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限界保育士は異世界で休みたい~戦力外の私ですが、子守唄で騎士団を救っているようです~  作者: 蜜豆
第7章「土の下」

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第一節

 発つ日の朝、それが見つかった。


 壁の外だった。

 最後の見回りに出た隊が、戻ってこなかった。正確には、戻るのが遅れた。半刻の予定が、二刻になった。

 戻ってきて、団長さんに何か言った。団長さんが、アリオスさんを呼んだ。


 それから、出発が延びた。


 私は、集会所の前で荷を持ったまま立っていた。立っていると、エルナさんに似た歩き方の人が来た。隊の人だった。名前は、ヨルクという。


「ナナセ殿」


「はい」


「団長が、来いと」


「私がですか」


「そうです」


「あの、何か」


「見れば分かると思います」


 その人は、そう言った。

 言い方が、少し変だった。困っているのではない。説明する言葉を持っていない、という言い方だった。


 門を出た。

 壁の外へ出るのは、初めてだった。去年も今年も、私は門の内側にいた。

 外は、思っていたより普通だった。

 草があって、土があって、その向こうに林がある。城の周りと、そんなに変わらない。


 北へ歩いた。半刻ほど。

 途中で、地面が少し下っていた。窪地だった。水が溜まった跡があって、今は乾いている。

 その窪地の底に、人が集まっていた。

 六人。団長さんと、隊が四人。それから、アリオスさんがいた。


 近づいて、私は足を止めた。

 地面が、掘られていた。

 深さは、私の膝くらい。広さは、荷車一台ぶんくらい。

 掘ったのではない、とすぐに分かった。掘った跡ではなかった。土の表面が、割れていた。内側から押し上げられて、割れたように見えた。


 その割れ目の底に、何かがあった。


「ナナセ殿」


 団長さんが言った。


「これを見てくれ」


 私は、窪地の底へ降りた。

 降りて、しゃがんで、見た。


 石だった。


 最初は、そう思った。灰色で、表面がざらざらしている。

 でも、石ではなかった。

 形が、規則的すぎた。


 六角形をしていた。厚みのある、平たい六角形。大きさは、私の手のひらを広げたくらい。それが、いくつも並んでいる。


 並んでいるというより、繋がっていた。

 蜂の巣に似ていた。

 ただし、蜂の巣より厚い。厚くて、色が灰色で、触ると冷たそうに見えた。


「触ったか」


「触っていません」


 隊の人が答えた。


「触るな、と言われましたので」


「よし」


 団長さんは、そう言って、私を見た。


「ナナセ殿。これが何か、分かるか」


「分からないです」


 私は、即答した。


「見たことないです」


「そうか」


「あの、団長さんは」


「見たことがない」


 その人は、そう言った。


「二十年、外に出ている。──これは初めてだ」


 私は、アリオスさんを見た。

 その人は、窪地の縁に立っていた。降りてこなかった。


「アリオス殿は」


「わしも、知りません」


 その人は言った。


「この村は四十年になります。四十年、ここに畑を作ろうとして、水が溜まるのでやめた。──何度も掘りました」


「掘ったときは」


「土だけでした」


 私は、その六角形を見た。

 数えた。

 十四。見えている範囲で、十四個ある。土の中に、まだ続いているようにも見えた。


「あの」


「なんだ」


「これ、どのくらい前からありますか」


「分からん」


「土が、割れてます」


 私は、そう言った。


「押し上げられた感じに見えます」


「私もそう見た」


 団長さんが言った。


「下から、何かが押している。──あるいは、育っている」


 育っている、という言葉を、私は少し考えた。

 その言葉を選んだのは、たぶん、他に言い方がなかったからだと思う。


「痕跡は」


 団長さんが、隊の人に聞いた。


「この周りに、十以上あります」


「新しいのか」


「新旧、混じっています。──ここへ来て、しばらくいて、それから離れた形です」


「集まっているのか」


「そう見えます」


 私は、その話を聞いていた。

 聞きながら、六角形を見ていた。

 見ていて、一つ、気づいたことがあった。


 真ん中の一つだけ、色が違う。


 他は灰色で、その一つだけ、少し白い。白いというより、青みがある。

 その一つの周りだけ、土が湿っていた。

 朝の露かもしれない。他のところは乾いているのに、そこだけ湿っている。


「あの」


「なんだ」


「真ん中の、これ」


 私は、指した。

 団長さんが屈んだ。屈んで、見た。


「──色が違うな」


「湿ってます」


「そうだな」


 その人は、そう言って、立ち上がった。


「触るな。誰も触るな」


「はい」


「木で囲え。印をつけろ。──場所を、正確に記録する」


 隊が動きはじめた。

 私は、そこに残っていた。

 残って、その六角形を見ていた。

 見ていて、変な感じがした。


 怖いのとは違う。気持ち悪いのとも違う。

 なんだろう、と思った。


 思って、自分の喉に手をやった。

 熱くない。


 熱くないのに、何かがあった。あるような気がした。


「ナナセ殿」


 団長さんの声だった。


「はい」


「戻るぞ」


「あの」


「なんだ」


「もう少し、見てもいいですか」


 その人は、少し黙った。


「理由は」


 私は、考えた。

 考えて、正直に言った。


「分からないです。でも、何かある気がします」


「気がする、か」


「はい」


 その人は、隊のほうを見た。

 見て、それから、言った。


「四半刻だ。二人残す」


 その人は、そう言って、窪地を上がっていった。

 上がる途中で、一度、こちらを見た。


 見て、何も言わずに行った。

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