部屋に戻る途中、気分転換に自販機のある一階のロビーに下りた。

 この学園は基本的に寮生活を義務付けられている。寮と言ってもそんなに古いものではない。簡単に言えば高級マンションのようなもので不便はなく、部屋の広さも普通に生活していれば困ることはない。しかし、何か事情のある者は自宅から通っても良いことになっている。もちろん、事情のない山城は寮で生活をしている。

 ロビーでジュースを買った山城は風のよく通る寮の前の広場で柵にもたれながら海を眺めていた。

「誰だ ?」

 不意に背後に気配を感じ振り向いた。そこにはフードを深々と被った何者かがいた。身長は山城より低く右手には鞘に入った刀が握られている。

 謎の人物はゆっくりと鞘から刀を抜く。その刀身は月明かりを鋭く反射しすぐに業物わざものだと分かる。

「一体お前は何者な……」

 山城が言い終わる前に謎の人物は襲いかかってきた。山城との距離を一瞬で詰める。そのときのスピードで風が起こりフードの中が見えた。

 金髪のロングヘアー。少し地毛とは思えない感じだが今はそんなことを気にしている場合ではない。ふところから武器を格納しているホルダーを出す。

荒大剣タイラントソード !」

 横に高速で振り払われてきた刀をなんとか間一髪で受け止めた。すぐに女とおぼしき人物と距離をとった。

「(こいつ、強い)」

 女は初撃が止められたことを不思議そうに刀を見ていたが、再び刀を構える。

「なんなんだよ、お前は !どういうつもりで俺を襲う !」

 その場に山城の怒号が飛び交う。しかし女は、山城の怒号に聞く耳を持たずもう一度距離を詰める。

「くそっ、話のわからない奴だな !」

 高速で繰り出される剣技をどうにか荒大剣で防ぐ。

「おらっ !」

 反撃出来そうな時に反撃するが、山城の攻撃を全くと言っていいほど当たらない。山城はもう一度距離をとろうとするがそれよりも速く女が距離をとった。刀を鞘に納めた。

「(やるなら今か !)」

 山城は勢いよく飛び出したが、その時点で気がついた。女は居合いの構えをとっている。

「(いや、だがこのままいける !)」

 剣を構えたまま勢いを殺さずに突っ込む。女が目の前まできた瞬間、山城の目から女が消えた。山城の一撃はくうを切った。

「やっぱり、貴方なんかでは駄目だったみたい。だからもう終わりにしましょう」

 その時、初めて女の声を聴いた。山城は声のした方に振り向く。

「別に私は貴方を殺すつもりはありません。ただ、」

 山城が女に近寄ろうとして一歩踏み出す。それと同時に背中から鮮明な血が吹き出した。

「えっ」

 何が起こったのか訳がわからないまま山城は地面に倒れた。

「ただ、やはり貴方では不足です。さようなら」

「ま、待て」

 地面を這いつくばって女に追い付こうとする。

「待っていて、桐原楓」

 そう言い残して女は去っていった。

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